30,ジャガイモのフルコース……作っちゃいます(後編)
(な、なんでシリウスがここに!?)
突然シリウスが登場したことに驚いてしまった俺だったが、ふと前世での妹の話を思い出す。
(あ、そういえば……。お忍びで城を抜け出したシリウスが街でばったり遭遇したヒロイン(ルシア)とお忍びデートするっていうイベントがあるとか言ってたっけ……。まさかそれが今日!?)
またしてもイベントフラグをへし折ってしてしまったと思った俺は、内心、心が張り裂けそうな思いになってしまう。
その間にも時は進み、店主がシリウスに理由を尋ねる。
「な、なぜ第一王子殿下がこのような場所に!?」
「こ、このような場所って……ッ!!」
自分のお店を馬鹿にされた事に腹が立ったリゼットだったが、第一王子の前という事でここはグッと我慢した。
「いや、何……。お忍びで街を見て回っていた時に、偶然良い匂いのする店があったから来てみただけだよ。
そしたら、私の友人であるアレンと君が争っているところに遭遇したから、何事かと聞いているだけだよ」
「そ、それは……」
シリウスの質問に答えようとした店主だったが、ここで変に嘘をついてバレてでもしたら、どうなるか分からないと判断した店主は、一言も話す事なくその場から一目散に逃げて行った。
「行ってしまったか……。まぁ、今の私はあくまでお忍びだからどうこうするつもりはないが」
シリウスは、爽やかなスマイルを浮かび上がらせながら、何事もなかったかのように俺の方に顔を向けてきた。
「それにしてもアレン。まさか君とルシアがここで働いていたなんて知らなかったよ。教えてくれれば、毎日ここに食べに来たっていうのに」
「あー、いや別にここで働いているってわけでなく……。ちょっと色々あって臨時で働いていただけで、明日からは来ないつもりだよ」
俺とシリウスとの何気ない会話をしている時に、俺が「来ない」というセリフを聞いたリゼットは、物凄い勢いで俺に近づいてきた。
「ええ!! アレンさん、もううちでは働いてくれないの!?」
「ああ、まぁ軌道に乗るまでって決めてたし。そもそもここはリゼットたちの店だろ? だったらいつまでも俺が口を出すわけにはいかないだろ」
「そ、それもそうかもですけど……」
落ち込むリゼットだったが、何かを閃いたように顔を上げた。
「そうだ、だったら。アレンさん……うちと結婚して!!」
「「「……!?」」」
突然の爆弾発言に俺は硬直したが、すぐにツッコミを入れる。
「いやいやいやいや、ちょっと待って。なんでいきなり結婚の話になるのかなリゼットちゃん?」
「え? だって、アレンさんがうちと結婚したら、アレンさんはうちの旦那さんになり家族になるってことやろ。だったらずっとお店で働いてくれて、お店も安泰っていうわけやろ?」
「いや、確かに理屈ではそうなるかもしれないが……。それだけのために好きでもない相手に自分を犠牲にするなんて、よくないだろ。もっと自分を大切にしなさい!!」
まるで父親のような説教をしてしまう俺。するとリゼットは真剣な眼差しで――
「え? うちアレンさんのことめっちゃ好きやで?」
大胆な好意宣言に、俺は思わず赤面した。
「だって、アレンさんめっちゃ優しいし、料理も滅茶苦茶美味しい。顔は……まぁ普通だけど、それでも有り余るほどの料理スキルにうち、めっちゃ惚れてまった! だから、別に嫌いじゃないし――うちと結婚して!!」
饒舌に惚れた理由を語るリゼット。
確かに“異性の心を掴むには、まずは胃袋から”ということわざはあるが、これは掴みすぎだ。
「なぁなぁ……。アレンさんはうちの事嫌い? それとも好き? なぁなぁ……」
物凄くグイグイくるリゼットに今にでも押し負けそうになったその時……。
「だ、ダメです!!」
先程から黙って聞いていたルシアが間に入って俺とリゼット離してきた……グッジョブルシアさん!!
「もう、なにするのルシアっち。せっかくあと少しでアレンさんを落とせそうだったのに……」
(……全くもってその通りである)
「ダメ……絶対にアレンさんだけはダメ!!」
「えー、何でダメなの? 別に今アレンさんは誰とも付き合ってないでしょ? だったら、うちがエントリーしても大丈夫でやろ?」
「た、確かにそうかもだけど……とにかくアレンさんだけはダメ!!」
(そんなダメダメ言わないで……傷つく……)
なぜか、俺の取り合いのような空気になってしまい俺はどうしたらいいのだろうかと考えていると、後ろから突然俺の方に手をかけてくるダリアの姿があった。
もしかして、俺に助け舟でも出してくれるのだろうかと思ったが……違った。
「アレン……いや、兄貴。どうか妹の事をよろしく頼む!」
「いや、何言っちゃってるのあんた!!」
妹の方の助け舟だった。
シリウスは遠目からコロッケを食べながら、俺たちの騒動を“つまみ”にしている。
(誰でもいいからこの状況を何とかしてくれ!)
……数年後。
レガーロ亭は、誰もが知る有名店へと成り上がり。その有名店になしあがった陰には、最強の料理人が助太刀したという噂があったとかなかったとか……。




