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#54.零ネオンと鬼嶋杏の余裕

挿絵(By みてみん)

零ネオンと小峠卑屈



零ネオンはリナ達と出会う前にはマゾ潰しと称して、

マゾ達の全財産を奪うような悪質なマゾ狩りを行っていた。

しかしそんな彼女も今では改心してリナ達の仲間となり、

Vtuber配信者としても安定して活動をしているようである。


そんな彼女が環状13駅の中で選んだのは雷電駅だった。

電の文字が自身の活動に携わる電脳世界を想起させたからだ。


同じ駅のホームには反マゾ団体の一人、小峠卑屈という男が居た。

彼は身長148cm、性癖はもちろんマゾでは無いのだが、

そのあまりに平均身長からかけ離れた体格が故に周囲からは

マゾとして扱わていた。その度に彼は激昂していた。


そんな小峠の方からネオンを発見し声を掛けて来た。


『お前がマゾ狩り女子か。お前達、マゾを食い物にしているらしいな。

 悪い事は言わんから、止めろ。マゾは消さねばならん。』


「え、何で?おっさん、マゾっぽいじゃん。

 てか、マゾじゃ無くてもマゾになれば良い体格してるよ。

 ほら、女の子が手を挙げて財布取られたら取れなくて悔しいでしょ?」


ネオンはいつの間にか一瞬で小峠の尻ポケットから財布を抜いていた。


『あっ、クソ!やめろ、返せ!!

 ふざけるな、卑怯だぞ、身長なんて関係ないだろ、返せ!!』


しかしネオンはニヤニヤしながら小峠に言った。


「え~?じゃあ、負けてくれたら返してあげるよ?

 さぁ、言ってご覧?負・け・ま・し・た、ってw」


『クッ、この・・・!!』


すると小峠の喉の奥から、手がズルズルと現れた。


「え・・・・?」


『返せ~、ソレは大切なモノなんだぁ~!!』


小峠の喉の奥からは手と共に異様な声が聞こえて来た。

それはまるで怪物のエフェクトをかけたような奇妙な声だった。


「うわ、キモ・・・ミュータントじゃん。」


『クク、ハイブリッドマゾの技術を逆輸入してな、

 私は身体中から無数に腕を生やせるのだ。』


「うわ・・・アンタそもそもがダサいのにさ、

 能力までキモいとか救えないじゃん・・・。

 せめてさ、趣味がワインとバイオリンとかさ、

 何かこう、許せる男になる努力をしてみなさいよ。」


『うるさいうるさいうるさい!!

 私の趣味は、AV女優の握手会に並ぶ事だ!!

 だが、趣味は本来自由なもののはずだろ!

 馬鹿になどはさせん!!』


そう言うと小峠は両わき腹から生やした手でネオンを捕らえる。


『よし、捕まえたぞ!!

 お前をこのまま、サンドバッグにしてやろう。』


しかしネオンは一切焦る様子は無い。


「あのさぁ、アンタダサ過ぎだわ。

 せっかく体中から出せるその手は筋力無いし、

 すぐに振りほどけるじゃん。

 とりま、コレ本当はマゾ用なんだけど、

 お前みたいな体格も心も小っちゃいヤツには有効だよね。

 ホラッ。」


そう言うとネオンはネットで購入した、

人がすっぽり入るくらいの投げ網を投げつけた。


小峠は不意を突かれて見事にそれに捕らえられてしまい、

逃げようと藻掻けばより網が絡みついて来た。


『ク、クソッ。何だコレは、外せ!

 こんなもの効かんぞ、このクソ女が!』


ネオンはつまらなさそうに網の外側から小峠に話しかけた。


「あのさぁ~、反マゾの人達って皆こんなに弱いの?

 だとしたら、皆多分退屈してると思うな~。」


『ふ、ふざけるな!!

 体のどこからも腕を生やせる力はかなり凄いだろ。

 それに、放屁をすると煙を巻き起こす能力だってあるし、

 まぁ今は屁が溜まっていないから出せないが。

 他にも色々と、たくさんの特殊能力があるんだぞ!!』


「あーなるほど、アタシが運が良いのがいけないんだね。

 ごめんね、少なくともおじさんの運の悪さからしたら、

 アタシの幸運って悔しいかもね。

 だって雑魚認定されちゃうくらいに弱々に感じちゃうんだもん。

 相性良いんだよ、逆に、アタシ達。」


そう言うとネオンは一粒のカプセルを小峠の網越しに差し出した。


「コレ、飲んだら網を抜け出せるよ。

 もち、飲むよね?だって今のアンタにはそれしか無いんだもん。」


『グッ、たとえ罠だとしても飲むしかない状況・・・。

 わかった、それを飲もう。渡せ!!』


そう言って、小峠はネオンから渡されたカプセルを飲んだ。

すると体から力が抜けて眠ってしまった。


「ま、罠っちゃ罠かな?

 とりあえずコレでアタシの勝ちでしょ。

 あまり手荒な真似はしたくなかったからさ。

 それにしたってこんな雑魚な相手はちょっとなぁ~。

 ネオンちゃんの無駄遣いじゃなくね?

 もう少し強い敵とのバトルの方が、

 アタシの本領発揮出来たんだけどな~。」


そう言いながら、ネオンは一人で周囲の客達に向けて

Vサインを作ってアピールしていた。


小峠は決して強い反マゾでは無かったのかも知れないが、

ネオンとは少々相性が悪かったようだ。

この勝利によりマゾ狩り女子側は7勝。

13戦ある中の過半数が既に白星であった。




~【鬼嶋杏とカニ男 in 石落駅】~



挿絵(By みてみん)

鬼嶋杏とカニ男



鬼嶋杏は姫川凛と共にリナ達よりも早くから駅裏でマゾ狩りを行っていた。

そんな彼女の性格は豪放磊落で気が強く、情に厚く、また脆い。


そんな彼女が戦いの舞台に選んだのは環状13駅の石落駅。

そして彼女は駅のホームで反マゾ団体の構成員をすぐに見つける。


「えーと・・・アレ、だよね?

 いやだけど、反マゾ団体ってあんなヤツばっかりなのか?」


見るとそこにはサラリーマンのようにスーツを着たカニがいた。


『マゾ反対!マゾ反対!』


「・・・何、コレ?

 いや、ツッコみとかしないよ?だって何か負けた気になるしさ。

 とりまアンタって、人間の言葉は通じるの?何か言ってるけどさ。」


『ん?お前、マゾ狩り女か。

 カニだからってバカにするなよ、挟んじゃうぞー。』


「あー、何か頭は悪そうだな。

 だけどあの鋏で挟まれたら大怪我必至だな。

 さて、どうやって戦うかな・・・。」


杏は既に冷静に戦況を分析し始めていた。

戦闘に関するセンスは仲間内でもピカ一な杏は、

こうした時の状況判断が以上に早い。

それは相手が異形の存在であるこのような場面でも

すぐにそれに適応して戦闘開始出来る胆力があった。


(とりあえず、むやみやたらに当たってもどうなるかわからない。

 まずは相手の出方を待つか。)


するとカニ男は鋏をこちらに向けて突き立てて来た。


『オラァー、死ね、マゾ狩り女!!』


しかしその攻撃の精度は非常に低く、全くかすりもしない。


「いや、避けてねーのに何で当たらねぇんだよ。

 コイツ、鋏が当たれば強いかも知れないけど、

 そもそも当てられないんじゃねーの?」


杏はカニ男の鋏を手近に落ちていたロープで縛った。

その姿はまるで出荷される時のカニそっくりだった。


「さて、と。コレでもう何も出来ねーだろ。」


しかし次の瞬間、カニ男の背中から6本の脚が出て来た。

そしてそれは杏の身体を貫いた。


「ガハッ・・・な、何・・・?」


『フンフンフーン♪カニは足10本、カニは足10本~♪』


「しま・・・った・・・カニはまだ足があったんだった・・・」


カニ男が杏の身体に突き刺した脚を抜くと、一気に傷口から血が溢れた。


「グ・・・出血が多い・・・コレはさすがにヤベぇか・・・」


その時杏は、マゾ神から与えられていた特殊能力を思い出した。

杏に付与された特殊能力は傷の治癒。

特攻に長けた彼女の特性を考えた、自らの傷口を自分で癒せる、

一人で攻防を完結出来てしまうよく練られた能力バランスだった。


(とりあえず、一旦は傷口を回復して・・・と。

 ふぅ、しかし危ねー危ねー。脚が多いのは何気に厄介だな。)


杏は次こそは同じ手にはかかるまいと、カニ男の後ろに回り込んだ。

そしてカニ男の背中から生えている6本の脚を全て折り始めた。


『グギャアァァァーーーー!!!!

 せっかく、せっかくハイブリッドマゾ技術を応用して

 こんな姿になったのに…。俺の中には、カニと人間の意識がある。』


杏はカニ男を殺してしまおうかと考えていたが、

聞き捨てならない言葉を聞いてそれを問いただした。


「おい、ちょっと待て。カニと人間の意識ってお前、

 元は人間なのか?そしてそこにカニの意識も加えられたって事か?」


『そうだ。オレは元々カニ料理が大好きだった。

 そしてカニ側の意識がオレの中に入って来た時にこう言ったんだ。

 どうせ食べられるなら、マゾには食べられたくは無いんだ、とな。

 カニ達にマゾなんていない。だから彼らは人間のマゾに食べられる事に

 非常に抵抗があるらしい。強い人間になら食べられても仕方ない。

 しかし、人間のマゾに食べられる事は屈辱らしいんだ。』


杏はそんなカニの事情を教えられても何も感じなかった。

何故ならカニだからだ。


「あっそ、それでアタシは何もしてやれないよ?だってカニだし。」


そう言いながら杏はカニ男の6本の腕を折った。

いつもカニを食べる時にはやっている事だ。

特に何の良心の呵責等も無い。


『グオォォォォーーーー、たくさんあるからと言って、

 安易に折っても良いものでは無いんだぞーー!!!!』


しかし杏はそのままカニ男に近付き、とんでもない行動に出た。


何と、カニの甲羅をベキベキと割ってしまったのだ。


「フン、アタシは喋るカニだろうが何だろうが容赦はしないよ。

 しかし何て言うか、弱過ぎねぇ?

 もう少し強いヤツを用意してくれても良かったんだけどな。

 まぁ、相手がわからないのは相手も一緒か。

 とりあえずコレで一勝、って感じかな。」


杏の勝利によりマゾ狩り女子陣営は8勝と言う勝ち越し戦績になった。

もはや全勝を狙えてしまいそうであるが、

これより先の5駅には反マゾ団体の中でも上澄みがいる可能性が高い。


しかし、マゾ狩り女子側も残りの5人は上位陣でもある。

これから先、これまでよりも激戦が予想される反マゾ戦。

マゾ狩り女子達は全勝出来るのか、それとも1勝でも落としてしまい、

そこから綻び事態は更に悪化してしまうのだろうか。

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