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24,久しぶりの学園だが、暗雲の予感……

 ミノタウロスとの激闘から数日後……俺は久しぶりに学園に顔をだしていた。正直、あのダンジョンでのイベントが遠い日のことのように思えてくる。

 まぁそれも無理はないが。なんせミノタウロスとの激闘の後、俺は二日間も眠り、無事目を覚ましたかと思えば、男爵から子爵への格上げによる爵位授与が行われ。

 さらにその日の夜には、息つく暇もなく王宮でのパーティーに強制参加……という、ここ数日は、それはもう怒涛の忙しい日々を送っていたのだ。

……一体、俺の平穏なモブライフは何処へ行ったのやら。


「はぁ~」


 俺が小さくため息を吐きながら歩いていると、隣で一緒に歩いていたルシアが心配そうに声をかけてくれる。


「あの、アレンさん。大丈夫ですか? なんだか、凄くお疲れのように見えますが」

「あ、あーいや、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

「いえ」


 ルシアは、優しく微笑み返してくれる。それは、まるで聖女のような微笑みに、俺の疲れ切った精神を体の底から癒してくれる。

 正直、この際。俺の隣にルシアがいることは、もう良しとしよう。

 だが、それ以上にいま俺を悩ませているのが俺のもう隣にいる淑女なのである。

 ギギギ、と錆びついた人形のように、俺は、ゆっくりとルシアとは反対方向に顔を向ける。

 そこには、凛とした立ち振る舞いで、美しく輝く銀髪をなびかせながら歩く、公爵令嬢クリスティアの姿があった。


「あら、どうしたのかしら、アレン君」

「……い、いえ何もないですよティアさん」


 俺と目が合ったクリスティアは、「何か文句でもあるのかしら?」と言わんばかりにどこか不敵に笑いかけてくる。

 俺は、引きつりそうな顔を必死に動かし、精いっぱいのビジネススマイルで対応した。

 クリスティアとは、あのダンジョンの一件からなぜか俺に執着するようになり、今ではルシア並みに俺と一緒にいる事が多い。


 正直それが一番の問題なのである。


 元々ルシアは、ゲームの中ではメインヒロイン扱いだが、この世界では平民。特待生としてこの学園に入学している。

 故に俺同様、他の貴族たちからは、よく思われない、もしくはどうでもいい存在である。

 だが、このクリスティアは話が別である。

 彼女は正真正銘、公爵家の令嬢であり、容姿もずば抜けていい。性格に多少、難ありとはいえ、同じ学園に通う生徒たちからは、『高嶺の花』のような存在。

 そんな彼女が、ポッと出の男――ましてや、『クリスティアの功績を横から掻っ攫った、子爵!』と噂されている俺と一緒にいれば、よく思われないのは仕方のないことだった……。

 周囲からこれでもかと突き刺さる、痛いほどの視線をかいくぐりながら、俺達はなんとか教室へと向かった。


 目的の教室の前まで到着した俺とルシアは、別のクラスであるクリスティアと別れ、教室の中に入る。

 そこでも、周囲からの嫉妬と悪意の視線を嫌と言うほど浴びることになった。だが、そんなものは気にせず、俺たちは前の席に腰を下ろす。

 この学園には決められた席というものが存在しないため、どこに座ろうが自由だ。

 席に着いた俺とルシアは、その後特にトラブルもなく授業を受けた。背後から嫌な視線が突き刺さり続けていたが、気づかないフリを貫き通し──気づけば昼食の時間になっていた。


 昼食になると、他の生徒たちは一斉に教室を出て食堂へ向かう。俺とルシアも、いつもの中庭で昼食を取るため教室を出た──その時。

 

「「きゃぁぁぁ!!」」


 突然、廊下の奥から貴族令嬢たちの黄色い悲鳴が響き渡った。何事かと顔を向けると、奥から現れたのは──。


「やぁ、ルシア」

「し、シリウス殿下!? どうして殿下がここに」


 シリウス殿下だった。

 どうやら目的は、ルシアらしく、俺は咄嗟に頭を下げ、まるで忍者のように気配を殺して完全に部外者を装った。


「はは、殿下なんてそんな他人行儀な。私の事も気兼ねなくシリウスと呼んでくれ」

「で、ですが……」


 困った表情でルシアは、俺の方に視界を向ける。……いや、俺に視線を向けられても困るのだが。


「と、ところで。殿下はなぜこちらに? 食堂へ行くには真逆かと思われますが」


 咄嗟に話題を替えるルシア。シリウス殿下は一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに王族らしいポーカーフェイスに戻った。


「あ、ああ、それなんだが……よかったら私と一緒に昼食をどうかと思って。君を探していたんだ」


 その言葉に、周囲の令嬢たちが一斉に悲鳴を上げる。


「ででで、殿下と一緒にお食事ですって!!」

「誰よあの子。殿下に直接食事を頼まれるなんて!!」

「あ、あれよあの子。特待生で入った……平民の子よ」


 そういった声が周囲から聞こえてきた。ルシアも突然の提案に困惑を隠しきれないようで、オロオロと身体を震わせながら、たまに俺の方へ視線を送ってくる。そして──何か覚悟を決めたように、シリウスへ向き直った。


「あ、あの、殿下。お誘いは大変ありがたいのですが……。申し訳ありません……!!」

 

 殿下の誘いをきっぱり断ったのだ。その瞬間、周囲の者たちから驚きと罵倒めいた声が一斉に上がる。だがルシアは続けて、とんでもない爆弾を投げ込んだ。


「私、こちらのアレンさんと昼食をともにするので……殿下とは一緒には食べられません!!」


 ……と、俺に向かってとんでもないキラーパスを放ってきた。


(お、おいぃぃぃぃぃ!! 何とんでもないこと言っちゃってくれてるのルシアさぁぁぁぁん!!)


 心の中で悲鳴を上げながら頭を下げている俺の頭上から、“負のオーラ”をまとった殿下の姿が容易に想像できる。

 しばらく沈黙が流れた後、ポーカーフェイスを崩さないシリウスが口を開いた。


「……そ、そうか。それは残念だ。君とは色々と話がしたかったのだけど……。そうだ、いいことを考えた」


 その後、シリウスの口から“とんでもない提案”が飛び出すことになる。……嫌な予感しかしない。



……しばらくして、中庭にて。

 初夏の風が吹く中庭に、アレンとルシア、そして──なぜか当然のように隣に立つクリスティア。さらに、殿下ことシリウスの姿まであった。


……なんでこうなったッ!!

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