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武器庫と父と

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 今日も何とか授業を消化して、疲れた体で帰宅した陰丸は、玄関口で使用人に呼び止められた。

「陰丸様。武器庫で御当主様がお待ちです」

「武器庫?」

 いつもなら、話は親父の部屋か、客間で行う。

 なんだってそんな訳の分からない所を指定するんだとは思ったが、陰丸は黙って武器庫に向かった。

 重たい鉄製の扉を開くと、薄暗い空間にいくつもの冷たい鉄の輝きが浮かんで見える。入口からはとても奥まで見通せないぐらい、大きな武器庫だ。

「来たな」

 暇つぶしだろう、手前の方に刺さっている武器を磨いていた親父が、鋭い目を向けてくる。

「……呼ばれたからね」

「ああ」

 父、月城夜頼との間に、雑談というものが置かれたことはない。必要事項だけを話して、それでおしまい。それだけ。

 その岩のような顔も、姉貴の前では緩んだりするのだろうか。

「日之出学園の学長が変わったのは知っているか」

「たしか、冷泉家の人だったような」

「そうだ。老いるだけ老いた無能が、発言力を持って、案の定厄介なことになった」

 父は鬱陶しそうにため息をつく。

 それからこう言った。

「お前は今年度末の学年末決闘で負けると、日之出学園を退学させられる」

「…………そんな」

 心当たりがないわけではない展開に、陰丸は思わず額を抑えた。

 冷泉氷人が、確かにそんなことをほのめかしていたような気がするけれど。まさかそこまで直接的に繋がるなんて。

 ゆらゆらと不自然に影をうごめかせながら、父は続ける。

「その無能―冷泉氷老と言うが―の主張はこうだ。退魔士としての適性に欠く者を卒業させるのは国益にそぐわない。故に国立の教育機関として、推薦入試の取りやめ及び、悪質な学生の排斥に乗り出す」

「それで、学年末決闘……」

「わかりやすい構図だ。しかも恰好の対象もいる。『身体強化も使えない愚図を、在籍させても意味がない』と言うことを知らしめるには格好の対象がな」

 揺らめく影が矢印の形になって、陰丸を指す。

「……愚図と言うなよ」

「まあ、氷老は退魔士としては無能の極みだったが、言いたいことはわかる。俺も愚図が退魔士としてのさばるのは反対だ。……ただ、冷泉家に月城家が虐げられるなど、癪に触って仕方がない。そこでだ、陰丸」

 陰丸の言葉を無視して、夜頼は後ろを指さした。

「後ろにある武器、どれを使ってもいい。必ず勝て」

 そこには、オーソドックスな日本刀から、どう使うのかわからない棘付き鉄球まで、多種多様な武器が揃っている。

 全部一級品、国宝級もゴロゴロある。

 半分は夜頼をはじめ歴代当主たちが収集してきたもので、もう半分は月城夜子に献上されたものだった。

「使えって言われても」

「これだけの得物を貸し出すんだ。当然、負けた場合の咎もある。退学後のお前の進路は農夫に確定だ」

「…………ふざけんな」

 陰丸は固まる。夜頼の言っていることが滅茶苦茶すぎて。

 武器の格は、退魔士適正の格に比例する。最底辺の武器すら『宣言』で弾かれるのに、一級品を陰丸が使えるわけがない。

 なので、つまり。

「俺に一生、負け犬として過ごせってことかよ」

 農夫自体は、城塞国家・日輪の最もポピュラーな進路の一つだ。常に食糧難と添い寝しているような国だから当然と言える。

 ただ、退魔士志望、国立日之出学園を中退させられた農夫だと話が違う。

 手の届かない上流層の人間が落っこちてきたようなもので、名家が失態を犯せば蹴り玉にされ、そうでなくても陰口や憐憫の嵐は確定だ。

 無能の烙印は永久に消えやしない。

「衣食住は保証する。お前は農夫として働き、子を成して次代に繋げろ。良い役割分担じゃないか。夜子が名声を、お前が世継ぎを担当する」

「……この、どこまで」

「何か文句があるか?」

 ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり、と刃物を擦り合わせるような音がする。

 夜頼の影が蠢いて、陰丸を取り囲む。幾百もの切っ先がわずかに地面から突き出ていて、陰丸は強く拳を握り締めた。

「………ありません」

「では話はこれで終わりだ。自分に合う武器を探しておけ」

 そして去り際、親父はさらりと呟いた。

「学年末決闘のお前の相手は、冷泉氷人だ」

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