#10.綾の過去
5人で焼肉パーティー
「やー、良いねぇ!!
やっぱ仲間とワイワイみたいなの、楽しいわ!!」
5人での焼肉に杏が気持ちを隠せず、大声をあげて叫んだ。
周囲もワイワイと騒がしい為、声はその中に溶けて行った。
「あ、もうアタシらって仲間って扱いで良いんだね、嬉しいな。」
リナが素直に喜びを表現した。
玲奈は優等生らしく皿やグラス、箸の準備等を甲斐甲斐しく行っている。
凛は周囲をキョロキョロとしてスマホで写メを撮影している。
綾が音頭を取った。
「はい、生一本行く人ー!!」
一瞬、4人がシーン・・・となる。
その後、おそるおそる案が手を挙げる。
「何か、綾ちゃんスベってるみたいで可哀そうだから、
アタシ生中にするわ。」
「ちょ、別にお情けはいらないわよ!?
確かに高校生もいる場でこのノリは間違えたわね。
しかも杏も凛も生中とか飲むタイプじゃないもんね?」
凛は甘い声で答える。
「私はカルーアミルクとかかなぁ。」
更に杏が続く。
「アタシは二杯目以降は日本酒にしようかな?」
「アンタら、本当キャラ立ってるわねー。
リナと玲奈はソフトドリンクで良いわよね?」
リナが応える。
「あ、じゃアタシ、オレンジジュースで。」
玲奈が続ける。
「私は烏龍茶で。」
こうしてそれぞれに最初の一杯目を頼んで、
すぐにグラスが運ばれて来た。
綾が音頭を取る。
「さぁ、それじゃあ新旧マゾ狩りメンバーの交流会、
カンパーイ!!」
グラスを当て合い、それぞれに最初の一口で喉を潤す。
杏が声を上げた。
「プッハァ~!!
やっぱ最初は生中で良かったかも!!
それにしても綾ちゃん、新旧マゾ狩りメンバーって何よ(笑)
アタシら、まだ旧ってほど古くないと思うんだけど、
旧って綾ちゃんの事でしょ?」
「え~、杏、それはちょっとヒドくない~?
アンタ達だってもうそこそこにベテランでしょ?
この子達からすればアンタ達から脅されたら怖かったはずよ。」
「も”う~、だからそれは反省してるってば~!!」
他愛の無い話で盛り上がり場の空気は非常に和やかだった。
そこで玲奈が綾に質問を投げる。
「あの、綾さんっておいくつなんですか?」
「え”、玲奈早速それ聞いちゃう?
杏と同じくらいよ、って言っても嘘はバレちゃうか~。
アタシはね、今年で29よ。」
リナがそれを聞いて驚きの声を上げる。
「え、綾ちゃん若~!!
25くらいに見えたよ~。」
「ま、マゾ達から色々と吸い取ってるからね~。
アンタ達もマゾ狩りを楽しく続けてれば、年齢よりも若く見えるわよ。」
杏がそれに続ける。
「ま、上手くやればストレスも案外少ないもんね。
マゾが気持ちよさそうな顔で果てる瞬間見る度に
体の奥からグツグツって何かがこみ上げて来て、
アレ絶対若返りの秘術か何かだわ(笑)」
場は和やかな空気管だが、玲奈は綾の過去が非常に気になっていた。
綾が酔い潰れてしまう前にシッカリと聞き出しておきたかった。
「綾さんって、私達くらいの時にマゾ狩りを始めたんだよね?
何でマゾ狩りをしようとしたの?綾さんは先輩とかはいないの?」
「アタシね、当時は杏よりももっとキツい感じのギャルだったのよ。
それで、付き合ってた彼氏がめちゃくちゃドMでね。
当時友人関係やバイトでストレス溜める度にイジめてたんだけど、
イジめられるのを喜んでたっぽかったから、その度にお金取ったのね。」
リナが驚きの声をあげる。
「え、綾ちゃんったら大胆~!!」
「まぁ最初は優しくて良いかなって思ってたけど、あまりに弱くてね。
自我があまり無かったのよ。だからもう、搾取しようかなって思って。」
杏が強気な口調で応えた。
「やっぱそういう男って搾取にしか使えないよねー。
一生のパートナーとかにも、頼り無さ過ぎて使えないし。」
しかし、凛がそれに反論する。
「え~、私は優しくてマゾっぽい彼氏ってアリだな。
でも、マゾ度合いにもよるよね。
普通に毎日鞭とか求められても困るしぃ~。」
「それはハード過ぎだろ(笑)」
杏がツッコみを入れる。
玲奈は主題をブラさずに質問を続ける。
「最初から上手く行ったの?
今の私達に教えてる事は、綾さんがこれまでに培った
色んな経験の積み重ねなんだよね?」
「ふふ、玲奈は真面目ねぇ。そうよ、アタシの半生の集大成よ。
本当に色んなマゾがいたし、色んな人がいた。
途中で一緒に活動する仲間を得た事もあったけれど、
ケンカ別れしちゃったりね。」
「綾ちゃんに歴史アリって感じだね。」
リナが目をキラキラさせながら言った。
綾の過去話を通じて玲奈が本当に伝えたい思いは、
今後に関する不安だった。
「綾さん、私・・・これから先何を目標にしたら良いかわからなくて。
ずっとマゾだけを相手にこんな事を続けても、
先には何があるのかなって。」
「うーん・・・玲奈は真面目だけど、視野が狭いのが玉に瑕ね。
目の前のアタシを見てもそう言える?」
「あ・・・。」
今、玲奈の目の前にいる大先輩でマゾ狩りを教えてくれた綾は
付き合っている彼氏との結婚を機にマゾ狩りを辞めて一般社会での
仕事を始めようとしている。
それはまるで、マゾ狩りを真剣に続けていても社会復帰が可能である事を
象徴しているかのようであった。
「そっか、綾ちゃんはちゃんと社会に戻るんだもんね。」
「うーん、その『ちゃんと』は必要ないんじゃないかしら?
人の幸せなんてそれぞれだし、別に出来るまでずっと
マゾ狩りだけ続ける人生でもその後にも人生は続くのよ。
大丈夫、何とかなるものよ。」
この『大丈夫』はリナの口癖でもある。
玲奈はつい物事を深刻に考えがちな傾向がある為、
こうしたリナや綾の考え方を聞かされる度に反省していた。
「あ、そっか・・・。
私、つい親の言ったまともな人生を目安にしてた。」
ここでリナが杏と凛に質問をした。
「ところで、二人はマゾ狩り辞めたらどうするか、考えてるの?」
杏が先に答える。
「んー、アタシはジムとか経営したいなって。
結構鍛えるのとか好きなんだよね。
趣味と実益を兼ねるなら、部屋借りて改造して、
そこで自分も鍛えながらお客さんにアドバイスしたりして。」
凛が次に答えた。
「私はメイルショップとかかなぁ。
可愛いものが好きだから、ずっと可愛いものに囲まれて働きたいの。
その為に少しずつ貯めたりしてるよ。」
「ほぇ~、皆結構ちゃんと考えてるんだなぁ。」
ここで綾がリナと玲奈に尋ねる。
「アンタ達は別にまだ若いんだし、目標なんて無くても良いのよ。
ただ、早くに見つけるならそれはそれで良いと思うの。
若ければ失敗も全然アリだし、ってかまぁ、若く無くてもだけどね。
だけど一度きりの人生でチャレンジの回数は多い方が良いじゃない?」
玲奈はこの会話中もずっと将来への漠然とした不安の中で
自らの進路、この先の生き方についてを模索していた。
しかし浮かぶ案のどれもが本当の答えでは無いような気がして
一人で自問自答を繰り返していた。
リナが玲奈に言った。
「もー、また深刻になってる。
大丈夫だってば、とりまこの場を楽しも?
もう次に綾ちゃんが驕ってくれるのは30年後かもよ?」
「コラー、リナー!
アタシはそんなにケチじゃないってば~!!」
「アハハ~w
だって綾ちゃんって結構お金使い荒くてすぐ散財するのかなってw」
「いや、それは否定しないけれども(笑)」
玲奈は目の前の朗らかな光景を見ていると悩む事がバカらしくなって来た。
「ふふ、まぁ今はいっか。
ねぇ、凛ちゃん。私、貴女みたいな格好に興味あるのだけど、
今度一緒にブランドショップに連れて行ってくれない?」
「わ~、良いよ~!!
杏はあまり私のファッションには興味ないみたいだから、
そんな風に言って貰えて凄く嬉しいよ~。」
続けて、杏がリナに絡んで行く。
「リナってさ、結構運動神経良い方?
もし良かったらキックボクシング教えてあげよっか。
自衛の方法をしっておけば、少しは安心してマゾ狩り出来るでしょ。」
「わぁ!是非お願いします!!
そういう格闘技みたいなの、興味あったんだよね!」
賑やかな女子会はこの後終電近くまで続き、やがて5人は店を出た。
「や~、アンタ達に一気に会えて本当良かったわ。
今夜は楽しかったわよ、頑張りなさいね、皆。」
「綾ちゃんありがとー!
帰り道で吐いたりとか襲われたりしないでね。」
こうして綾は4人と別れた。
そして4人はこの後マゾ狩りをするかどうか悩んだが、
今日はこのままゆっくりと休む事にした。
リナと玲奈はホテルに着き、二人で今日の事を語り合っていた。
「杏ちゃん達と仲良くなれて良かったね。
もしあのままこの街を追い出されていたら、
多分こんなゆっくりした夜を迎えられていなかったと思う。」
「そうだね。何よりも綾さんがあの場に来てくれた事が助かったよね。」
「綾ちゃん、本当凄いなぁ、レジェンドじゃん。
アタシもアレくらい自分らしく生きていけたら良いなぁ~」
「アンタは既に結構自分らしく生きてない?(笑)
杏さん達、話してみると気さくで良い人達だったなぁ。
私達、この街にこだわらずにもっと広く、
色んな場所でマゾ狩りをやってみても良いかもね。
ちょっと田舎って言うか地方都市とかさ。」
「あ、それ面白いかもね。
観光しながらマゾ狩りとか出来たら、人と違う青春みたいな。
それだったら、杏ちゃん達も呼びたくない?」
「ヤバ、リナってば面白い事思い付くじゃん。
それめっちゃ楽しそう。」
二人は幸せな気持ちのまま、ただ今を楽しむ案を出し合った。
そして連絡先を交換していた二人にこの旅案を提案した。
すると二つ返事が来た。
まさかの思ってもみなかった速さで、4人でのマゾ狩り旅が始まるようだ。
リナと玲奈は幸せな気持ちのまま眠りに就いた。
この日の二人の夢はとても心地良く幸せなものだった。




