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7,フラグはへし折るためにある!

「ふー、こんなおいしいものを食べたのは生まれて初めてです。あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名前は『ルシア』と言います」

(……知ってます)


 心の中でそっとツッコミを入れつつ、俺は努めてフランクに微笑みかけた。

「あ、これは親切にどうも。俺の名前はアレン。アレン・アルベールだ。気軽にアレンって呼んでくれ」

 昼食を終えた二人は、中庭の木漏れ日の中で、しばらく休憩した後にお互いに自己紹介を始める。


「アレン……様?」

「アレンでいいよ!」


 身分違いだと戸惑うルシアに、食い気味に返した。少し戸惑いを見せながらも、俺が絶対に折れないだろうと察したルシアは……。


「……じゃあ、アレン……さん」


とはにかむように微笑み、そう呼ぶことで落ち着いたのだった。

 その後二人はしばらく談笑を続けた。前世の記憶がある俺からすれば、貴族特有のねっとりした会話よりも、平民出身のルシアとのフランクな世間話の方がよっぽど気が楽だった。ルシアも、自分を「平民」として差別しない俺に対して、少しずつ緊張を解いてくれたようだ。


「毎日、貴族の方々は、こんなに美味しい料理を食べられるのですか?」

「あー、どうなんだろう。他の貴族の事はよく分からないけど。少なくとも俺の所では、大体いつもこんな感じのものを作ってるな」

「そうなんですか……ふふ、ちょっとアレンさんが羨ましいです」


クスリと笑う彼女が、あまりにも眩しくて。


「そ、そうか? 基本的に俺が作ってるからよく分からな……」


 あ、しまっ、と口を滑らせたことに気づいたが、もう遅かった。ルシアは目を限界まで見開き、勢いよく身を乗り出してきた。


「作ってって……もしかして、このお料理、アレンさんが作っているんですか!?」

「え?まぁ、そうだね」


その瞬間、ルシアは両手を胸の前でギュッと握りしめ、キラキラとした羨望の眼差しを俺に向けてくる。


「凄いです、アレンさん!! こんな美味しい料理をご自身で作れるなんて!!」

「そ、そうかな?」

(く! 近すぎる!!)


 花のようないい香りが鼻腔をくすぐり、俺は思わずのけ反る。だが、興奮したルシアは俺の動揺に気づく様子もなく、さらにぐいっと顔を近づけてきた。


「はい! あのよかったら今度私にもこの料理教えて貰えませんか?」

「え?」


 教えて欲しいという問いに戸惑ってしまった。……別に教える分には何も問題はないが。だが相手は、このゲームのメインヒロインであり、俺は一モブキャラでしかない。そんな俺がこんなメインヒロインと親しくしていいわけがない!!

 ここは心を鬼にして、絶対に断るんだ――。そう決意して、ルシアの顔をチラリと盗み見るとそこには。潤んだ瞳で、すがるように俺を見上げてくるその表情は、あまりにも、凶悪なまでに可愛すぎた。


「いいぜ!!」


俺の鉄の意志(自称)は、一瞬で消し飛んだ。


「ホントですか!! ありがとうございます!!」


 ルシアはパッと顔を輝かせ、子犬のように小さく跳びはねて喜んだ。 そのまま弾むような足取りで立ち上がると……。


「それじゃあアレンさん、また今度!」


嬉しそう表情で中庭を去っていく。

 遠ざかっていく愛らしい後ろ姿を、俺はのけ反った体勢のまま、呆然と見送るしかなかった。


(あー、可愛かったな~……ってちがぁぁぁう!!)


脳内で自分を全力でぶん殴り、瞬時に我に返った。

 アホか俺は! 何を物語のメインヒロイン相手に一目ぼれしてんだ!!彼女はメインキャラであり、俺はただのモブ。そんなモブの俺がメインヒロインとこんな風に和んでいたらダメだろ。早く軌道修正しないと――ってん、ちょっと待てよ。

 冷静になった俺は、前世で嫌と言うほど聞かされたこの乙女ゲーム『ルミナス・クロニクル』について再び思い返す。

 確か……食堂に行ったはずのルシアが。貴族令嬢Aから「平民であるあたながここを利用するなんて……」的な発言をされ。悲しみのどん底に打ちひしがれている所に行くエリアによって現れる攻略対象が、ルシアを慰める……必死に自分に言い聞かせ、乱れた呼吸を整えていると。


(……ま、不味い)


 冷や汗がドッと噴き出す。……いや、待て。いくらこの世界がゲームに似ているからって、そんなご都合主義的に物事が進むはずがない。……と自身の心に言い聞かせていると。通りすがりの一グループの令嬢たちが、扇子で口元を隠しながらヒソヒソと囁き合う声が聞こえてきた。


「……ねぇ見ましたか、さきほどの平民の顔」

「ええ、見ましたわ。先ほどあんな酷い目に遭わされた直後ですのに、なぜか酷く嬉しそうな表情で行き過ぎていきましたわよね」

「本当、平民とは何とも単純で、図太い生き物ですことですわ。おーほっほ」


……学食。酷い目


 如何にもな単語を聞いてしまった俺は、再び、額から滝のような冷や汗が流れ始めた。

(いやいやいやいや、気のせいきっと気のせいだって。それに、百歩譲ってそれがルシアの事だったとしてもだ。都合よく攻略対象の王子様とかが、その辺にいるわけがない、うん)

 必死になって心の安定を保とうとする俺だったが、先ほどの令嬢たちは、無慈悲にもさらなるとんでもない情報を口にした。


「……それよりもお姉様。先ほど遠目からでしたけれど、殿下たちが御姿を現して居られましたわよね」

「ええ。相変わらずお美しくて、本当に眼福でしたわ」

「ああ、ほんの少しだけでもお近づきになって、お話がしてみたいものですわね」


楽しげな会話をする令嬢たちの声が遠のいていく中俺は……。


(やっちまたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)


膝の力が完全に抜け、俺はその場にドサリと崩れ落ちた。

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