36,ドジと天才は紙一重!?
(……何やってるんだ、こいつ)
凄く冷静な態度で状況を分析する俺。それとは反比例するかのようにルシアは、オドオドと焦った様子で俺に近づいてきた。
「どどどどど、どうしましょうアレンさん! ひひひひ人が……人が倒れて……」
「とりあえず一旦落ち着こうかシアさん」
ひどく動揺しているせいか、上手く喋れないでいた。クリスティアはと言うと、逆にいつも通りのクールな表情でその場に立っていた……ように見えた。
「……ここら一帯を凍らせれば……目撃者は誰も」
小声でよく聞き取れなかったが、なんだが物騒な会話が聞こえた気がした。冷静な態度をしておきながら、内心驚いていたんだなぁ。
クリスティアのちょっとした可愛らしい一面を見られたところで、正直この辺一帯を凍らされたは堪らないと思った俺は、ゆっくりと血塗れの女性へと近づき……そして。
「おーい、起きろー!」
コンコンッ!!
倒れている女性に向かった頭を木魚を叩くかのごとく軽くを叩きだした。
すると……
「うう……」
女性からうめき声のような声が聞こえてきた。
「もう、誰だい? 僕の繊細な頭をコンコンする失礼な人は?」
倒れていた女性は目を覚まし、ゆっくりと身体を起き上がらせた。まだ意識がはっきりしないのか頭を左右にユラユラと動かしながら凄く眠たそうな表情をしていた。
しばらくして、ようやく意識がはっきりのかしっかりと前を見始めた。
「うーん……。あ、あれ? アレンじゃないか。どうしてアレンがここに?」
ようやく意識をはっきりとさせた女性は、目の前に俺がいることを認識した。
「全くそれはこっちのセリフだ。一体何をどうしたらそんな『トマト』塗れになるんだ」
「いやーあはは。ちょっと色々と考え事をしていたら、転んじゃって」
「いや、だからと言って何でそれでトマト塗れになるんだ……」
全くと言っていいほど状況を掴めず、どうしたものかと頭を抱え込んでいると。後ろで黙って見ていたルシアとクリスティアから何やら只ならぬオーラを発していた。
「あのーアレンさん!!」
「え、あ、はい!!」
「楽しそうに話しをしている所申し訳ないのですが……」
(楽しそうに話って……別に楽しくもなんともないんだけどな)
「そちらの女性は、アレンさんとはどういった関係なんですか?」
何故だか怒っているようにも見えたルシアから、先ほどまで倒れていた女性について聞かれたため、俺は一息つきながら彼女について話しだす。
「あー、えっと、ゴホン。紹介が遅れたけど、彼女はこの村で様々な調味料を研究、開発(再現)してくれている俺の協力者……『ミレイユ』だ」
「よろしく~」
「「協力……者?」」
俺の放った『協力者』という単語に首を傾げながら疑問に満ちた表情を浮かべる二人であった。
……数分後。
全身トマト塗れだったミレイユはとりあえず着替え、俺とルシア、クリスティアが座って待っている部屋へと姿を現した。
「いやー、お恥ずかしい所をお見せして申し訳ない。改めて……僕の名前は『ミレイユ』。この村で色々な調味料を開発しているだけのただの”普通”の女の子さ」
ミレイユが自身の自己紹介を終え、先ほど屋敷で作ってきた『アイス』をミレイユに提供し美味しそうに食べる。
ルシアとクリスティアもミレイユに自己紹介を行い、和やかな雰囲気が漂い始めたが、俺はどうしてあそこでトマト塗れで倒れていたのか切り込んだ。
するとミレイユは、倒れていた経緯を笑いながら話し始めた。
「いやー大した話じゃないんだけど。昨日、大量にトマトを貰ったから、加工して保管庫にしまおうと思ったんだけど。つい色々と考え事をしていたら、転んじゃって。
そしたら、さっきのような事になっちゃったんだ、アハハ」
話を聞く限り、どうもただのドジから始まった事件のようだが……だとしても。
「笑いごとじゃねぇよ!! 毎回毎回言ってけど、考え事しながら歩くなって。野菜だってタダじゃねぇんだぞ!!」
「は、はるはったよ(わ、悪かったよ)、はるはったから、ほおふへならいでほふれよ(悪かったから、頬をつねらないでおくれよ)!!」
「そんな食材をぞんざいに扱いやつには、俺の料理を食べる資格はない。故にアイスは募集!!」
「そ、そんなぁー!!」
どういう理由であれ、食材を無駄にしたこと怒りを覚えた俺は、ミレイユの頬を抓りながら叱り、食べていたアイスをミレイユから取り上げた。
アイスを取り上げられたミレイユは、激しく俺に謝りだし次からは気を付けると何度も言ってきた。その光景はまるで、子供に躾を行う母親のよう……。
そんな光景を、黙って見ていたルシアとクリスティアは、なぜか不機嫌そうな表情を浮かび上がらせていた。
「あの、アレンさん。ミレイユさんと仲慎ましそうにお話をしている所大変申し訳ないのですが。早い所本題へ移って貰っても構わないでしょうか?」
「へ……ッ!?」
「そうね。公爵家の令嬢である私を待たせるからには、それ相応の大事な要件なのでしょうかね」
「てぃ、ティアさん……ッ!?」
二人からなぜか、これでもかと言うくらいの禍々しいオーラを感じ取り、俺は一瞬にしてそのオーラに押しつぶされそうになってしまった。
このままではまずいと察した俺は、早い所要件を済ませそうとミレイユに”例の物”について話しかける。
「そ、そういえば、ミレイユ。お前手紙で”例の調味料”が完成したって書いてあったけど。今それはあるのか?」
「例の……あー、あれの事かい? ああ、あるよ。今持ってくるから待てておくれ」
そう言うとミレイユは、小走りで建物の奥へと進んでいき、少しして、とある液体が入っているであろう壺を持って帰ってきた。
「これが君に頼まれていた”例の調味料”さ」
「おお、ありがとうな」
俺はミレイユから壺を受け取り、恐る恐る壺の蓋を開けた。
「……。なんですかアレンさん、この”黒い液体”は?」
「ん、これか? これは、料理を美味しくさせる『万能調味料』さ」
俺は、ミレイユから貰った壺の中身を見て不敵に笑いだすのだった。




