#52.美土路技(みとろぎ)エリカとハイブリマゾ
美土路技エリカと武者小路麗
反マゾ過激派団体に対抗する為に環状13駅に散ったマゾ狩り女子達。
自臭症かつ本当に臭い美土路技エリカは、
菊師が築いた歴史がある町の菊師駅に居た。
「う~、私一人で反マゾ過激派の相手なんて出来るのかな・・・。
今までは皆の陰に隠れて匂いを武器に出来ていたけど、
本当に一人で戦うのって初めてだから…凄く不安だよ。」
エリカは他のマゾ狩り女子メンバー達に比べれば随分と大人しい性格だ。
これまではそのあまりの体臭を武器にマゾ狩り女子の一角でいたが、
実戦と言う意味では彼女の言葉の通り今回が初めてであった。
「とは言え、やるからには何とかしないとだよね…どこにいるんだろう、
反マゾ過激派の人…。」
駅のホームを見るとそこには、蒸気を放つ大巨漢がいた。
『ふぅ~、暑い!臭い!間違いない!!』
エリカは直感的に、この男こそが反マゾ過激派メンバーだと気付く。
「あ、あの、もし間違っていたらすみません。
もしかして…反マゾ過激派の方ですか?」
『あ”ぁおぁん!?
そうだけど、何お前、まさかまさかのもしかして、
お前みたいな弱っちぃそうなヤツがマゾ狩り女子なワケ?』
「え、えぇと…ハイ、すみません…。」
『フン!外れ引いちまったぜ!
オレ様は武者小路麗。反マゾ派の硬派な漢だ!!
マゾみたいなナヨナヨしたナヨっちぃヤツ、漢じゃねぇ!!』
「ひぃっ、怖い…だけどそれ以上にこの人、臭い・・・!!」
『グフフ、気付いたか?オレ様は反マゾ派で一番の体臭を持っている。
何せ体重は300kgを優に超えてるんだからな。』
「300kg!?それは臭いわけだわ、汗の量が凄いもの・・・。
でも、私だって臭いんだから似たようなものなのかも・・・。」
エリカは麗の匂いに圧倒されながらも、自身の臭さを思い出した。
『ン?お前・・・いや、ちょっと待て。
お前、俺より臭くないか?』
「えっと…そうなの。
私は身体を洗っても病院に行ってもずっとザリガニ臭って言うか、
何故か臭くて…だから、貴方にも負けない臭さだと思うわ。」
『何ィ!?オレ様より臭いだと?
そんなヤツが居て良いワケが無いだろ!!
この国で一番臭いのはオレ様だ、お前なんかじゃない!!』
「えっと・・・でもどっちが臭いなんて決められなくないですか?」
『フン。お前、カメムシって知ってるか?
あの潰そうとすると悪臭を放つ虫だ。
だけどアイツらよ、密閉した空間に入れると自らの匂いで死ぬんだよ』
「そう、なんですか・・。気持ち悪い話ですね。
それでどっちが臭いかを決められるんですか?」
『コイツらを見ろ。マゾだ。だが単なるマゾじゃない。
カメムシの遺伝子を配合したハイブリッドマゾだ。』
「ハイブリッドマゾ!?
それって一体どういう・・・」
『まぁ、気にすんなって。このマゾと同室に入り、
先にマゾを気絶若しくは殺した方が勝ちだ。
心配すんな、コイツらは既に社会的には居ない事になってる。
だから、心置きなく殺してしまっても問題無いんだぜ、ハハ。』
エリカは非常に驚いた。
ハイブリッドマゾという存在についてを初めて聞いた事もあるが、
何より彼らは社会的には抹殺されている存在だと言うのだ。
「え、そんな・・・殺すだなんて、気絶ならまだしも・・・」
『グヘへ、別に良いんだぜ?手加減してもよ。
だが、匂いは手加減なんて出来んよな、同じ臭い者同士わかるぜぇ。
さぁ、そんな事よりも早速始めようぜ。まぁオレ様の勝ち確定だがな。』
そう言うと麗は透明の密室空間にハイブリッドマゾと共に入った。
(以下、ハイブリマゾ)
そして既に鼻を抑えて苦しむマゾを尻目にしながら、
その空間の中でゲップをして屁をコいた。
「う”、う”ばばばっばぁぁぁぁっぁーーーー!!!!!」
カメムシの遺伝子を配合されたと言うハイブリマゾは嗅覚が鋭く、
その匂いを嗅いで白目を剥いてしまった。
「あぁっ、何てかわいそう・・・。
そんな事をされたら気絶してしまうわ・・・。」
心配するエリカだったが、ハイブリマゾはまだ意識があった。
『グェッヘッヘッへ。気絶はしなかったか。
まぁしかし、コイツの苦しそうな顔を見ればわかるだろ。
これだけの悶絶する顔はそう中々拝めるモンじゃねぇぜ、へへ。』
そして次はエリカの番となった。
しかしいくら匂い対決とは言え、公衆の面前だ。
年頃の女の子であるエリカからすれば麗のような放屁やゲップなど、
出来るはずも無かった。
(どうしよう、あんな積極的に自分の匂いを嗅がせるなんて出来ないよ。
この勝負、負けちゃったら私が初の負けになっちゃうのかな。
でもダメだよね、・・・だけど、一人だけ負けたらどうなるんだろう。
こんな凄い匂いの人に、勝てるワケが無いよ・・・。)
エリカは自信が無いながらに密閉空間にマゾと共に入った。
「あ、あの、よろしくお願いします。
臭かったら・・・あ、いや、臭いと思うんだけど、ごめんなさい。」
しかしエリカはこのようなシチュエーションに強く緊張してしまい、
そのストレスから脇や大動脈、あらゆる箇所から発汗し始めた。
(あ、ヤバい、汗が凄いや・・・、でも大丈夫だよね?
放屁やゲップに比べたら単なる汗なんて大して匂うワケでも無いし。)
しかし、同室のハイブリマゾが苦しみ始めた。
「え!?もう臭いの?ごめんなさいね、まさかそこまでだとは(汗)」
エリカが焦る。しかし、焦ると更に発汗を促した。
マゾが苦しみ始めた。
(えぇえ~、そんなに臭いの?密閉した空間での私って。
だけど、まだ意識はあるみたいね、引き分けかな、この勝負。)
しかし、
しかし、徐々に痙攣し始めるハイブリマゾ。
(えぇえ〜!?
さすがにただ汗かいただけでその反応は普通に酷くないですか!?
傷付いちゃったし、ちょっとくらい意地悪しても良いですよね?)
エリカは、ハイブリマゾに口臭を嗅がせた後に
脇で顔を挟み込み完全に塞ぎ込んだ。
するとマゾは白目を剥きながらしばらくジタバタとした後に、
動かなくなってしまった。
「え…?」
『お、おいおい、マジかよ。お前、マゾを殺しちまったのか?』
「そんな、いくら臭いからってこれまで人を殺した事なんて…」
『いや、瞳孔が開いてるしコレはどう見ても死んでるだろ…
すげぇな、お前…。』
逆に敵である麗から関心されてしまうエリカ。
『カメムシですら匂いで臭殺しちまうなんて怖ぇよ。
お前、一人暮らしなんだよな?
間違っても誰かと一緒に住むんじゃねぇぞ、
匂いで殺しちまいかねないぜコレは…』
そして麗は素直に『参った』と降参した。
エリカは複雑な気持ちになりながら、
麗の口から出た『ハイブリッドマゾ』についてを問い正した。
「あの、勝ったからには教えて頂きたいのですが、
先程仰っていた『ハイブリッドマゾ』とは一体何ですの?」
『あぁ、使い道の無いクソマゾどもを役に立てる為に
色んな生物の遺伝子を注入して少しは役に立てるようになったマゾだ。
お前みたいな臭いヤツの匂いに負けない、
鼻の無いハイブリッドマゾもいるぞ。』
「え、呼吸はどうしてるの?」
『金魚と同じ、ケツ呼吸だぜ。』
「いや、金魚はエラ呼吸でしょ!?」
『まぁ、何だって良いんだよ。クソマゾ共なんてどうでも良い。
お前達はマゾ共を相手にして儲けていたらしいが、
悪い事は言わねぇ。マゾから手を引け。アイツらは碌なモンじゃねぇ』
「そう言われても、私が中心人物でも無いし私なんて下っ端だよ。
それに、マゾの人達って結構可愛いんだよ?
私の臭い匂いでも興奮してくれるし、ずっと接していたら
案外マゾの人達も悪く無いなって思えたんだ。」
「ヘっ、そうかよ。まぁせいぜいマゾで遊んでな。
あんなヤツらを商売相手にしていたらいつか痛い目見るぜ。
それじゃあ、オレはコレで行くからよ、達者でな。」
麗は後ろ手を振りながらエリカの前から姿を消して駅のホームを降りた。
エリカの心には麗から言われた事が引っかかり残った。
そしてハイブリッドマゾという存在についても気がかりであった。
更に、麗に言われた言葉『誰かと一緒に住んではいけない』。
コレが何よりもエリカの心に引っかかっていた。
現在、エリカはリナの妹の沙織と共に暮らしている。
時々「臭っ」と言われはするが、その度に「ごめん」と謝られる。
エリカからは謝らなくて良い、臭いのは事実だからと言ってあるが、
やはり沙織はこんな臭い自分と一つ屋根の下で暮らしたくないだろう。
「沙織ちゃん、やっぱり嫌だよね、こんな臭い子。
あーあ、せっかく借りたばかりだけど、家出ようかな。
やっぱりいくら可愛い服を着てメイクして肌ケアしても、
結局臭い子ってダメなんだな。
何だか…惨めだよ、ちゃんとお風呂入ってるし、病院も行って
やれる事は全部やってるのに、何なのよザリガニの匂いって。
こんなの、好きでなりたくてなってるワケじゃないのに。」
エリカは自身の匂いを受け入れている側面もあるが、
やはり好きにはなれずにいた。
しかしマゾ達はその匂いを臭い臭いと言いながらも嬉しそうに嗅ぐ。
エリカにとってはそんなマゾ達の存在が癒しでもあり救いであった。
「マゾの人達をこの世から消しちゃうなんて、絶対におかしいよ。
あんなに優しくて人を傷付ける事が出来ない人達。
反マゾの人達ってどうしてマゾの人達の事を認められないんだろう。
麗さんにその辺りの事、詳しく聞いておけば良かったなぁ。」
こうしてマゾ狩り女子達は4勝目を果たした。
しかしこれまでの4名は反マゾ派側もマゾ狩り女子側も上澄みでは無い。
これ以降の戦いの中では更に過激な戦いになるかも知れない。
何より反マゾ派団体にはどんなメンバーがいるのか未知数だ。
環状13駅を回る電車はそれぞれの運命をかき乱すかのように走り続けた。
そして次の駅では玲奈が反マゾ団体の人物を探していた。
「さて、私一人でやらなきゃなんだね。
どうやって勝ち筋を導けるかしら。」




