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【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第六章 混血の姫と六妖刀編

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神桜島大決戦 其の十一

「ん、なんだあれ……。なんか盛り上がったところに人影があるぞ」 


 デオンザールが指差す場所には、魔物らしき骨の小さな山があり、その上には二人の少女が嬉々として会話している様子が見える。

 少女たちはデオンザール、ペディストル、ミカゲ、ゴンジュウロウの四人に気づくと顔を見合わせ、ニコリと笑って骨の山から下りてきた。


「ねえねえ、邪桜骨(ジャオウコツ)。新しいおもちゃが来たよ。今までと違って、いっぱい楽しめそうだよ」

「そうだね、邪桜骨。新しいおもちゃが来たね。さっきまでは退屈だったけど、楽しい遊びになりそうだね」


 クスクスと笑う少女たちの年齢は、おおよそ7~8歳程度。神桜麗月が双子で現れると言った通り、外見は瓜二つ。淡い黄色の髪で長さがロングかショートでしか見分けがつかない。


「はぁ……」

「デオンザール殿? どうかしたのか?」


 敵を前にして頭を掻きながら溜め息を吐くデオンザールにミカゲが声をかける。


「気にしなくていいよ。敵がガキんちょで戦いづらいってだけさ。しかも女児ときた」

「おっさんとかが相手なら遠慮なく、ぶん殴れたんだけどな……。まあ、ちゃんと仕事はするけどよ」

「ハハッ! おっさんって、君も見た目は似たようなものじゃないか!」

「んだと! 俺はまだまだ若ぇよ! というか歳の話なら、お前やバエルの方が圧倒的に上じゃねぇか!!」


 分かりやすい挑発をするペディストルと、簡単に乗るデオンザール。お世辞にも敵が目の前にいる状況でする、やり取りではない。


 デオンザールたちのやり取りを黙って見ていた少女たちは、二人に対して若干の不快感を覚えていた。


「ねえねえ、邪桜骨。あの人たち、私たちがいるのさぁ、とてもくだらない話をしてるよ」

「そうだね、邪桜骨。私たちがいるのに無視して、物凄く舐められてる感じがするね」

「おや、気に障ったかな? だとしたら悪かったね。けど、僕は意地の悪いやつでね。君たちみたいなガキんちょ共――おっと失礼、可憐な少女たちが相手でも謝罪する気はないんだ。アハハ!」


 ペディストルは煽る標的を変えた。爽やかな笑顔を見せ、少女たちを小馬鹿にするような態度で挑発する。

 悪びれる様子など微塵もないペディストルだが、こんなのは平常運転で日常茶飯事。これに関してはデオンザールは特に何も言わなかった。


「「…………」」


 安い挑発だろうが、デオンザールなら確実に乗る。しかし、少女たちは違うようだ。不愉快な顔を見せているが、感情的にはならない。そんな彼女たちを見て、ペディストルは表情を崩さずに胸の内で「なるほどね」と呟く。


「どっかの脳筋馬鹿とは違うようだ」

「おい、それって俺のことか?」

「他に誰が?」

「……ッ。はぁ……もういいや。お前と口喧嘩するために来たわけじゃねぇしな。四対二っていうのも大人げない気がするが、俺たちの仕事は妖刀の討伐。さっさと片付けようぜ」


 戦闘態勢に入るデオンザールだが、少女たちは武器も構えず手で口を隠してクスクスと笑っていた。

 妖刀と言われているだけあって何か変わった能力の一つや二つあるのだろう。故に余裕から見られる笑いかと思ったが、ペディストルは自分たちに向けられた殺気に気づく。


「なんだ? 随分と余裕そうじゃねぇか」

「デオンザール! 今すぐミカゲ(かのじょ)を抱えて右に飛べ!」


 ペディストルは、よく小馬鹿にしてくるし、気に食わない部分も多くあるが、嫌悪しているわけではない。

 自分と違って圧倒的に頭の回転が速いし、戦況も冷静に分析できる。頭脳戦なら勝てる気がしない。口にしたことはないが、自分にはないものを多く持っていて羨ましく思うこともあった。


 だから、そんなペディストルが大声を出してまで無意味な指示はしない。そこには必ず何か意味がある。


「おし、わかった。悪いな、失礼するぜ」

「デオンザールど――のッ!?」


 同僚を信頼しているからこそ、デオンザールは余計なことは聞かず、素直に指示通りミカゲを脇に抱えて右へ飛ぶ。同時にペディストルも左へ飛ぶと彼らの間に大刀(だいとう)が振り下ろされた。


(こういう時はホント役立つなぁ。女の体躯とはいえ、大太刀と甲冑を身につけてるミカゲを抱えて飛ぶなんて僕の細腕じゃできないし。それはそうと――)


 大刀が振り下ろされた地面は亀裂が広範囲に広がり、深く抉られていた。言うまでもないが、これは明確な殺意を持って自分たちに振り下ろされたもの。


 この場には四人と妖刀しかいない。近くに他の生物の気配もない。そして、攻撃されたのはペディストル、デオンザール、ミカゲの三人。


「これは……どういうつもりだ! 答えろ、ゴンジュウロウッ!!」


 怒気を含んだ声でミカゲがゴンジュウロウに問う。

 何かしらの力で操られているのであれば、敵の術に容易にかかるなど同じ五剣として情けないが、まだ良かった。

 だが、ミカゲの目にはゴンジュウロウが操られ、自我を失っているようには見えなかったのだ。


「どういうつもりだぁ? ミカゲよぉ、見てわかんなかったか?」

「ああ、己の意思で私たちに向けて剣を振った。これは明確な裏切り行為であり、敵方へ寝返ったこと以外はな」

「おいおい、わかってんじゃねぇかよ。そうさ、俺は神桜麗月の陣営に寝返った。つまり、俺はお前らの敵だ!」


 ゴンジュウロウは薄気味悪い笑顔を浮かべて答える。

 

「……いつからだ? いったい、いつから……」

「島の連中を避難させてる時に声が聞こえたんだ。お前には声が聞こえなかったか? 神桜麗月が「力を与える代わりに自分の駒になれ」って言ってきてな。俺はなぁ、ずっと力が欲しかったんだ」


 でも、唯一使い手のいない妖刀を手に入れる資格はゴンジュウロウにはなかった。身近にオウキの百鬼桜(ヒャッキザクラ)があったが、奪うなんて到底不可能な話。


「だから、神桜麗月の誘いは僥倖だった。今までずっと喉から手が出るほど欲していた力を神からもらえるんだ、断る理由はないだろ?」

「……それで、寝返ったのか……?」

「この力があれば、我慢していたもの全て手に入れることができる! オウキの首を取って俺が大和の将軍に君臨するのも夢じゃねぇ! ガッハッハッハ!!」

 

 一人気持ちよく高笑いするゴンジュウロウを見て、ミカゲは心の奥底から憤慨する。


 ゴンジュウロウは神の言葉を受け入れ守るべき大和(くに)を裏切り、共に研鑽を積んできた五剣(なかま)を裏切り、そして敬愛する主君(オウキ)を裏切った。


 その事実は彼を斬るには十分な理由であり、何よりオウキの首を取るという発言は驕りによる世迷言だとしても決して看過できないものだ。


「……デオンザール殿、ペディストル殿。申し訳ないですが、妖刀はお二人に任せてもいいですか?」

「流れ的にそうなるよね。僕は別にいいけど、デオンザールはゴンジュウロウの方が戦いやすいんじゃない?」

「まあなぁ。けど、これは大和の問題でもあるだろ? ミカゲの気持ちもわかるし、部外者が割り込むのもどうかと思うからな。ここはミカゲに譲るぜ」

「お二人とも、かたじけない」


 鞘を抜き、ミカゲは大太刀を構える。

 既に決別は済ませた。共に過ごした日々や思い出が蘇ろうとミカゲの決意は揺るがない。己がすべきことをオウキに代わってやるのみ。


「裏切り者に慈悲はない。覚悟しろ、ゴンジュウロウ!」

「来いよ、ミカゲェ! まずはテメェでこの力を試してやる!」






 ミカゲがゴンジュウロウのもとへ向かったのを見届け、ペディストルは彼女たちに向けていた視線を妖刀たちに戻す。


 ここまで敢えて妖刀たちに背中を見せて攻める隙を与えていたが、残念ながら誘いに乗ってこなかった。

 当然警戒も理由としてある。ただ、ミカゲたちのやり取りを見て楽しむために余計な茶々は入れたくなかったという理由の方が強かったのだろう。


「なあ、ペディストル。ちょっと気になったんだけどよ。ゴンジュウロウが裏切ったこと、こっちの神桜麗月は気づいてたと思うか?」

「気づいてたらゴンジュウロウ以外の僕たち三人に伝えてるか、あの場でゴンジュウロウを拘束あるいは始末するように言ってるよ。だから、これはこっちの神桜麗月も想定外だろうね」


 妖刀を発見するまで共に行動していたのは、戦っても戦力差で圧倒的不利。だから妖刀と合流した時に、自身の裏切りを明かした。


 ペディストルは、ゴンジュウロウはデオンザールと同じタイプと思っていた。『聖魔女の楽園』で作戦会議をしていた時点で既に寝返っていたのだから、ここまで殺気を隠し続けたことに敵ながら感心する。


 とはいえ、敵が二人――厳密には一本だが――から三人に増えただけ。やることは最初から何一つ変わらない。


「君たちが余裕そうにしてたのは彼が裏切るってわかってたから?」

「クスクス、そうだよ。まあ、私たちが強いっていうのもあるけど、これで三対三――あっ、二対二か。あのおじさんは、あのお姉さんと戦ってるし」

「クスクス、そうだね。でも、あのおじさんも馬鹿だよね。お母さまから力を貰っても、結局使い捨てられるだけなのにね」


 最終的にはそうなるだろうなと思っていたが、憐れむことはないだろう。ゴンジュウロウの末路など、ペディストルにとって道端に転がる石ころと同じくらいどうでもいいことだから。

 

「ところで君たち――えっと、邪桜骨って言ってたっけ」

「「うん、私たちの名前は“悪姫(アッキ)邪桜骨(ジャオウコツ)” 私たちは二人で一つ。短い間だけどよろしくね。大きいおじさんと意地悪なお兄さん」」


 声を合わせ、可愛らしく挨拶をする邪桜骨。ただ、彼女たちの手には、可愛らしさの欠片もない人間の背骨を引き抜き、それを真っ直ぐ伸ばしたような異色な刀が握られていた。


「ふーん、なかなか個性的な刀だ」

「なんか(のこぎり)みたいだな。俺の鍛え上げられたこの肉体には通用せんが。そんじゃあ、ペディストル。お前はどっちの嬢ちゃんとやる?」


 正直どちらを選んでも能力的なものは同一か、然程差はないだろう。どちらか一方が極端に強いというわけでもないだろうし。

 そうなるとあとは好みの問題だが、これもまたペディストルからすればどうでもいい。そもそも敵に好みなどあるわけない。


「そうだなぁ……」


 悩んだ末にペディストルが答えを出す。


「じゃあ、生意気そうなガキんちょは任せるよ」

「おう、じゃあお前は生意気そうじゃない方を――」


 デオンザールは途中で言葉を止める。なぜなら二人の邪桜骨を見比べても、デオンザールには髪の長さ以外は二人とも全く同じに見えたからだ。


「……ペディストル。お前、生意気そうなガキんちょって言ったけどよ。俺の目には、どっちも生意気そうなガキんちょに見えるんだが……」

「大丈夫、心配しなくても君の目は正常だ。僕の目にも生意気そうなガキんちょが二人映ってる」


 つまり、ペディストルはデオンザールに全て任せるということ。だが、ペディストルも面倒だからデオンザールに丸投げするわけではない。本音を言うと丸投げした気持ちではあるが。


「おい! それってお前はサボるってことか!?」

「サボるとは酷いな。適材適所だよ。というか、僕たち相性悪いだろ? 僕に相手を選ばせるくらいなんだから、さすがの君もわかってる。違うかい?」

「そ、それはそうだけどよぉ……」

「君と僕が上手く連携して戦うなんて無理とまでは言わないけど、結局僕が君に合わせる羽目になる。そして、それは僕がかなり疲れる」


 ペディストルは死の最上級精霊。彼には、あらゆる生物を死に至らしめる力がある。その力を邪桜骨に当てさえすれば、倒すことができるだろう。

 

 だが、もしそれが邪桜骨ではなくデオンザールに当たってしまったら。

 デオンザールは稀にペディストルにも予想できない動きをすることがあるため、かなり気をつかう。それなら最初から任せた方がいいと考えたわけだ。


「だからって、俺一人で二人相手するのは――」

「いいじゃないか。手柄を独り占めできるんだ。それに君、今()()()()()()()()()()()よね。完全に入ったら君を止められるやつなんて、それこそ神桜麗月くらいしかいないんじゃない?」

「お、お前がそこまで評価してくれてるのは嬉しいけどよぉ」


 予期せぬ誉め言葉にデオンザールは照れながら頬を掻く。


「というか、お前の得意技使った方が早く終わるんじゃね? ミカゲの意を汲んで行かせた手前、こんなこと言うのもどうかと思うが、それならゴンジュウロウもまとめてやれるだろうし」


 確かにデオンザールの言う通り、ペディストルの技を使えば、簡単に戦いを終わらせることができるだろう。

 しかし、ペディストルは『聖魔女の楽園』での神桜麗月の言葉と邪桜骨本人の言葉から推測して、邪桜骨は殺すには少し準備が必要だと踏んでいた。


「ゴンジュウロウはいけるけど、妖刀は多分無理。神桜島を死の大地にしていいなら別だけど」

「あぁ……そりゃあ駄目だな」

「でしょ? 僕だってしたくないし、そんなことしたらリリィが悲しむ。そういうわけだから頼んだよ」


 あっさり否定され、詳しい説明もないまま任されて納得いかない部分はあるが、ペディストルのことだから何か策があるのだろうと仕方なくデオンザールは駆けだしたのだった。

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