39,二人のヒロイン……
祭りの夜は、昼間よりもずっと賑やかだった。
屋台の灯りが揺れ、子どもたちの笑い声が響き、甘い匂いと香ばしい匂いが入り混じる。
「アレンさん、次はあっちの屋台に行きましょう!」
そんな祭りの中俺とルシア、クリスティアの三人は絶賛祭りを謳歌。しばらくして、祭りを堪能した俺たちは、少し休憩するために近くのベンチで休むことにした。
「初めてこういう祭りに参加しましたが、楽しいですアレンさん!」
「ええ、そうね。王都に暮らしていた時でも、これほど有意義な祭りに参加したのは初めてよ」
「そうなのか? それは良かったよ」
そんな他愛もない話をしていた……その時。遠くから慌てた様子で俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。その声の正体は、アンナだった。
突然何事かと思った俺は、とりあえずアンナを落ち着かせ事情を聞くことに。
どうやら、先ほど任せておいて下さい!っと意気揚々に送り出した屋台が、思いのほか大繁盛になってしまい、今いるスタッフでは手が回らないとの事。
(全く……だから言わんこっちゃない……)
頭を抱えながらアンナに文句の一つも言いたくなったが……心の中でグッと堪えた。なぜなら、今アンナに文句を言ったからと言っても状況が変わるわけがないからだ。
それよりも今は、少しでも早く屋台に戻り状況を把握しなければいけないと思ったからだ。
”思い立ったがすぐ行動!”の原理で俺はすぐさま立ち上がり、ルシアとクリスティアに「ごめん二人とも、ちょっと行ってくる!」と言い残し屋台の方へと戻っていく。
アンナも二人に謝罪と言う名の一礼を交わした後、俺の後を追ってきた。
俺のいなくなった後二人は、あまりにも早い展開についていけず、唯々その場にポツンと座り込んでいた。
「忙しそうですね、アレンさん」
「ええ、そうね」
そうやく理解を把握したルシアは、口を開き忙しそうにしているアレンの事を心配する。クリスティアもルシアのセリフに軽い挨拶で返した後、ジーっとルシアの方に顔を向ける。
「え、どうしたのティア? 私の顔に何かついてる?」
「……いえ、特にそういうわけではないの」
クリスティアは、祭りの灯りに照らされたルシアの横顔をじっと見つめていたが、その視線は、いつもの冷静さとは少し違う。
どこか探るようで、どこか優しくて――そして、どこか覚悟を決めたような色をしていた。
「ねぇシア……あなた、彼のこと……どう思っているのかしら?」
「え……ッ!?」
クリスティアの口から突然、アレンの事をどう思っているのかと言うセリフが飛び出し、思わずルシアは肩をびくっと震わせ、慌てて視線を逸らした。
「どう思っているって……そんなアレンさんとティアは、私にとって大切な……とも……」
「……シア。今私がそういう答えを聞きたいわけではない事くらい、あなたなら分かるでしょ?」
ルシアが最後まで話をする前にクリスティアは静かに話を遮る。クリスティアがどういう事を聞きたいのか分かっているルシアは、手をギュッと握りしめその場で黙り込んでしまった。
しばらく黙って様子を見ていたクリスティアだったが、流石に我慢が出来ず小さくため息を吐いた後、ルシアに向かって言葉を発する。
「……シア。この際だから、はっきり言っておくわね」
祭りの灯りが揺れ、クリスティアの横顔を照らす。その瞳は、いつもの冷静さとは違い――ほんの少しだけ揺れていた。
「私……彼のことが好きよ」
「えっ……!」
クリスティアの突然のカミングアウトにルシアの思考が停止してしまった。しばらくして我に返ったルシアがクリスティアに問う。
「す、好きって……そんな。だってティアには、シリウス殿下っていう婚約者が……」
「確かに、世間一般からは、私と殿下が婚約者みたいに扱われているけれど、あくまで”候補”、確定ではないわ」
クリスティアはルシアをまっすぐ見つめる。
「それに仮に……。私が殿下と婚約していたとしても、彼を諦める道理にはならないし、もしそれでアイズベルグ家から勘当されたとしても構わないと思っているわ。
それだけ、私にとって彼は……特別な存在。
もちろん、政治的な意図が全くないと言えば嘘になるかもしれないけれど、それでも私が彼の事を好きという気持ちは嘘ではないわ」
「もしも、シア……あなたが平民だの貴族だのという事で悩み、彼を諦められると言うのなら、今すぐ彼のそばから離れなさい。それが彼のためでもあり……シア、あなたのためにもなるわ」
……。
鋭い言葉だったが、そこには責める色はなかった。むしろ“覚悟を問う”真剣さが滲んでいた。ルシアは胸元をぎゅっと握りしめ、この半年間の出来事が走馬灯のように頭を駆け巡った。
――料理を教えてくれた時も、落ち込んだ私を励ましてくれた時も……アレンさんはいつも、優しかった。
「私は……私は……。私も……アレンさんの事が好き!!」
頬を赤く浮かび上がらせながら、胸が締め付けられるような思いでクリスティアにアレンへの思いを告白する。
「最初はただ、平民である私に対等に話をしてくれる優しい貴族の人!っていうただそれだけの気持ちだった。でも、今はそれ以上にアレンさんとずっと一緒にいたい、ずっとそばにいたいっていう気持ちでいっぱいなの!
平民だとか、貴族だとかそんなの関係ないくらい……アレンさんの事が『好き』」
クリスティアは黙って聞き、時々小さく頷いた。
「……そう。あなたの気持ち、よく分かったわ」
そして――悪役令嬢らしく、不敵に微笑む。
「シア。あなたは今日から私の大切な友人であり……彼を奪い合う好敵手よ」
「う、うん……」
祭りの灯りが揺れ、二人の影が重なる。その影は――新しい物語の始まりを示すように揺れていた。
……ちなみに、二人が壮大なラブコメ展開を繰り広げている間、二人の攻略対象は、一心不乱に焼きそばを焼いていた!
----第一章 完----




