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5,何事もシナリオ通りには進まない……

 気づけば、もう俺も十五歳になり、今、王都にある『王立ルミナス学園』の壮麗な正門の前に立っている。


(長かった。本当に、長いチュートリアルだったぜ)


 最初、この世界へ転生した時は本当に絶望したものだ。名前のないモブ貴族に転生した上に、前のアレンの性格が最悪だったせいで、屋敷中の使用人からの評価は氷点下からのスタートだったからな……あはは。

 まぁでも、三年間必死に頑張った結果――。


「アレン師匠ーーッ!!本当に行かれてしまわれるのですか!!私はまだ学んでいない事があります!!」

「行かないでアレン様! アレン様が王都に行かれてしまったら、誰が私たちの胃袋を満たして下さるのですかぁ!!」


 料理長含め、使用人が俺に対する評価がカンストしたんじゃないかと思えるほどだったぜ。

 ……まぁ主な要因が飯関係だろうが。

 それよりも一番苦労したのが、俺の専属侍女のアンナだったぜ。初めて会った頃のようなオドオドと怯えるような態度は一切なくなり、むしろ積極的に――俺の身の回りの世話を焼いてくるようになっていたのだ。

 ……いや、むしろ世話を焼き過ぎるくらいである。現に、俺が学園に入学する多めに王都へ出てくる時も、彼女は「私も付いていきます!」と、最後まで大反対してきかなかったのだから……あははは。


 まぁ、何はともあれ。遂にこの世界のメインストーリーが始まるんだ……気を引き締めていきますか!! 改めて気合を入れ、俺は学園の門をくぐった!!…… 


――ズーン!!


 学園に入った俺は、さっそくこの学園の洗礼を受ける。

 正門をくぐると、そこには貴族たち特有の煌びやかなオーラや礼儀正しさが満ちていた。……かと思えば、その裏で繰り広げられているのは、ドロドロとした権力者同士の化かし合いや身分闘争だ。 

 元々が現代の日本で生まれた、どこにでもいる平民だった俺からすれば、この貴族特有のねっとりとした空気感は、どうにも口に合わなかった。


……まぁそれはそれで置いておいて、なんだか不自然だ。確か入学式当日、この時間は、校門前で発生するはずのヒロインと悪役令嬢の『最悪の出会いイベント』が発生するはず。なのにそんな予兆すら見せなかった。

 それどころかこの世界の重要人物に誰一人として合わないなんて。

(もしかして、入学する年が違った?それとも名前だけが似ているだけの全く別の世界?)

 などと教室の隅で頭を抱えて激しく混乱していたが、次に起こる出来事を見て、その悩みは一発で解消された。


「……すみません。遅れました」


 ガラガラと音を立てて開いた前扉から、申し訳なさそうに小さくなって教室に入ってきた一人の女の子がいた。

 窓から差し込む朝日にきらきらと輝く、透き通るくらいの綺麗な金髪。そして、どこか幻想的な雰囲気をまとった淡い色の瞳。――間違いない。

『ルミナス・クロニクル』のパッケージになっている、このゲームのヒロイン『ルシア』だ!!


 平民出身でありながら、その類まれなる才が認められて特待生としてこの入学した、容姿端麗、成績優秀、非の打ち所がない性格で、かなりの努力家……とまぁ乙女ゲームあるあるのような設定の彼女だが。――そんな彼女が、どうして遅刻を?前世で、妹から耳にタコができるほど聞かされた話を思い返す。 

 あいつが「ルシアちゃんはマジで完璧な聖女!」と熱弁していた記憶の限り、初日から遅刻するなんてシナリオは絶対に存在しなかったぞ。


 突如として突きつけられた、既知のストーリーの『狂い』について必死に思考を巡らせたが、答えなどすぐに出るはずもなかった。そうこうしているうちに、先生からの注意が済んだルシアが席をつこうと歩きだす。

その間聞こえてくる嫌味の数々。


「……平民のくせに生意気」

「貴族様である僕たちを待たせるとは、どういう御身分だよ」


などと。ここに関しては、異世界だろうと現代の日本だろうと変わりやしないな……。

そんな事を考えながら、俺は教室の隅から視線を向ける。


(……可哀そうだけど。モブである俺がメインヒロインである君を助けるわけにはいかないんだ。きっとそのうち、攻略対象の人たちが助けに来るだろうから、それまで我慢だぜ)


心の中でそっと謝りながら、俺は完全に他人事として割り切ることにした。


 そんなこんなで、居心地の悪い午前中の授業をなんとかやり過ごし。気づけばいつの間にか、お昼になっていた。

 ここ『王立ルミナス学園』の昼食は、学園に設置されている豪華な食堂で食べるのが一般的だ。それには、貴族たちがよく食べるような洗練された料理がズラリと並べられる。更に食堂という場所でありながら貴族間どうしで交流……というか腹の探り合いを行う。

……そのため俺は、一人寂しくお庭が綺麗な場所でボッチ飯を敢行しようとしている。

(正直、ああいう雰囲気は苦手だし。何より、この世界の料理は俺の口に合わないんだよな)

 心の中で呟きながら、今日の朝のうちに準備しておいた『特製弁当』を鞄から取り出す。それは到底、貴族とは思えない庶民的な袋に包まれた弁当であり、中には昨日の夜にうちに仕込みを済ませ、本日の朝、サクッと揚げて完成させた、我々庶民の強い味方『カツサンド』だ!!

 袋を開き、包みを広げた瞬間、その暴力的までに香ばしい香りが鼻を突き抜けた。


「ああ、いい匂い!!」


 冷めてもなお漂う豚肉の香ばしい香りに、三年間、研鑽に研鑽を重ねて作り上げた特製の濃厚ソース。もう食べなくても分かるその美味しさに、自身の頬が緩むのを感じとった。 

……まあ、この特製ソース作りに関しては、いつか機会があれば話をしよう。

 とにかく今は、目の前にあるカツサンドを被りつけずにはいられない。俺はカツサンドを掴み、自身の口に運び、大きな口を開けて食べようとした。……その時。


「……あ、あの」


突然、聞いたことのある女の子の声が聞こえてきた。俺は、俺が声のした方へ恐る恐る顔を向けると、そこにはなんと――。

『ルミナス・クロニクル』のヒロイン、ルシアがそこにはいた……!!

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