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#47.リナの覚悟

マゾ達に苦しめられたり迷惑をかけられたり裏切られて来た者達の魂。

それらが集合体となった怨念【ヘイト】はリナの身体を乗っ取っていた。


それが玲奈達にマゾ達をけしかけて来た。

マゾ達は玲奈達を本気で殺しに来ているようだ。

玲奈達はマゾ達を傷付けないように平和的にいなせるのか。

そしてリナの身体に憑りついたヘイトを除去し、滅殺出来るのだろうか。


「クッ、このマゾの数…こいつ等が全員アタシ達を殺そうとしてるって!?」


杏が威勢良く吠えた。

しかし窮地に陥っているのは今、マゾ狩り女子達の方だ。


ヘイトが冷たくマゾ達に命令する。


「行け、マゾ狩り女子達を殺せ。

 そいつらはお前達の事を金づるとしてしか見ていない。

 愛など持っていないんだ。殺せ、そして殺し合え。」


ヘイトの言葉の端に現れたものが、どうやら本音のようだった。

彼女はマゾ達も、マゾ狩り女子達も相打ちさせたいようだった。


それはマゾ狩り女子達がマゾに触れる度に彼らに同情の念を抱き、

何とか彼らに幸せになって欲しいと願い始めていたからだ。


「マゾも、マゾの幸せを願う者もいらない。

 ただ等しく消えれば良いんだ。

 マゾは美しくない。だから、守る必要なんて無い。」


ヘイトはマゾに対する激しい憎悪と嫌悪、あらゆる負の感情が溜まり、

マゾを絶滅させようとすら考えていた。


「フフ、しかしこの身体。

 マゾに対する深い愛情が芽生えている危ない女だったな。

 コイツの意識を封じる為に乗っ取っておいて良かった。

 もし別のマゾ狩り女子の身体に入っていたら、

 コイツの力によって浄化されてしまっていたかも知れないからな。」


何とヘイトは、リナに自身を消す程の力が秘められていると語った。

それだけに、偶然ではあるがリナの身体を選びその中で少しずつ成長し、

やがてこうしてリナの意識を乗っ取るまでに大きく成長した意識。

それは玲奈の怒りを買った。


「時々アンタが出て来るのは知ってたよ。

 その度に、リナの黒歴史ゆえの闇モードだと思ってた。

 だけど、まさか別人格だったとはね。

 アンタをリナから追い出す!リナの親友として、

 私が絶対にアンタを許さないんだから!!」


玲奈の覚悟が決まり、リナの身体に寄生したヘイトと睨み合う。

しかし、玲奈はあくまで一般人だ。怨念を相手に立ち回れるのだろうか。


リナとヘイトが向かい合う後ろでマゾ狩り女子達とマゾ達の戦いが始まる。

そしてマゾ側は本気の殺意を向けて襲って来た。


「ちょ、ちょっと!コレ、ヤバいわよ!!

 本気で殺しに来てるわ!!眼とか急所を狙って来る…本気で避けないと…

 殺されるわ!!」


綾が必死に全員に警告を発する。

マゾ狩り女子達全員が防戦一方…いや、ただ逃げ回るしか無かった。

それも本気で殺しに来ている相手からの逃走。

彼女達は息を切らしながら、ただ全力で逃げ走った。


杏が普段の不摂生を呪った。


「クソ…あんまし普段運動してねーし、電子タバコも…。

 あぁ、こんな事ならもっと肺を広げる方向でちゃんと動いてれば。

 って、今更後悔しても遅いか…。」


既にマゾ狩り女子達の状況は絶望的だ。

そしてヘイトと向かい合うリナも勝ち目が見えて来ない。


マゾ狩り女子達に向けて、マゾ神が言った。


「あ~あ~、またアタシに借りを作る気かい?

 って言っても今回ばかりは仕方ないね。

 相手がコチラを殺す気でこちらは丸腰じゃあ...分が悪いものね。」


マゾ神は、呪文を唱えた。


『マゾの壁、マゾ・ウォール!!』


すると数多のマゾ達が突然やって来て壁となり襲い来るマゾ達を防いだ。


「え、マゾ神!!

 アレは一体、何の技なの!?」


「アタシが使役するマゾ達が壁になってるのさ。

 さぁ、今のうちに逃げるよ。

 そして体制を立て直さないと。だけどあの子、玲奈。

 あの子に全てがかかってると言っても過言じゃないね。」


マゾの壁により一端のピンチは脱したものの、

玲奈とヘイトは変わらず向かい合い、睨み合っていた。


「リナ・・・本当に全てを乗っ取られてしまったの?」


玲奈が寂し気に聞いた。


「ふん、この娘の意識は長い時間をかけて少しずつ支配下に置いて来た。

 もうかなりの部分を私がコントロール出来る。

 まぁそのせいで精神的な安定を失い、時に裁判にかけられる程の

 衝動性を持ってしまうという残念な娘になったのだなぁ。

 本当に、哀れな存在だよ、早乙女リナ。」


リナのフルネームを久々に聞いた時、玲奈の中にリナと初めて会った、

あの日の事を思い出した。


~回想~


「あ、アンタ家出して来たの?

 おっと、アタシは早乙女リナ。実はアタシも家出少女でさぁ。

 まぁ、何て言うの?その、身体は売りたく無いし、

 何か他の方法でこう上手く暮らして行けないかなーなんて、

 アンタ結構真面目そうだし、そういうの嫌い?

 もし良かったら、名前教えてくんない?」


「橘玲奈よ。そうね、身体は売りたくないわね。

 どうしようかしら…。」


~回想終了~


「…リナ、早乙女リナ。アタシが街に出て一人で寂しかった時、

 初めて声を掛けてくれた優しい子。そして、私の最高の親友。

 アンタを失ったなんて信じたくない。ねぇ、リナ。

 まだ意識はあるんでしょ!?起きてよ、こんな怨念なんて、

 吹き飛ばしてよ!!アンタらしく、自分で居なさいよ!!!!」


玲奈の悲痛な叫びが辺り一面に響いた。

リナなのかヘイトなのか、リナの身体の目が見開かれる。


「・・・玲奈・・・・!!」


リナは玲奈の呼び掛けにより、その意識が表層に現れる。

しかしリナの身体の中でリナとヘイトが争っているようだ。


「ちょ、アンタ、邪魔なんだよ…クソ、出て行けよ…

 アタシの身体だっつーの!!人の身体勝手に好き放題して…

 だーもう、だったらこの身体、使えなくすればイイかぁー!?」


リナはそう言いながら近くにある建物の中に入って行った。


杏が心配そうに言った。


「何を・・・するんだ?」


玲奈は嫌な予感がしてリナを追いかける。

建物はオフィスビルだったが、リナは非常階段を素早く駆け上がる。

玲奈はそれを必死に追うが、随分と遅れてしまっている。


やがてリナは最上階に出た。


「ふふ、アタシの身体を好き勝手使いたいんならさ・・・

 もしこの体が壊れたら、どうするつもり?

 え、まさかって?ふぅん、アンタもやっぱり恐怖はあるんだ。

 知ーらない、っと。さぁ、跳ぶよ!!」


リナはビルの屋上から躊躇なく飛び降りてしまった。

それはまさに玲奈が最上階に着き、最初に目にした光景だった。


「リナ・・・!!」


息を切らしながらすぐに階下へと目をやるが、そこにはただ

無重力に身を任せて力なく落ちて行くリナの姿があった。


「リナ・・・バカ!!何やってるのよ・・・最低!!」


落ちて行く途中で、リナの身体からスゥ~っと黒い煙が出て来た。

それをリリスが捕獲する。


「や~っと出たわね。アンタみたいな怨念って悪魔の食べ物だからね。

 あんまり美味しく無さそうだけど、頂いちゃうわ。」


そうしている間にもリナは地面にそのまま激突する速度で落ち続ける。

その時、マゾ神が一声をあげた。


「マゾ・クッション!!」


するとどこからともなくマゾ達が集まって来て、リナの落下地点に集まる。

リナはその上に着地し、ドンッ!!と重い衝撃音があがる。

ベキベキッと骨の折れる音がする。玲奈は最悪の状況を想定した。


「いくらクッションがあっても、衝撃はある...最悪、死んでるでしょアレ」


しばし、沈黙の時間が流れる。

リナは動かない。

周囲はただ息を呑んで様子を見守るしかない程に狼狽している。


・・・・。


・・・・・。


・・・・・・。


やがて、空気が動き出した気がした。

その瞬間、リナが起き上がった。


「痛ってぇ~、コレ、何とか助かったの?あ、痛てて・・・。

 やっぱり、ダメージはあるみたいね。」


しかし幸いな事に、骨の折れる音は全てマゾ達のものだった。

まさに文字通り、マゾ達がクッションとなりリナを救ったのだ。


マゾ神がボソッと呟く。


「これで貸し、3つ目だね。アンタ達、ちゃんと返せるのかい?」


やがて屋上から玲奈が駆け下りて来た。

先程最上階まで非常階段を駆け上がった後で、とにかく息が上がっている。


「ハァ、・・・ハァ・・・。

 馬鹿、リナの馬鹿、もしマゾ・クッションが無かったら死んでたよ。

 ってか、クッションあっても運悪ければ死んでたよ。

 アンタ、…私と一緒に生きるんじゃ無かったの?」


「あー、や・・・ごめんごめん。

 マゾ神様いるし、何とかなるかなーってさ。

 それに、玲奈だって何とかしてくれるつもりだったでしょ?」


「馬鹿言うんじゃないわよ!!

 限度ってものがあるでしょ!!

 あんなの、いくら何とかしようとしてもどうにもならないわよ!!

 もっと自分を大切にしなさい!!」


「えへ、へ・・・ごめんね、でもありがとう、玲奈♡」


リナは玲奈の頬にキスをした。

玲奈は照れて何も言い返せなくなる。


その様子を見ながら杏が言う。


「ま、とりあえず・・・こっちは何とかなったか。

 でも根本的に、マゾを愛する人居ない問題は解決してないよな。」


しかし、マゾ神がそれに対してモノ申した。


「何だ、そんな事か。

 マゾは生ぬるい愛など望んではおらんぞ。

 あくまで支配と隷属だけだ。マゾ霊王等と言う存在は、

 どこまでも甘ちゃんなマゾどもの悪い癖が固まっただけの、

 大きな粗大ゴミみたいな存在でしか無いわ。」


何とマゾ神に言わせればあれだけリナ達を困らせたマゾ霊王は

単なる粗大ゴミだと言うのだ。


「真のマゾとは支配者との信頼関係の上に成り立つ。

 そうした人間的な繋がりを持てぬ者達が中途半端に愛を求めて

 結果的には何も得られずにあぁやって怨霊になる。

 真っ当なマゾ達からすれば迷惑な話だ。」


リナ達が巻き込まれたこの騒動は、単なるはみ出し者のマゾ達が起こした

未熟な事件だったと言うのだ。


「なぁんだぁ、何かその程度の事に命まで張って、疲れたぁ~。

 玲奈、帰って一緒にアイス食べよ?とっておきを買ってあるからさ。」


「もう、アイスなんかで私の怒りは誤魔化されないよ?」


そう言いながら玲奈の横顔は嬉しそうだった。


こうして、一連の事件は幕を閉じた。

マゾは愛されたい、それは一つの側面ではあるかも知れないが、

必ずしも全てのマゾが望む事では無いのかも知れない。


マゾ神はリナを乗っ取ったヘイトにより殺されたマゾ達の上に

先ほどのマゾ・クッションの犠牲者達を重ね合わせる事で

リナの罪を帳消しにした。


マゾとはどこまでも儚く、被虐者かも知れない。

しかしそれにより狂わされる人達も数多く居る。

マゾは、生まれ持っての人を狂わせる魔性の存在なのかも知れない。


そしてここに第二章と言うものが存在するのなら、

これをもって第二章の終幕という形になる。

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