26,さらなる波乱の予感!?
皿に乗せられた唐揚げを見た三人は、今まで嗅いだことのない肉の香ばしい匂いに、一斉に――
ゴクリ……。
喉を鳴らした。
特にアレンの料理を初めて目撃したシリウスは、初めて見る料理に言葉を失っていた。そんな中、隣に座っていたルシアが、何の迷いもなく唐揚げに手を伸ばし、フォークで刺した唐揚げをそのまま口に運ぶ。
その直後――
ルシアは、まるで天使と見間違えるほどの飛び切りの笑顔を浮かべた。その笑顔を見た殿下は、思わず顔を赤らめる。
(か、可愛い……)
殿下が心の中で悶えている横では、目にも止まらぬ速さで唐揚げを平らげていくクリスティアの姿があった。……よほど美味しいのだな、それにしても早えな、おい!!
ルシアの幸せそうな表情を見て、殿下も自分も食べようと唐揚げに視線を向ける。
ゴクリ……。
再び唾を飲み込み、恐る恐るフォークを手に取る。ゆっくりと唐揚げにフォークを刺すと、中から肉汁があふれ出した。
その肉汁から、これでもかというほど香ばしい香りが漂い、我慢できなくなった殿下は、思い切って唐揚げを口に運ぶ。
カリ……ジュワァー!!
口に入れた瞬間、肉汁が一気に広がった。
「アッツ……ッ!!」
思いのほか熱かったのか、殿下は慌てて口を押さえながらも、噛むのは止めない。しばらくすると熱さが落ち着き、唐揚げ本来の旨味が口いっぱいに広がる。
(な、なんだこの肉……!外は軽く弾けるように香ばしいのに、中は驚くほど柔らかい……噛むたびに旨味が溢れて、まるで舌の上で踊っているみたいだ……!)
まだ一つしか食べていないのに、殿下はすでに満足したような表情になっていた。
「こんなに美味しいものがこの世にあっただなんて、驚きだよ」
(いや、たかが唐揚げにオーバーな……)
心の中でツッコミを入れていると、殿下がこちらに視線を向けてくる。……まぁ、こっちの世界の人からすればやっぱり物珍しい食べ物なのだろうと、改めて思いなおす俺だった。
「どうやら僕は、とんだ勘違いをしていたようだ。アレン……と言ったかな?どうだろう、君さえよければ僕専属の料理人にならないか?」
「……はい?」
物思いにふけっていると突然、殿下から意味の分からない提案をされてしまう。隣で話を聞いていたルシアとクリスティアも突然の引き抜きに黙っていはいられなかった。
「し、シリウス殿下。な、何、変な言うんですか!?」
「そうね。いくらあなたがこの国の王子だとしても、それは見過ごせないわね。
彼は、私専属の料理人になるだから、あなたの料理人にはならないわ」
「そうですよ、アレンさんは、ティアの……って違うでしょティア! アレンさんは誰のものでもないですよ!!」
唐揚げ一つから、なぜか俺の“所有権争い”が始まってしまう。……なんでそうなる。
収拾がつかないと察した俺は、呆れたように口を開く。
「あー、申し訳ないですが。俺は誰かの専属調理師とかになる予定はないから、諦めて下さい」
収集がつかなかったため俺は、誰かの物になるつもりはないと宣言。それを聞いた三人は一斉に黙り込んでしまった。
「そうか、それは残念だ……」と殿下はしょんぼり。
「まぁ今はそれでいいわ。でも私、諦めが悪いの。いずれアレン君を私のものにするから覚悟しておくことね」
悪役令嬢らしく悪い表情で俺を睨みつけクリスティア。
「わ、私も、あ、アレンさんと……うぅ」
ルシアに関しては、何かを言いかけた後に、なぜか顔を赤らめ、両手で顔を覆ってしまう。
(一体、何だって言うんだ……)
俺は一人ため息を吐きながら、モヤモヤとした気持ちをを抱えていると、シリウス殿下が続けて俺にある提案をしてくる。
「専属料理人に関しては一旦諦めよう。ならば、私のことを友として接してくれはしないか?」
「友……?ですか」
突然、友になってくれと提案されてしまい驚いてしまったが、なぜか俺にイケメンオーラ全開で視線を向けてくる殿下。
(この表情を乙女が見たらきっと、鼻から滝のように血を噴出するかもしれないが。男である俺からすれば、少しイラっとくるだけだぞ、それ)
内心イラっとしながらも、これ以上メインキャラたちと関わりたくないという気持ちが強くなる……が今更かな。
正直、これでもかと言うくらいメインシナリオに関わってしまい、メインキャラたちともかなり親密になってしまった俺は、内心、諦めというか……覚悟というか……そういった感情が芽生え始めていた。
「はぁ~、分かりましたよ。私なんかでよけれな殿下の友になりましょう!」
そう言った瞬間――シリウス殿下の顔が、ぱぁっと花が咲いたように明るくなる。
「本当かい!? アレン!いや……ありがとう。心から嬉しいよ」
「アハハ、ソンナオソレオオイ」
心ここにあらずと言った気持ちで殿下の……いやシリウスの話を聞いていた。
そんなこんなありながらも昼食を無事終え、しっかりと後片づけをした俺達は、各々午後の講義を受ける教室へと向かう。
俺とルシアは、途中まで同じ方に向かうため、一緒に歩いていた。
……。
正直気まずいというかなんというか……一体何を話したらいいのか分からず黙っていると……。ルシアが何やら手をモジモジとさせながら、俺に話しかけてきた。
「……あ、あの、アレンさん!」
「え?な、なに?」
突然声をかけられたため、一瞬動揺してしまい、変な声を出してしまった。
「えっと……その。アレンさんは、次のお休み……何か予定とか入っていたりしますか?」
「え、休みの日?」
(どうして、休みの日なんかを聞くんだ?)
なぜ休みの日を聞いてくるのか分からなかった俺だったが、特に隠しておく理由もないため正直に話すことにした。
「うーん、特にこれと言った予定はないな。強いて言うなら、料理で足りなくなった調味を買ったり、作ったりするくらいだな」
「……そうですか」
俺の話を聞いたルシアは、顔を下に向けしばらく黙りこくり、何かしらの覚悟したかのように、両手をギュッと握りしめた。
「あの、もしアレンさんが良かったらなのですが……。私も一緒についていってもよろしいでしょうか?」
(……え、えぇぇぇぇぇぇ!?)
突然ルシアから提案された事に驚いてしまった。
お出かけという事は、つまり”デート”っという事……いやいやいや待て待て待て。相手は、このゲームのヒロインだぞ。ヒロインがモブである俺とデートだなんて、そんなの良い分けがない……。
心の中でいけなことだと、自分に言い聞かせていた俺だったが、チラッとルシアを見た俺は、かなり心を揺さぶられてしまった。
目をウルウルとさせ、断られるかもしれないという不安そうな表情で俺を下から見つめてくるルシア。
こんなあざと可愛いポーズをしてくる女の子の誘いを断れる男子なぞ、この世どころか、前世にもいないだろう!!
「……分かったよ。俺なんかでよければ次の休み、何処か一緒に出掛けよう」
「ホントですか!? 嬉しいです!!」
デートの誘いにOKされた事が余程嬉しかったのか。ルシアは、これでもかと言わんばかりの飛び切りの笑顔を見せた。
(うう、眩しい……ッ!!)
前世が陰キャであり、彼女がいたことのない俺からすれば、ルシアの笑顔は直視できないくらいの眩い光を放っていた。
そんなことをしている間に気づけば、ルシアと別々の教室へ向かう分かれ道に着いていた。
「あ、私、こっちなので。じゃあ、アレンさん。また後で」
別れる際にも、これでもかと言うくらいの笑顔で俺に手を振るルシア……可愛い。
俺もそれに応えるように手を振りながらルシアと別れた。
……俺達の姿を陰で、見てくる一つの集団がいた事を俺は知らない。




