神桜島大決戦 其の十
分割して投稿しているので、前話を読んでいない方は『神桜島大決戦 其の九』からお読みください。
最上級悪魔たちのおかげで、悪魔喰の意識は彼らへ向いている。
サフィーの奥の手は、準備に少々時間がかかる。最上級悪魔たちの時間稼ぎも長くは続かないだろう。
「アヤメちゃん、少し離れててね」
サフィーは『魔獣化』を、まだ上手く使いこなせていない。先程は怒りの感情が起因して、変化の兆候が見られたが、あのまま『魔獣化』を使っていれば、そう時間も経たずに暴走状態になっていた。
「ふぅ……」
まだまだ未熟な部分を反省しつつ、大きく息を吐き、大剣を正面に構えてサフィーは意識を腹部付近へ集中させ、体内にある『魔獣化』に必要な魔力を全身に行き渡らせる。
(やることは師匠との特訓の時と同じ。『魔獣化』に必要な魔力を黒色に変えるイメージで……)
行き渡った魔力は、サフィーを雰囲気を大きく変える。
黒が混ざり合ったことで髪色は蒼から濃藍に。黄色の瞳は、悪魔族と同じ緋色へ。獣人特有の犬歯や爪も『魔獣化』によって少し伸び、全体的に野性味ある姿へと変化した。
「ヨシ、いい感ジ。ちゃんと上手くできてル」
「サフィーちゃん、見た目が……」
「ウン。『魔獣化』を使うと見た目が少し変わるんダ。少しでも気を抜くと大変なことになるから気をつけないといけないノ」
サフィーは最上級悪魔たちに目を向ける。
最上級悪魔たちは悪魔喰相手に善戦しているが、それもいつまで続くかわからず、サフィーの『魔獣化』も長時間の維持はできない。故に決着をつけるなら、最短で。
「師匠! 準備デキタ! いつでも行ケル!!」
「みなさん、背中の腕の自由を封じてください!」
サフィーの言葉を聞き、グラシャラボラスは指示を出す。
「アモン! 剣でも槍でも何でもいい! 武器寄こしなさい!」
「俺にも頼むよ! とにかく頑丈なやつ!」
「最高品質のやつを渡すっすけど、ソイツに対しては関係ないんで文句は言わないでほしい──っすッ!」
アモンは自作の剣をフォルネウスとバディンに投げ飛ばす。
悪魔喰の悪魔特効は、悪魔が作った武器にも適用されてしまう。
使用した素材が最高品質でも関係ない。アモンが作った時点で、その武器は仮に新品だろうと、何年も使い回され、手入れされず放置されたものと等しい。
自分以外が作った武器を用意していれば、こんなことにはならなかったが、そもそも悪魔喰の出現がイレギュラー。こちらの世界で生まれ、自分たちが相手するなんて考えもしない。
「数秒持ち堪えることができれば十分よ!」
フォルネウスとバディンは投げられた剣を取り、各々が悪魔喰の腕に突き刺し、地面に固定して自由を封じる。
「そんじゃあ、ついでに悪魔喰にはコレをプレゼントっす!!」
アモンが【異次元収納箱】から小型の擲弾銃を取り出す。
銃口から放たれた弾に殺傷能力はなく、代わりに粘着性のあるもので悪魔喰の足元に着弾し、即座に硬化を始める。
「良い剣だけど、やっぱコイツの能力、俺たちには相性最悪……」
地面に突き刺した刀身は、悪魔喰に触れて亀裂が入り始めていた。
足止め用に撃った弾と最上級悪魔が四方に散らばって腕の動きを封じていることで、悪魔喰の動きを制限できている。
しかし、これも時間の問題。そう時間もかからず、刀身は崩壊し、硬化した粘着弾も剥がされてしまう。
「サフィー!!」
グラシャラボラスの声を合図に、サフィーとアヤメが動く。
悪魔喰は腕の自由を奪い返すために躍起になるが、それを最上級悪魔たちは許さない。
「キィシャアァァァァァァアァ!!」
思うように事が進まず、悪魔喰は奇声を上げながら子供のような癇癪を見せる。そうしている間にもサフィーたちは距離を縮めていた。
「ギギギィ……シャアァァァァァア!」
悪魔喰もサフィーたちの接近に気づかないほど馬鹿ではない。今度は大きく裂けた口の中から腕が一本、迎撃のためにサフィーたちへ向かって伸びた。
「サフィーちゃんは気にせず進むです! アレは私たちが斬るです!」
速度は落とさず、むしろ伸びてくる腕に向かってアヤメは加速する。雑念は捨てろ。今はただ、目の前の障害を斬ることだけを考えればいい。
「【大和流抜刀術 鬼桜】!!」
アヤメが繰り出した横薙ぎの一閃は、兇桜災を両断したものよりも数段威力が上がっていた。
「サフィーちゃん!!」
斬られたことで迫り来る腕の勢いが死んだ隙に、サフィーは地面を強く蹴り上げて飛び、悪魔喰の頭上を取った。
「ぐぐぅぅっ……斬れナイ……」
身を反らし、戻した際の反動も利用して地面へ叩きつけるように悪魔喰の頭部目掛けてサフィーは大剣を振り下ろす。
だが、それでも斬れない。悪魔喰は頭部に魔力を集中させて堅固なものにしているのか、思ったより刃が通らなかった。
このままでは押し切れない。反撃の隙を与えることになり、最上級悪魔たちが作ってくれたチャンスを無駄にしてしまう。
「ッ……!」
焦りが募るなか、追い打ちをかけるように嫌な音がサフィーの耳に入った。ピキリといった、何かに亀裂が入ったような音。
「蒼獣牙……」
それは聞き違いではなかった。宝物のように大事にしている大剣の刀身に僅かだが亀裂が入っている。亀裂は力を込めれば込めるだけ広がっていく。
「……っ……」
本能が告げている。
これより先に進めば、蒼獣牙は完全に壊れるが、一度引けば蒼獣牙が壊れることはない。
だが、引けば全て最初から。悪魔喰も学んでいるだろう。同じような状況に持っていける保証はない。
選ぶしかない。大事な大剣か、敵の討伐か。
「ゴメン! 蒼獣牙ッ! その代わり、コイツは絶対に斬ルッ!!」
サフィーは覚悟を決めた。
残った魔力のほぼ全てを蒼獣牙に送る。
送り込まれた魔力で蒼獣牙の綺麗な蒼色の刀身が藍色へと変わり、途中で刀身が折れないよう強度を限界まで引き上げる。
そして、もう一つ。サフィーの中に眠る“もう一つ”の力が、彼女を手助けしていた。覚悟と窮地で目覚めかけた力の正体を知るのは、もう少し先のこと。
「ドォォォォォォォリャァァァアァ!!」
「ギ、ギギィ……ギシャァァァ!!」
ピキッと再び聞こえた亀裂音。だがそれは、サフィーの蒼獣牙ではなく、魔力で硬化した悪魔喰の頭部から鳴ったものだった。
「これで、終わりダァァァァァ!!」
全身全霊をこの一振りに込めたサフィーの一撃が悪魔喰に届く。
「はぁ……はぁ……」
悪魔喰を真っ二つに両断したと同時にサフィーの『魔獣化』が解除される。
これでもまだ立ち上がるというのなら、もうお手上げだが両断された悪魔喰が動く気配はなく、少しして身体は灰のように崩れ消えていった。
「勝っ、た……ありがとう、蒼獣牙……。蒼獣牙のおかげで、勝てた……。蒼獣牙がいなかったら、勝てなかった、よ……」
無理をさせた結果、蒼獣牙の刀身は既に半分以上なくなっていた。そして、サフィーの言葉を聞いて満足したかのように、残りの刀身も崩れ落ちた。
蒼獣牙の最期を見届け、全ての力を使い果たし疲労困憊のサフィーは、その場で気を失い、ゆっくり眠りについた。





