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【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第六章 混血の姫と六妖刀編

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神桜島大決戦 其の十二

「おいおいミカゲェ! さっきまでの威勢は何処へいったぁ!?」


 裏切り者のゴンジュウロウと一騎討ち。絶対に負けられない戦いなのだが、戦況はミカゲが防戦一方だった。 


 ゴンジュウロウとは模擬戦で何度も戦っている。戦績は男女の体格差というハンデがありながらミカゲが勝ち越していた。

 しかし、それは神桜麗月から力を貰う前までの話。明らかにゴンジュウロウの身体能力が上がっている。そして、もう一つ目立つものが――


(ゴンジュウロウの背後に浮かぶ泡のような球体……)


 成人男性の握り拳程度の複数の透明な球体。軽く触れただけでも破裂し、そこからガスと思われるものが空気中に放たれる。これが厄介なこと極まりない。

 

 元々ゴンジュウロウが持っていた能力ではないことから、当然ミカゲも警戒していた。

 しかし、ゴンジュウロウは泡を自在に操ることができ、巧みな操作でミカゲの大太刀に触れ、誤って泡を割ってしまった時に少量のガスを吸い込んでしまう。


 その時は数秒の麻痺で済んだが、もし大量に吸い込んでしまえば、完全に身動きが取れなくなるだろう。

 幸いにも長時間残留することはないが、麻痺以外にも効果があるかもしれないし、より警戒を強めなければならない。


(チッ……あの泡さえなければ……)


 泡がある以上は容易に接近することはできない。出せる泡にも限度があればいいのだが、そういうわけでもない。破裂しても即座に補充される。


 そして、ガスの効果はゴンジュウロウには効かない。ミカゲが触れないように立ち回っても、近付けばゴンジュウロウが自ら触れて破裂させる。


「近付いて来いよ、ミカゲェ! 逃げ回ってばかりじゃあ、俺を殺すなんて夢のまた夢だぜぇ!」


 そうやって煽り、挑発して間合いに踏み込ませるつもりなのだろう。

 そんな安い挑発に乗るミカゲではない。ただ、間合いに入らなければゴンジュウロウにダメージを与えられない。それは覆らない事実だ。


(やはり、あの泡が厄介だ。あれに余計な神経を使ってるせいで思っている以上に体力の消耗が早い。このままでは、さすがにこちらの体力が先に尽きる)


 向かってくる泡を回避しながら、ミカゲは対応策を練る。


 今一度確認のために大太刀に魔力を纏わせ、それを勢いよく飛ばした。

 飛来する斬撃に反応してゴンジュウロウは複数の泡を向かわせて盾にする。魔力によって可視化された斬撃は泡に命中。破裂音と共にゴンジュウロウの周りにガスが撒かれる。


「いくら遠くから斬撃を飛ばそうが、俺に毒は効かねぇし、泡は無限に出せる! お前のやってることは無意味なんだよ!」


 そんなことはミカゲも承知の上だ。それでもミカゲは遠距離から斬撃を飛ばし続ける。

 

「チッ……。無意味だが、ちょこまかとウゼェなぁ!」


 ミカゲが使っているのは、刃長四尺の特注の大太刀。大太刀を使うからこそ、俊敏な動きと自在に扱うための体力が求められる。

 無論、そのための訓練をミカゲが怠っていることはない。大太刀を持っていても機動力はミカゲの方が上だ。


 己の機動力を活かしてゴンジュウロウに斬撃を放つ。

 大半の斬撃は泡によって防がれるが、何発かはゴンジュウロウに命中する。しかし、命中はしたものの、ゴンジュウロウ自身の防御力も相まって傷は浅い。


 更にゴンジュウロウが生み出せる泡には、ガスを放出するもの以外にも種類があるのが確認できた。斬撃で生じた傷に泡が被さり癒している。


「……やはり直接斬らなければならない、か」


 大太刀の利点は、破壊力と攻撃範囲の広さだが、何も身体を真っ二つに斬る必要はない。方法は何でもいい。刃先が心臓へ達すれば勝利を掴むことができる。

 結局自分から向かう形になってしまったが、元より選択肢はなかったのだろう。


「ふぅ……すぅぅ……ッ!!」


 ミカゲは大きく息を吸い込み、呼吸を止めてゴンジュウロウに向かい駆け出す。

 

「ようやくまともに戦う気になったか!!」


 ゴンジュウロウは泡でミカゲの接近を阻止しようとする。対するミカゲは泡が目前に迫っても避けようとしない。そのまま真っ直ぐ突き進むつもりだ。


 泡が身体や大太刀に接触して破裂し、中に溜められた毒ガスが放たれようが吸わなければ関係ない。ゴンジュウロウが狼狽えている隙に斬る――はずだった。


「…………?」 


 ミカゲは泡の向こうにいるゴンジュウロウと目が合った。

 そこに焦りや動揺は一切なく、気味の悪い不敵な笑みを浮かべている。まるで、最初からこうなることを予期していたかのように。


 この泡は今までと何かが違う? そう思った時には遅かった。


「ぐっ……!!」


 目前に迫っていた泡は、ミカゲに接触するよりも前に大爆発を起こした。ゴンジュウロウは毒ガスが入った泡ではなく、今まで戦闘中に一度も見せなかった泡の爆弾を放っていたのだ。


「ダッハッハッ! ミカゲよぉ、俺が生み出せる泡は毒ガスと治癒効果があるものだけと思ったんだろ? だから真っ直ぐ突っ込んできた。でもザ~ンネ~ン! 俺にはもう一種類、泡の爆弾を生み出せるのさ!」


 勝ち誇った顔で悦に入るゴンジュウロウ。

 爆発による黒煙でミカゲの姿は見えない。だが、至近距離で爆発を受けたのだ。この程度でミカゲが死ぬとは思わないが、確実に致命傷は負っている。

 

 間違いなくミカゲは泡が爆発するとは思っていなかった。防御は間に合っていないだろう。仮に間に合っていたとしても無傷というわけではない。


「奥の手っていうのは、ここぞという時まで隠すものだ。爆発をもろに受けて身体は限界だろ? ここからは、お楽しみの時間だ」


 勝利を確信するゴンジュウロウは、地に伏しているであろうミカゲの姿を見るために黒煙の方へ近づいた。――だが、それが慢心だということにゴンジュウロウは気づいていない。

 

「随分と……楽しそう、だな……?」

 

 人影らしきものが黒煙の中でゆらりと動く。そして聞き覚えのある声と同時に折れた大太刀が黒煙を裂き、ゴンジュウロウの胴へと向かった。


「なっ……!?」


 油断により生まれた動揺はゴンジュウロウの動きを鈍らせたことで、ミカゲが振るった大太刀がゴンジュウロウの身体に届く。

 しかし、ゴンジュウロウも簡単には命を奪わせてはくれない。咄嗟に身体を逸らして深手を負うのを避けた。


「……仕留め、損なったか……」

「今のは焦ったぜ。生きてはいると思ってたが、まさか反撃する力が残っているとはな。けど、その様子だと立ってるのも、やっとみたいだなぁ!」


 ゴンジュウロウの言う通り、ミカゲは満身創痍だ。

 至近距離の爆発を受け、全身はボロボロ。特に左腕は爆発を防ごうと前に出したことで、火傷も相まって動かすのも困難。大太刀を握る右手も力が入らず、先の一撃で全ての力を出し切ったといってもいい。


 その大太刀も元の長さの半分以下にまで折れ、身に纏っていた甲冑も半壊し、絶望的状況へと追い込まれた。

 そして、追い打ちをかけるように更なる絶望がミカゲを襲う。


「げほっ……」


 胃の中から何かが込み上げる。耐えられずミカゲはそれを吐き出すと地面は真っ赤に染まった。夥しい量の血は止まらずにミカゲの口から流れる。


 吐血は毒ガスによるものだ。毒ガスは無色で目を凝らしてようやく視認できるものだったが、今周囲に残留している毒ガスが霞む視界でも、しっかり視認できるほど濃度が高い。


「ごほっ、ごほっ……」


 毒ガスによる影響は他にも出る。正常だった視界は右半分が赤く染まり、大量の出血で意識が朦朧とし始める。脳が逃げろと身体に危険信号を送っても身体は言うことを聞かない。

 

「お前の判断は間違ってなかったぜ。ツバキやリリィが使う魔術を、お前も使えたなら俺に打つ手はなかった。けど、そんなものお前は使えないから俺を斬るには近づかなきゃならねぇ」

「ごほっ…………」

「ミカゲ、辛いだろ? 血が止まらねぇもんなぁ。今俺はお前の生殺与奪の権を握っている。生かすも殺すも俺次第だが、助けてやらんこともないぞ?」


 呼吸も浅くなり、いよいよ己の死が近付いているのがわかる。そこへ救いの手を差し伸べられたら掴んでしまうだろう。


 ミカゲは、ゆっくりと顔を上げてゴンジュウロウの顔を見る。霞んで鮮明に見えないが、変わらず不愉快な顔をしているのだろうと雰囲気でわかる。


「俺はお前の身体を蝕む毒を解毒する術を持っている。生きたいなら解毒してやるが――その代わり、オウキを裏切って俺につけ」


 我が身可愛さに主君を裏切れと。そんなことだろうと思った。予想通りの二択すぎて呆れを通り越して笑えてくる。ゴンジュウロウも答えのわかりきった質問だと。


「馬鹿が……誰が、お前の下に、つくか……! お前に、忠誠を誓うくらい……なら、死んだ方が、マシだ……!」

「だろうな。けど、俺は本気だぜ? お前は面と腕は良い。そういうやつは側に置いておきてぇ」

「…………」

「ついでに夜伽の相手も……いや、それはねぇな。面は良くても、お前みたいな傷だらけで硬そうな身体とヤるなんて萎える気しかしねぇ。他の女に飽きたら考えてもいいが、ヤるならツバキみたいな柔肌で胸のある女がいいな。そうだ、瀕死のオウキの前で犯すのも悪くねぇ!」

「――ッ!!」


 不愉快極まりない下種な発言は、限界を迎えていたミカゲの身体を動かす燃料となった。


 既に壊れかけているのだ。今更気をつかう必要などない。

 怒りで生まれた力を足に溜めて解き放ち、ミカゲは血反吐を吐きながらゴンジュウロウへ突進する。

 

 しかし、どれだけ怒りに身を任せようと身体が限界を迎えている以上、当然動きは悪く、ゴンジュウロウは左半身を引いて簡単に避けた。足元がおぼつかないミカゲは勢いそのままに地面へ転倒する。

 

「そんなに夜伽の相手から外されるのが嫌だったのか?」

「ゴンジュウロウ、お前……ろくな死に方……しないぞ……?」

「ハッ、今にも死にそうな奴が何言ってる。まあ、お前が俺につく気がないのはわかってた。オウキを裏切らないなら殺すだけだが、死ぬ前に一仕事してもらおうか」


 大刀を片手にゴンジュウロウが近付き、ミカゲの右腕を掴み持ち上げる。


「ぐっ……何、を……」

「俺は俺の邪魔をするやつを全て殺す。無様に命乞いをするなら温情で奴隷として生かしてもいい。けどな、アイツだけは命乞いをしようと必ず俺の手で殺す!」


 余程憎んでいるのかゴンジュウロウの感情が剥き出しになる。その拍子で力が入ってしまったのだろう。ミカゲの耳に骨が砕ける嫌な音が入り、激しい痛みが右腕から全身へ走った。


「ぐあああぁっっ……!」

「おっとすまん。つい力が入っちまった。けど、元々四肢を斬るつもりだったし、折れたところで関係ねぇか。そんじゃあ、まずは右腕を貰うぜ!!」 

「…………」


 右腕を斬り落とすために迫る大刀。一瞬で終わるはずなのに、ミカゲの目には、それがゆっくりと見えた。


 デオンザールやペディストルに助けを求める? 大声を出す力も残っていないし、呼べたところで距離がある。駆け付けてくれる前に右腕を失うだろう。


(お二人には申し訳ないことをしたな……。私が我が儘を言わなければ、こんなことには………ふっ……今更だな……)


 悔いは残る。裏切り者のゴンジュウロウを討てなかったこと。そして、己の弱さと不甲斐なさに怒りも覚える。この怒りを更なる力に変えられたら、どれだけ良かったことか。


(オウキ様、ツバキ様……申し訳ございません……ミカゲはここまでのようです……。私の死を知った姫様は泣いてしまうだろうか……。泣いてもらえたら嬉しいが、私のせいで泣かせてしまうのは、嫌だな……)


 走馬灯のように今までの思い出が頭をよぎる。

 五剣に選ばれた時は、努力が報われた最高の瞬間だった。

 笑いあった仲間との日々。辛くても仲間と共に乗り越えた修行。他にもたくさん思い出がある。退屈しない毎日はミカゲにとって一生の宝物だ。


(……最期に出てくる顔は誰かと思えば、()()とはな……。お前のその笑った顔を見ると、私もつられて笑ってしまうよ……)


 最初は飄々とした奴で、五剣という名誉ある称号を与えられた自覚があるのかわからない男だった。

 だが、実際に剣を交わして、そいつは五剣の名に恥じない強さを持っていた。しかも、まだ自分たちには見せていない力があるのだろう。


(別行動すると言ったが、どこで何をしているのやら……。どうせなら……お前が隠している力、見せてほしかったな……)


 叶わぬ願いを胸に秘め、ミカゲは目を閉じる。


 ――しかし、まだ運は彼女を見放さなかった。


(……なんだ、あれは……)


 小さいが何かがこちらに向かって走ってきている音が聞こえる。それを耳にし、ミカゲは閉じた目を開いた。


 デオンザールでもペディストルでもない。はっきり顔は見えないが、紅色の髪の少女が近付いてきている。そして、ある程度近付いたところで、こちらに向かって飛んできた。


「だ、誰だ!?」

「まずは顔面に、いっぱぁぁぁぁぁつ!!」


 少女は、力いっぱいに拳を振るう。その拳はゴンジュウロウの顔面にめり込み鼻を折った。


「がはぁっ!」


 殴られたゴンジュウロウは反射でミカゲを掴んでいた手を離して鼻を抑える。強烈な痛みに耐え、辛うじて倒れずに済んだ。抑えた手は血で真っ赤に濡れている。


「ふぅん、倒れないんだ。なら次は腹にぃぃ、ズドォォォォン!!」


 間髪入れず少女は左足を踏み込み、ゴンジュウロウのガラ空きの腹目掛け、体重を乗せた拳を下から思い切り突き上げる。

 身長差は二倍近くあるだろうか。にもかかわらず、少女の膂力とは思えぬ拳に、ゴンジュウロウは宙を舞った。


「っしゃあぁ! どーよ、この筋肉達磨ッ!! 今度は綺麗にぶっ飛ばしてやったわッ!!」


 この少女は味方と考えていいのだろうか。敵味方わからずに攻撃したのなら脅威だが、味方なら後を任せたい。そう伝えたいのに足に力が入らず、ミカゲの身体は後ろへ倒れ始める。


「…………?」


 だが、結果的にミカゲが地面に倒れることはなかった。その前に誰かに支えられたのだ。

 自分の身体をを支えてくれた男の顔は、よく知っている。不思議と安心感を与えてくれる太陽みたいな、その笑顔も。


「……アカ、ツキ……?」

「おう、遅くなって悪い。けど、よく頑張ったな、ミカゲ。もう大丈夫だ! あとは俺に任せろ!」

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