32,騒がしい使用人にはご注意!
夏休みに入り俺は、実家に一時的に帰省するためにアルベール領へと向かっていた。
「うーん……」
帰省するにあたり、成り行きで俺の帰省についてくることになったルシアとクリスティアと馬車の中で、『第一回:最強ババ抜き決闘者大会』を開催していた。
順番は、俺からクリスティア、クリスティアからルシア、ルシアから俺が取るという順番で、現在俺がルシアからトランプを引き抜こうという番。
ちなみに手札は、俺が一枚、ルシアとクリスティアが二枚という感じで、一体誰がババを持っているのか分からない状況で……。
プルプル……。
……。
(いや君が持っとるんかい!?)
ルシアの手札は二枚で片方はババである事は確定。ちなみに、俺が右側のトランプを抜こうとすると、嬉しそうな表情に。逆に左側を抜こうとするとウルウルと悲し気な表情になる……いや分かりやすすぎだろ。
(落ち着け俺……。これはババ抜きであり、勝負の世界。情に流されてはいけない……。そう、これは弱肉強食の世界……!!)
俺は、心を鬼にして手札を引いた!!
……ババである。
うん、仕方ない……これは仕方のない事だ。弱肉強食とはいえ、悲し気な表情をしている女の子を助けるのもこれまた自然の摂理であり。
吹けば飛ぶような理論武装を唱えながらババを自身の手札に加えてクリスティアに手札を引かせる。クリスティアは、迷う事なくババではない方のトランプを引き抜く。
(ぬおぉぉぉぉぉぉ!!)
心の叫びもむなしく揃ったペアを外し、残りの一枚をルシアに抜かせた。案の定ルシアもペアが揃い、俺が最下位になった。
「……ま、負けた」
負けた悔しさで、どこぞのボクサーのように全身が灰色に染まった。そんなことをしている間に気づけば俺の実家へと到着していた。
「ここがアレンさんのお実家ですか……」
「意外とこじんまりとしているのね」
「いや確かに、ティアのとこのと比べればそうかもしれないけど……!!」
屋敷の外にて他愛もない話をしていた俺たちだったが、とりあえず長時間で移動の疲れをとるため、とりあえず屋敷の中に入る事にした。
屋敷に入るや否や、使用人一同から「お帰りなさいませ」と挨拶される。
その光景にルシアはもちろん、俺ですら驚いてしまった。
クリスティアはというと、さすがは公爵令嬢と言うべきか、こういった光景に見慣れているのか堂々と立っていた。
俺が驚いていると、奥から一人の老執事が前へ歩いてきた。
「お帰りなさいませ、アレン様。お帰りを心待ちにしておりました」
「そ、そんな大げさだよ、セバス」
前に出てきたのは、この屋敷で執事長を務めている『セバス』である。
どうしてこういう乙女ゲームに登場する執事長に“セバス”という名前を付けたがるのだろうか。……まぁ、呼びやすいからいいのだけど。
俺と軽い挨拶を交わしたセバスは、俺の後ろに女性二人がいることに気づく。
「いえ、そんなことはありません。ところでアレン様。後ろにおられる御婦人方は一体どなたでしょうか?」
「ん、ああ。シアたちは……」
俺がルシアたちのことを紹介しようと思ったその時。
脳裏に何かを閃いたのか、セバスはいつもは閉じているのか開いているのか分からない目を大きく開眼させた。
そして、何をとち狂ったのか、とんでもない爆弾発言を口にする。
「ま、まさかアレン様。こ、このご婦人方は……アレン様の婚約者でございますか!!」
「「「……ッ!? 」」」
セバスの飛んでもない発言を聞いた俺たちは、石化の魔法でもくらったのかと思うほど、その場で硬直してしまった。
そんな俺たちのことなど気にしないセバスは、懐からハンカチのようなものを取り出し、一人感動に打ちひしがれていた。
「こ、このセバス……感激で胸がいっぱいでございます。うう……あの小さかった坊ちゃまが、いつの間にか大人の階段を上っていたなど……。
ちなみに坊ちゃま、どちらが第一婦人になられる予定なのですかな?」
「「「……ッ!? 」」」
またしてもとんでもない発言をするセバス。二発目の爆弾に、ルシアは顔を真っ赤にして慌てふためく。
これ以上変なことを口走る前に何とかしなければと思った俺は、咄嗟に口を開く。
「な、何とんでもないことを口走ってるんだセバス!
彼女たちは別にそういった関係じゃなくて、ただの学友だし……。
ティアに関してはアイズベルグ家の一人娘だぞ!!」
“公爵家”という言葉を聞いた瞬間、その場にいた使用人全員が硬直。その後、セバスが落ち着いた表情で、しかし内心焦っているような口調で話す。
「あ、アイズベルグ家……と申しますと、三大貴族のアイズベルグ公爵様ですと!!」
公爵家の人間が来たということで、それはもう大慌て。終いには――
「申し訳ありません、アレン様。私の心許ない言葉で恥をかかせてしまいまして……。
僭越ながら、命をもって償わせてもらいます!!」
「やめんかぁぁぁぁ……ッ!!」
突然、白装束に着替えたセバスが切腹を行おうとしたので、俺は慌てて止めに入った……というか何処から出した!!
屋敷に帰ってきて早々、騒がしい使用人たちのせいで疲れてしまった。ただでさえ長時間の移動で疲れているというのに。
後ろで黙って見ていた二人も、どう反応すればいいのか分からず若干パニック状態に陥っている。
(はぁ~……疲れた……)
ようやく落ち着きを取り戻すかと思われた次の瞬間。遠くから俺の名前を呼ぶ一人のメイドが走ってきた。
「アレン様ぁぁぁぁ……ッ!!」
そのメイドは止まることを知らず、俺に突っ込み、そのまま抱きつくようにホールドしてきた。
「お久しぶりですアレン様……本当にお会いしたかったのです……!」
「@¥:@@^:・:;……!!」
俺に抱きついてくるメイドは、これでもかというほど強く抱きしめてきて、そのあまりの力に、喋るどころか息を吸うことすらままならなかった。
俺は必死にそのメイドの背中を叩き、ギブアップの意思を示すが、まったく聞く耳を持たない。
「これ、アンナ。公爵様の前ではしたないですよ」
セバスの声に反応したアンナは、はっと我に返り、セバスの方へ身体を向ける……が、決して俺を離そうとはしなかった。
「はっ……!!
申し訳ありませんでした、セバス様。つい、アレン様に会えると思い、いてもたってもいられなくて……」
淑女としてはしたない姿を見せたアンナは、すぐにセバスに謝りを入れる……が、そんな空気の中でも俺はアンナの腕の中でホールドされ続け、ずっとギブアップのサインを出していた。
……が、いつの間にかギブアップの宣言をするのをやめていた……チーン。




