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#20.マゾ潰しの二人

挿絵(By みてみん)

マゾ潰しの二人



マゾ狩り女子の四人は、彼女達の狩場である元いたターミナル駅に戻った。

そしてそれぞれに駅の表口と裏口へと分かれ、活動を再開した。


しかしどうにもマゾの絶対数が少ないような気がした。

そこで裏口で活動している杏と凛は周辺を調査した。

すると、意外な事が判明したのだった。


緩く繋がっている夜の街を徘徊しているコミュニティに聞き周りをした所、

『マゾ潰し』を行っている二人組が新たに現れたと言うのだ。

四人がこの町を離れている間に新たなマゾ関連の搾取者が現れた格好だ。


それは仕方の無い事なのだが、気になるのはその呼ばれ方だった。

四人が元々やっていた『マゾ狩り』は彼女達の師匠である黒木綾が始めた、

マゾ達を満足させて金銭を要求する古典的な手法だ。

しかし今回夜の街で語られるマゾ潰しはどうにも尋常では無い。


どうやらそのやり方はかなり過激であり、何とマゾの全財産を奪うらしい。

こうなるとマゾは生活の基盤を失ってしまい、もう街に現れなくなる。

再生産不可能な完全搾取により、街にやって来るマゾが減っていたのだ。


杏はイラ付きを隠せなかった。


「ふざけんなよ・・・そんな事したらマゾが減って行くだけだろうがよ。」


凛も不安を露わにする。


「マゾ達・・・いくらなんでもそれは可哀そう過ぎる。

 あの人達にだって生きる権利くらいはあるのに。」


そんな二人の目に『マゾ潰し』らしき二人が写った。


「Vtuberっぽいヤツと女装野郎・・・アイツらじゃね?」


すぐに二人はその新人達に挨拶をしに行った。


「よぅ、お前らがマゾ潰しの二人組か?」


「あ、good evening~!零ネオンだよ☆

 アタシの配信ライブ、見てくれてますか~?」


いきなり自身の配信ライブの話をし始めた彼女はどうやら

Vtuber活動をしており、自身もそのキャラクターの格好をしている。

話が通じないのは彼女の若さゆえなのだろうか。


「あー、もしかしてこの街に元々いたって言う『マゾ狩り』の人達ですか?

 悪いですけど、ボクらがこの街のマゾ達全部潰させて貰いますね。

 再生可能?なマゾとか、意味わかんないですから。

 ボク達は今だけ、自分だけが良ければ良いんですよ。

 だってそうでしょう?次の世代への持続可能性とか知らんって感じ。

 夜の街に生きる人間なんて皆そんなモンでしょ?」


彼女、いや彼は男の娘配信者の紫苑りおん。

独自の男の娘視点で夜の街を徘徊しながら配信しているようだ。


「おい、ふざけんなよ!

 この街からマゾが居なくなったら、お前らだってどうするんだよ。

 生きて行く為にはマゾ達が稼ぎ、それを頂くのがアタシ達だろうが。」


「あ~、わかってないなぁ。

 アンタ達、アタシ達よりもちょっとおばさんってカンジ?

 まぁとにかく、時代は一つでも若いアタシ達に回って来てるのだよ。

 老婆さん達はサッサと退場して下さ~い★」


おそらくはリナ達と同世代であろう二人だが、杏達もまだ十分に若い。

それでも僅か数歳差のマウントを取られて杏は怒り心頭だ。

そして彼女達はマゾ達を骨の髄までしゃぶり尽くすつもりのようだった。


「あ、マチアプでまたマゾが捕まった。行こう、ネオン。

 あと貴女達に言っておきますけど、もしこの街からマゾが消えたら?

 そりゃ、次の街に行くだけですよ。

 それでもこの国からマゾは消えないから大丈夫。

 やり方がエグい?そんなの、そもそも貴女達のやり方だって、

  一つ前の世代から見ればエグいでしょ。

 こうやってドンドン過激になるんですよ、今の時代は。」


そう捨て台詞を残して二人は行ってしまった。

杏達は街でマゾ狩りを行ったものの、金額の折り合いが付かずに

この日は低単価で捕まえたマゾ一匹が釣果となった。


~数日後~


更に別の日には、今度は表口のリナ達の所に二人が現れた。

既に杏達から連絡を受けて警戒していた二人は、新人達に近付いた。


「あ、good evening~☆

 へぇ、アンタらはこの前のおばぁさん達と違って、アタシ達と近いね。

 その制服本物?てか黒髪の方、それ進学校の制服じゃん。

 コスプレじゃないとしたら、何でこんな時間にココに居るのん?

 まさか親と折り合いが合わないとか、有りがちなダサい理由?」


早速精神的攻撃で気持ちをエグって来るネオンのやり方に玲奈が怒る。


「アンタ達の噂は既に聞いてるよ。

 マゾ潰し・・・そんなの、いくら何でもやり過ぎでしょ。

 全財産を奪われたマゾ達にだって暮らしはあるんだよ。

 加減ってものを知らないと、アンタ達いつか身を滅ぼすよ。」


しかし、それをりおんがたしなめる。


「さすがは進学校の元生徒だね。

 あ、元って言ったのはまだ籍があるとかは関係なく、

 もう通わないんだろうなって思ったから。

 進学校なんてさ、数日通わないともうただの人だよ。

 考える習慣を放棄した貴女はもう平均以下の脳みそだよ。

 それはそうとして、貴女達がマゾから巻き上げてた金額も

 世間一般からしたら常識外れな金額だよ?

 ちょっとは自分達の異常性を理解しないと同じ穴の狢だよ。

 まぁ客観的に自分達を見れないから、こんな所に落ちてるんだろうね。」


りおんの辛辣なもの言いに、リナが猛烈に言い返す。


「ちょっとアンタ!男の娘だか何だか知らないけど、ふざけんじゃないよ。

 そもそもアタシのバディの玲奈を馬鹿にしないでくれるかしら?

 杏達にも随分な事を言ったようだけど、何様なの?

 この街はアンタ達のものじゃないんだよ?

 どうして似たような暮らしをする者同士、仲良く出来ないの?」


「え、似た者同士?今、似た者同士って言った?ウケる(笑)

 何も知らない癖に、ボク達が貴女達と同じ貧困界隈だと思ってるんだね。

 言っとくけど、ボク達どっちも超金持ちだよ。

 親の金でタワマン住みだったり、配信で稼いでたりね。

 夜の街でのマゾ潰しは単なる暇つぶしだよ。

 貴女達みたいに本気で人生賭けてまでマゾで遊んでないんだよね。

 ってか人生賭けてまでやる事がマゾ遊びとか、終わってるね。」


そう言ってスマホの通知を見て「それじゃ」と離れようとしたりおんを

リナが逃がさなかった。


「おい、お前・・・ふざけんなよ・・・・。

 アタシ達がどんな思いでこの街でこうやって生きてるか、

 何もわからないで勝手な事ばかり言いやがって・・・!!

 良いよな、恵まれた人生のヤツらは・・・。

 だけどさ、アタシらだって必死に生きて、ようやく得た生き方なんだよ。

 そしてそこで本物の友情や愛情が見つかる事だってあるんだよ。」


ネオンがそれを聞いてドン引きする。


「うわ、若いクセにめちゃ説教臭いじゃん・・・。

 そう言えばあまり洗濯してないのか、服も臭いかも?

 行こ行こ、りおん。こんなの相手してたらババァ臭くなるよ。」


ネオンとりおんはそそくさとその場を逃げて行ってしまった。


「良いの?リナ。あいつら逃がしたら、また好き放題やるよ?」


「・・・ごめん、玲奈。アイツらクズ過ぎだわ。

 ちょっと呆れて何も言い返せなかった。ヒドい事言われたね。

 気にしないで良いからね、玲奈。アイツら、いつか潰すから。」


リナの瞳に黒いものが宿っていた。

それはこの街で生きて来たリナが初めて感じた感情だった。

綾や玲奈、杏達との出会いはリナにとっては救いだった。

一人で夜の街で生きると決めてから、共に生きる仲間。


だが今回やって来た新人達は共に生きる仲間では無かった。

完全なる敵。理念も共有し合えない。

このような存在に対してリナはどう向き合えば良いかわからなかった。

ただ、黒い感情が彼女の中で渦巻いていた。


「行こ、リナ。マゾを探しに行こうよ。」


こうしてマゾ狩りを始めた二人だったが、既に街のマゾ達は

彼女達が最初に提示する安過ぎる金額を参考にしており、

中々以前のようには捕まらなかった。

その金額は罠であり、最後には全て持っていかれると説明しても、

誰もマゾ狩りしている女子の話などを信じる事は無かった。


「この街は、アイツらによって潰される・・・。」


リナの微かな予感が嫌な未来を予言した。

玲奈が言った。


「綾さんに相談しようよ。

 綾さんならきっと、アイツらにガツンと言ってくれるよ。

 杏さん達だって関係してるんだし、何なら五人で対抗すれば」


しかし、既にリナはその可能性についてを棄てていた。


「良いよ、大丈夫だよ玲奈。アタシがやるよ。

 アイツら、ふざけ過ぎてる。何なら本気で、やってやっても良い。

 そうだ、もういっそアタシらの邪魔をするなら・・・」


玲奈の話を聞いているようで聞いていないリナ。

彼女の言う「やる」の意味を考えて、玲奈はゾッとした。


「リナ、何考えてるのよ、止めて。

 アイツらを消した事でリナがこの街から消えるのは嫌。

 ううん、違う。私の隣からリナが消えるのは嫌なの。

 ねぇ、お願いリナ。二人でまたこの街で頑張ろうよ。」


しかし気持ちが闇に堕ちたリナには聞こえていないようだった。

「ちょっとトイレ」と言って場を離れたリナは戻らなかった。


玲奈は綾や杏達に相談しようともしたが、今は時間が惜しかった。

彼女は一人、リナを探し始めた。


一方でリナはネオン達を見つけて、後を付けていた。

彼女達に全財産を奪われたマゾの様子もうかがい知る事が出来た。

リナはそんな全てを失ったマゾに話しかけた。


「あの、全部あの子達に取られちゃったんだよね?

 ねぇ、アイツらが憎いよね?

 アイツらさ、ヤっちゃわない?

 お礼にアタシの身体、好きにして良いよ。

 リスクあるからその分、アタシの全部あげるよ。

 悪くないでしょ、ねぇどうかしら。

 アタシ、初めてだよ?」


男はネオン達に騙された失意から最初リナを警戒した。

しかし既に自分には失うものも無く、リナの口車に乗った。


━そしてこの日リナは、大切な初めての純潔を散らした。━


男はリナが持ち歩いていた護身用ナイフを受け取った。


「今すぐじゃなくて良い。

 アイツらに隙が出来た時に、殺って欲しい。

 貴方の全てを奪ったアイツらを、アタシの大切な人を傷付けたアイツら。

 絶対に、許してはダメよ。」


こうしてリナの恐るべき計画の種が撒かれてしまった。

玲奈はリナを探して夜の街を走り周り、杏達は必死にマゾを探していた。


この日、巨大ターミナル駅周辺の夜の街は歯車が狂い始めていた。

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