35,やっぱり夏はアイスに限る!
初めて目にした氷菓子にまるで芸術作品でも見ているかのごとく言葉を失ってしまい、ルシアとクリスティア。
二人は、恐る恐るスプーンをアイスの方に手を伸ばす。
スプッ……。
白いアイスをすくい上げ、ブルーベリーソースがとろりと絡む。
そのまま口へ運んだ瞬間――
「……っ!? ひ、ひんやりして……甘くて……とろけます……ッ!!」
ルシアは目を見開き、次の瞬間には頬を赤らめてとろけた表情になった。
まるで“幸せの魔法”でもかけられたかのように、身体がふにゃりと緩む。
「こ、これ……すごいです……! 冷たいのに、香りがふわっと広がって……口の中で溶けていきます……!」
ルシアは胸の前で手をぎゅっと握りしめ、感動のあまり身体を小さく震わせていた。
クリスティアも、ゆっくりとスプーンを口に運び――
「……これは……驚いたわね。冷たいのに、甘さが舌の上でほどけていく……。それに、この香り……とても上品だわ」
いつものクールな表情が少し崩れ、目元がほんのり緩んでいる。その姿は、普段の凛とした公爵令嬢とは違い、どこか年相応の少女らしさが滲み出ていた。
「……アレンさん。これ、本当にあなたが作ったんですか……?すごすぎます……!」
ルシアは感動で瞳を潤ませ、クリスティアはスプーンを見つめながら小さく息を吐いた。
「……悪くないわね。いえ、かなり美味しいわ」
(……可愛いなこの二人)
二人が美味しそうにアイスを食べる姿を見て、俺は微笑ましい気持ちになってしまった……のだが、横で恨めしそうに視線を向けてくる一人のメイド(アンナ)がいた。
「アレン様……。私の分はないのですか?」
「ない!!」
ガーン……ッ!!
俺は強く「ない!」と主張した。仮にも俺専属の侍女であるのに俺をぞんざいに扱ったため、ちょっとしたお灸代わりにアイスはお預け。
すると、俺の一言を聞いたアンナは、酷くショックを受けてしまいその場に崩れてしまい、手を口で抑えながら、まるで悲劇のヒロインかのような悲しい表情を浮かべる。
「ひ、酷いです、アレン様。私をこんな(美味しいご飯を求める)身体にしておいて、そんな仕打ちなんて、あんまりです!!」
(なんだよ、こんな身体って……)
「というか、そんな如何わしい言い方しないでくれるかな?」
まるで俺がアンナをいじめているような光景が繰り広げられ、それを見ていたルシアとクリスティアが俺を疑ったような目で見てきた。
「まさか、アレンさんがそんな人だったなんて……」
「最低ね、あなた……」
「いや、なんで二人ともこの変態メイドの言う事を信じるのかな!?」
二人からの容赦ない視線に耐えかねた俺は、仕方なくアイスをアンナにも提供した。するとアンナはまるで、駄々をこねていた子供が欲しい物を買い与えられた時のような純粋無垢な笑顔を見せてきた……あの頃の大人びていたアンナは一体どこにいったのやら。
「ん~美味しいですアレン様!!」
美味しそうにアイスを食べるアンナに俺は、「そうかい」と軽く返事をする……がその背後に”俺”も”私”もと言う食に餓えたハイエナたちが俺を睨んでくる。
(はぁ~。こうなるからアンナにもあげなかったって言うのに……)
俺は小さくため息をついた後、アイスを十セット用意し、平等を期すためにくじ引きで誰がこのアイスを食べるか決めた。
「美味しい~」
「幸せ~」
くじ運に恵まれた十人は、それはもう美味しそうにアイスを食べ、苦しくも選ばれなかった者たちは、美味しそうに食べる者たちを妬ましそうに睨みつけるのだった。
アイスを食べ終えた俺たちは、ルシアの「アルベール領を色々見て周りたい」と言う要望を叶えるために、とりあえず村へと向かっていた。
「わぁ、広いですねー!!」
ルシアは、村へ向かう道中。視界いっぱいに広がる畑を見て圧巻した。そこには、様々な野菜や果物が適切に栽培されていたからだ。
元々アルベール領は、所有する土地が無駄に広く、野菜など植物を育てるのには適さない土地だっただ。
だが、俺が転生してからの三年間、様々な試行錯誤の結果。様々な野菜などを育てるのに適した土地に生まれ変わり、尚且つ前世の世界では考えられないほど、成長スピードが速く、一年に何度か収穫することができるのだ。
……正直、なんでこんなに成長スピードが速いのかは知らない。もしかしたら、この世界には魔法とかそういった前世の世界にない力があるせいなのかもしれないが、結果がどうあれ、食料が大量に手に入る事は嬉しい事なので、敢えて深く考えないようにした。
そうこうしている間に俺たちは、近くの村へと足を運んでいた。そこでもルシアとクリスティアは驚いてしまった。
なんせその村は、王都と同じくらい……もしくはそれ以上のインフラがしっかりと整備されていたからだ。
住居に水道、道の整備に住人の働き口などこの世界においてこれでもかというくらい快適な生活。さらに、たまの息抜きに必要な様々な娯楽道具や施設といったものまでも完備という住民満足度も一位に違いない。
いわば”ホワイト村”っといった所だろう。
……まぁ、これも俺が転生してからの三年でやったことなのだが。
「……。す、凄い村?……ですね」
あまりにも規格外な光景に開いた口が閉まらないルシアとクリスティア。……まぁ無理もない、この村は”村”と言う名前がついているが、どこぞの”街”と言っていいほど遜色ない街並みなのだから。
そんな中、村人の一人が俺の姿を目撃した。
「あ、アレン様!!」
俺の名前を呼んだ瞬間、周りにいた他の村人たちが一斉に俺の方に振り向き、ぞろぞろと俺の周りに集まりだした。
「お帰りなさいアレン様!」
「アレン様、今年も野菜が豊作だぜ。持っていてくれ!!」
「アレン様、今年の祭りでは一体どんな料理を出品されるのですか!!」
「隣にいる方たちは、もしかしてアレン様の婚約者ですか!?」
などなど、聖徳太子もビックリするくらいたくさんの住人からの声が飛び交い、気づけば俺のあちこちに大量の野菜と果物が括りつけられていた。
「人気者なんですね、アレンさん」
「あ、あはは……そうかな」
先ほどの光景を見ていたルシアは嬉しそうに、どこか誇らしいような表情で俺に話かけてくる。正直、変に褒められてしまうと、こしょばゆいと言うかなんというかだな。
まぁ確かに、三年前に比べれば住民たちと仲が良くなったのかもな。
三年前何があったのかは、それはまた別のお話で……。
その後も俺たちは、村をあちこちと見て周ったり、時には出店の料理を食べたりしながら、俺がこの村に来たかった目的の場所へと足を運んだ。
「ここがあなたのいう、目的の場所かしら?」
「ああ、そうだぜ」
俺たちが足を運んだ場所は、特にこれといった変わり映えのない建物……強いていえば、他の建物よりも、少しばかり大きいというくらいだろう。
「あの、アレンさん。ここには一体何を目的にきたんですか?」
「ん? まぁ入ってみれば分かるよ」
俺はそういう言い、扉に手をかけ中へと入った。その瞬間、血塗れ?で倒れている女性の姿があった……ッ!?




