夢の中の甘いひととき
夢の中の私たちは、大学生になっていた。いつの間にか、当たり前のような顔をして彼は私の目の前に座っていた。
「え、うちら……いつのまにか付き合ってたの?」
戸惑う私に、彼は少しだけ呆れたように、でも愛おしそうに笑って言った。
「何言ってるの。好きだよ」
ずっと、ずっと言って欲しかった言葉。現実のあの日、夕闇に飲み込まれて消えたはずの言葉が、あまりにも自然に耳に届く。私の大好きなあなたの声。
彼が用意してくれたデートプランは、驚くほど完璧だった。
私の行きたかった場所、食べたかったもの。すべてをエスコートしてくれる彼の背中を追いかけながら、私は「これこそが私の求めていた幸せだ」と確信する。
不意に、彼が私を強く抱き寄せた。
あの日、帰り道で感じた微かな感触とは違う、確かな重みと熱。彼はあの日のように私の髪に指を伸ばし、そっと耳にかけ、私の瞳をじっと見つめてくる。
そして、静かに唇が重なった。触れるはずのない彼の唇。もっと私が欲しいと言わんばかりの深いキス。
「また来週ね」
駅の改札で、彼は当たり前のように未来を約束して手を振る。
また来週。明日でも、今日でもない、ずっと続いていく未来の約束。
……そこで、目が覚めた。
カーテンの隙間から差し込む朝日は、夢の中の夕陽よりもずっと白くて冷たかった。
「また来週」なんて、私たちはもう何年も言っていない。連絡先だって、もうどこにあるのか分からない。
けれど、夢の中の彼はあんなにも優しく私を愛してくれた。
それが私の願望が見せた幻だとしても、一度でも彼に「好きだよ」と言わせることができたなら。この痛みも、もう少しだけ抱えて生きていけるような気がした。




