間章
アレン達が絶賛、夏祭りを堪能している頃……王都では、シリウス第一王子が溜まりに溜まっていた書類を片付けていた。
「まさか、ここまで書類が溜まっていたとは……。うう、本当は私も彼の領地についていきたかったというのに……」
ぶつぶつと一人悲し気に嘆いているシリウスの元に、コンコンッ!というドアをノックする音が聞こえた。シリウスが「誰か?」と尋ねる前に、ノックをしてきた人物が自分から名乗りをあげる。
「兄上、僕です。ユリウスです」
相手はどうやらユリウスのようだった。相手がユリウスだと分かったシリウスは、正直どうしたものかと少し考え込んだ後、渋々入室することを許可した。
「失礼しますよ、兄上」
「ユリウスか。一体何の用なんだ? 見ての通り今は、この大量に積まれている書類の山を片すのに忙しくて、お前の相手をしているほど余裕がないのだが?」
皮肉たっぷりと混じったセリフをユリウスにぶつける第一王子。そんな皮肉混じりのセリフを聞いたユリウスは、「申し訳ない」と兄であるシリウスに頭を下げつつ、少し聞きたい事があると、単刀直入にシリウスに物申す。
「聞きたいこと?」
「うん。数か月前、兄上が瀕死の重傷に陥った、”例の事件”……ダンジョン内で起こった出来事について……」
一体何の話を聞かれるのだろうと身構えていたシリウスだったが、数か月前に解決した例のダンジョン演習についてだった。正直、もう終わった事件にまたぶり返し聞いてくるユリウスに呆れたシリウスはため息交じりに話す。
「なんの話かと思えば、またその話か。その事案については既に解決した話だし、俺の知っている情報については知っている限りの話はしている。
話がそれだけだけなら、早く自分の部屋に戻ることだな」
いつまでも終わった出来事について蒸し返される事がお気に召さなかったのか、はたまはユリウスとの会話をさっさと終わらせたかったのか分からないがシリウスは、さっさとユリウスを自分の部屋に戻るように促す……がユリウスは小さな声で”とある人物”の名前を口にする。
「……ルシア。僕は今、彼女の事が気になってしょうがないんだ」
その名を聞いて瞬間、シリウスの手がピタリと止まり、ユリウスの方へと顔をゆっくりと向けた。
「気に……なるだって!?」
「うん……まんせ彼女は、平民でありながら、得意稀なる治癒魔法を使える人物。そんな希少な人材をみすみす放っておくなんて王国としての損失だとわ思わないか、兄上?」
ぐうの音も出ないほど正論すぎて何も言い返せなかった第一王子。そんな姿を見た第二王子は、ここぞのタイミングで畳み掛けてくる。
「それに、これは聞いた話なのだけど。数か月前、兄上が直接的に関与した例のダンジョンでの事件で彼女は、謎の光を発現させ、その場にいた全員の傷を癒したって言うじゃないか。まるで伝承に出てくる『聖女』かのように」
”聖女”単語を聞いたシリウスは、そんなおとぎ話に人物が存在するわけがないと「馬鹿馬鹿しい」と一蹴した。ユリウスも聖女たる存在が実在するとは思ってはいないが、ルシアの力そのものは放っておくわけには実に惜しい存在だと話す。
「だからこそ、兄上には申し訳ないが。僕も、彼女の事を狙われてもらうね。ただ、それだけが言いたかっただけなんだ」
そう言い終わるとユリウスはシリウスの追求を振り払い部屋を後にした。シリウスは、ユリウスが部屋を出た後、深いため息をこぼし、部屋を出たユリウスは不敵な笑みをこぼしながら、廊下の奥へと消えていった。
……時を同じくしてアイズベルグ家の書斎にて。一枚の書類に目を通す男性がいた。
コンコン……。
「入れ!」
ドアのノックする音を聞いた瞬間、中にいた男性の太い声が聞こえる。
「失礼します。……旦那様、お茶が入りました」
「ん? ああ、すまない」
旦那様と呼ばれた男性は、アイズベルグ家の執事と思われる男性が注いだ紅茶を飲み、少しばかりの休憩をはさんだ。
「……ふむ。こんかいの紅茶は以前飲んだ時よりも美味しいな。茶葉でも変えたのか?」
「いえ、旦那様。茶葉の種類は変えておりません。ただ淹れ方を変えただけですよ」
「そうなのか?」
「ええ……」
そんな他愛もない会話をおっさん同士で話をしていた。
「所でジィ。最近、娘の様子はどうだ? 元気にやっているか?」
紅茶を優雅に飲みながら、娘のクリスティアについて執事のジィに質問する。ジィは、落ち着いた表情でクリスティアについて話しをする。
「はい。お嬢様は表情こそあまり変わりませんが、以前よりも楽しそうに学園へ通われています。ご友人ともよく行動を共にされているようで」
「そうか……それは良いことだ」
党首は満足げに頷く。しかしジィは、少し言いにくそうに続けた。
「ただ……最近は、アルベール家の子息と行動を共にされることが多いようでして。今も、アルベール領に出向かれております」
「何、お泊りだと!! 許せん……我が愛しの娘と二人でお泊りなど……許さん、絶対に許さんぞぉぉぉ!!」
「いえ、お嬢様のご友人と一緒に行かれておりますよ、旦那様」
“アルベール家”という名を聞いた瞬間、党首の表情が般若のごとく怒りの表情に変わり、一人娘のクリスティアの事を酷く心配した。その様子を見ていたジィも落ち着くように主をなだめる。
「それにしても、流石は我が娘と言った所だな」
「っとおっしゃいますと?」
主人であるクリスティアの父が、なぜ喜んでいるのか分からなかったジィは首を傾げる。
「分からぬか? 我が娘……クリスティアは、ここ数年で国内の約四割の食料を賄うほどまで急成長したアルベール家の者と繋がりを得ようとしているのだ」
「なるほど……そういう意図がございましたか。流石は旦那様です」
クリスティアの父の憶測にある程度の合点がいったジィ。
「それにだ、ジィ。かの領地にはとある伝承が出回っているのだ……」
「とある……伝承ですか?」
「ああ……」
クリスティアの父はなにやら重々しい空気を漂わせながら、その伝承について語りだす。
「その伝承とは、かの地には『龍』が住まわっているという伝承だ……」
「りゅ、龍……ですか!?」
「ああ……なんでもその伝承では、”龍が不機嫌な時、その土地は枯れ。龍の機嫌をとれ!”っという伝承が伝わっているそうだ」
「なるほど……。つまりその伝承通りであれば、今は龍の機嫌が良い!っということでしょうか?」
「ああ……」
主であるクリスティアの父の言葉に真剣に受け止めるジィは息を呑む。
「ですが旦那様。龍などと言うのはあくまで噂程度のもので、実際に見た事例などそんなに多くはないかと……」
「確かに……龍の目撃事例などガセネタばかりで信憑性に欠けるものばかりだが……。もし仮に、かの地に龍が住まい、龍の機嫌が良いというのならば、一体誰が龍の機嫌をとっているのだろうな」
主の一言に唾を飲み込む執事。
「まぁ、何にせよ。現状我が娘がアルベール家の子息と仲良くしている間は、何の問題は怒らないだろう」
党首は満足げに微笑んだ。
その頃――アルベール領の内にとある山にて、大きな影が目を覚ましゆっくりと身体を動かした。
「……む。良い匂いがするな。もしやあいつが帰ってきたのか? ……あいつ帰ってきたというのに我に会いにも来ないとわ良い度胸だ」
アレン達が祭りを行っている村からかなりの距離があるというのに、鉄板で香ばしく焼かれたソースの良い匂いを嗅ぎつけた大きな影は、どこか不機嫌なオーラを発しながら、その匂いのする方へと、静かに飛び立っつのだった。




