28,デートイベントは、波乱がいっぱい
学園に復学してから数日。
特に大きなトラブルもなく日々が過ぎていき、気づけば――復学後最初の休みの日。つまり、ルシアとのデートの日である。
(……うう。緊張する)
俺は待ち合わせ場所に一時間前から到着していた。ソワソワしすぎて落ち着かず、気づけば目の下には黒いクマまでできている。
(いや、違う。これは楽しみすぎて眠れなかったとかじゃなくて……あくまで予行練習! ルシアが攻略対象とデートする時のための予行!!)
誰に向けての言い訳なのか分からない言い訳を心の中で繰り返していると――
「お、お待たせしました。アレンさん」
俺の名前を呼ぶ声がした。
少しおしゃれをした私服姿のルシアが、恥ずかしそうに立っていた。
淡いクリーム色のワンピースが、ふわりと風に揺れて光を柔らかく反射する。
その色は、まるでルシア自身の雰囲気をそのまま形にしたようで――見ているだけで胸がぎゅっと締め付けられる。
いつもより丁寧に整えられた髪が、そっと肩にかかっていて――その姿は、反則級に可愛かった。
私服姿のルシアを見た俺は、そのあまりにも可愛らしい姿に心を一瞬で射抜かれ、胸を押さえながら、その場にバタリと倒れてしまった。
「だ、大丈夫ですかアレンさん……ッ!!」
突然倒れた俺に、ルシアが慌てた様子で駆け寄ってくる。その必死な声が、さらに胸に刺さる。
俺は地面に手をつきながら、なんとか言葉を絞り出した。
「だ、大丈夫。ちょっと、ルシアが可愛すぎて倒れただけで……って、あ」
言った瞬間、自分で自分の口を塞ぎたくなった。完全に本音が漏れた。
「そ、それは……その……。あ、ありがとう……ございます」
ルシアは顔を真っ赤にしながら、気恥ずかしそうに俺から視線をそらす。その仕草がまた可愛くて、俺まで恥ずかしくなる。
……。
しばらく甘酸っぱい空気が漂い、このままでは攻略対象が俺になってしまう――そんな危機感を覚えた俺は、空気を変えるように勢いよく立ち上がった。
突然の動きにルシアが「ひゃっ」と小さく声を上げて驚いたが、俺はそんなことなど気にせず、とりあえず移動しようと提案し、急ぎ足でその場を離れた。
「あ、待ってください!!」
ルシアも慌てて俺の背中を追いかけるように歩き出した。
少し歩いた俺とルシアは、王国でも一番人通りが多く、いろんな店が立ち並ぶ大通りへと足を運んでいた。
「わぁ、広いですね!!」
初めて見る大通りに、ルシアは目を輝かせて興奮している。どうやら学園に入学してから、一度も学園の外に出たことがないらしい。
理由は簡単――一人で出歩くのが不安だからだ。
……まぁ確かに、田舎で育った子がいきなり都会のど真ん中で暮らし始めたら、一人で街を探索するのは不安になるよなぁ。
(分かる……分かるよーその気持ち、うんうん)
俺が一人、お父さん風を吹かせている隣で、目をキラキラと輝かせているルシアが声をかけてきた。
「それで、アレンさんはいつも、どういう所を周られるのですか?」
と聞いて来た。いつもは足りない調味をなどを買い足すために店を周るが
今回はルシアもいるため、とりあえず色々見て周ろうと提案する俺。
ルシアも元気よく「はい!」と返事をしてくれた。
(こんなもん、惚れない方が無理があるってもんだろ!)
そんな俺の心の叫びをあげながら色々見て周ることに。
ーーー
見て周る店も後で考える
例
雑貨屋の前を通れば、ルシアは並んだ小物に目を輝かせ、
菓子店の前では甘い匂いに釣られて足を止め、
露店の並ぶ通りでは、珍しい果物を見て小さく感嘆の声を漏らす。
どの店でも、ルシアは初めて見るものばかりで、
そのたびに楽しそうにきょろきょろと周りを見渡していた。
ーーー
そうこうしていると、気づけばもうすぐお昼なろうという時間だった。
ぐぅ~。
「流石に腹減ってな」
「そ、そうです……ね」
腹の音を響かせた俺は、腹に手を当てながら嘆く。そんな俺の姿を隣で見ていたルシアは、何か言いたげに体をモジモジと揺らしていた。
「あ、あの……アレンさん……ッ!!」
覚悟を決めたルシアは、顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに俺へ話しかけようとした――その時。
「ちょっと何してんのよこのバカ兄貴!」
「バカとはなんだバカとは……ッ!! 俺は良かれと思ってやっただけで!!」
「だからと言って限度があるでしょバカ兄貴!!」
どこからともなく、男女の激しい口喧嘩の声が聞こえてきた。その声が気になった俺は、そちらへ視線を向ける。
案の定、俺より背の高い男性と、少し背の低い女性が睨み合いながら言い争っていた。今にも手が出そうな雰囲気で、周囲の空気がピリついている。
そう思った瞬間、先ほどまで俺の隣にいたルシアが、二人の間にすっと割り込んでいた。
「喧嘩はそこまでですよ!!」
「「ああぁん……ッ!?」」
二人は、物凄い怒った剣幕でルシアを睨んできた。……正直、かなりビビった。
しかし女性の方は、ルシアの顔を見るなり、お客か何かと勘違いしたのか態度を一変させ、一瞬でお淑やかな“仕事モード”に入った。
「――あ、もしかしてお客様ですか?これは大変失礼いたしました」
あまりの変わり身の早さに、俺も隣で聞いていた男性も、ぽかんとした顔で女性を見つめていた。
「……相変わらず変わり身が早いなおめぇは……うぅ……ッ!!」
男性が小さく呟いたその瞬間、女性は目にも止まらぬ速さで男性の腹に一撃を叩き込んだ。
「ぐふっ……!」
たまらず男性は変な声を上げ、その場に倒れ込み、気絶してしまった。
突然の出来事に、俺は思わず口を開けたまま固まってしまった。咄嗟に「大丈夫なんですか?」と女性に声をかけると、彼女はケロッとした様子で、
「大丈夫ですよ!」
と軽い調子で返してきた。
(いや、絶対大丈夫じゃないだろ……)
とは思ったが、本人がそう言うなら追及しても仕方ない。俺はそれ以上は深く突っ込まないことにした。
「そ、そうですか。まぁ大丈夫と言うならいいのですが……。それより、先ほどなぜこの人と喧嘩を?もしよければ、話を聞かせてもらえませんか?」
俺がそう尋ねると、女性は最初こそ警戒した表情を見せたが、俺の真剣な眼差しに心を動かされたのか、ようやく口を開いてくれた。
「……私たち、兄妹なんです。兄がダリアで、私がリゼット。家族で《レガーロ亭》という飲食店を経営しているんですけど……」
そこから語られた内容は、思った以上に深刻だった。
「最近までは順調だったんです。お客さんの評判も良くて……。でも、近くに新しい飲食店ができてしまって、お客さんが根こそぎそっちに流れてしまって……」
リゼットは悔しそうに唇を噛みしめながら続けた。
そこまで聞けばどの飲食店にもよくある話だなと聞き流せたのだが、話には続きがあった。
「……店主である父が、突然何者かに暴行されてしまって。しばらく料理ができない体になってしまったんです」
リゼットは悔しそうに唇を噛みしめる。
(いや、そんな漫画みたいな展開ある!?)
とツッコミたくなるが、実際に起きているのだから仕方ない。
「父の代わりに兄が厨房に立つって言い張ったんですけど……兄はまだ修行中で、とてもお客様に出せるレベルじゃなくて……」
なるほど、あの喧嘩の原因はそこか。
「それに……ライバル店の料理が、うちの料理とほとんど同じなんです。味も見た目も似ていて……お客さんがどんどんそっちに流れてしまって……」
リゼットは肩を落としながら続けた。
「だから兄は、新しいメニューを作ろうとして……色んな食材を手当たり次第買い込んで……私が止めても聞かなくて……さっきの喧嘩になったんです」
ここまで話して、ようやく先ほどの騒動の理由が繋がった。俺とルシアは黙って話を聞きながら、神妙な面持ちでその場に座り込んでいた。
「ご、ごめんなさい。こんな変な話をしてしまって……。お客様には何の関係もないのに……」
リゼットは申し訳なさそうに肩をすぼめる。
(確かに、俺たちには関係ない話……だが。こんなの聞かされたら、ルシアは……)
案の定、黙って聞いていたルシアが口を開いた。
「そんな、謝らないでください!確かに私たちは、先ほど出会ったばかりの関係ですけど……
こんな話を聞かされて黙っていられるわけがありません。私たちでよければ力になります! ですよね、アレンさん!!」
(ですよね……)
困っている人を放っておけないルシアは、俺に物凄い期待した眼差しを向けてくる。こうなってしまった彼女を止めるすべは、もうない。
「はぁ~……。確かに、こんな話を聞かされて黙って帰ったら、後で色々と後悔しそうだ。俺でよければ手伝うぞ」
こうして――半ば強制的に発生したこのイベントを、俺は引き受けることになった。




