20,狂った歯車が戻るとき?(前編)
数日後……。
俺は今、爵位授与なる不名誉な式に参加するため王族が住む城に来ていた。
「……はぁ~。憂鬱だ」
吐き出した大きなため息が、豪華絢爛な城の廊下に虚しく消えていく。今すぐ踵を返して、自分の部屋の布団へダイブしたい気分だ。
(そもそも俺は、こんな式典に来たくもなかったのだが、ティアの奴が……)
なぜ俺がこんな所に来ているのかと言うと、ミノタウロスステーキを食べたあの日まで遡る……。
「いやいやいや、なんで俺が表彰されるわけ!?」
厨房に、俺の必死の抗議が響き渡った。それもそのはず、なぜ何もしていない俺が国から表彰されるのか理由が分からなかったからだ。……まぁ、表彰される理由はすぐに判明したが。
どうやら、どこぞの大貴族様が俺に対し推薦状を出したらしい。その貴族というのが、アイズベルグ家……そう、目の前ですまし顔をしているクリスティア嬢である。
(いや、何余計な事してくれてんだこの悪役令嬢は!!)
心の中で激しく悪態をつきながら抗議するが、決して口には出さない。……うん、命は大事だからね。公爵家の権力で首と胴体がオサラバするのは勘弁してほしい。
そんなこんなのやり取りを繰り広げているうちにも容赦なく時間は過ぎ、――そして現在に至る。
ちなみに、ミノタウロス討伐と殿下救出に直接貢献したルシアとクリスティアも、後日、国から表彰されてちょっとした褒美がもらえるとのこと。ただし、なぜか一番手柄を立てた扱いになっている俺未満の規模で、だそう。……俺もそっちのの方がよかった。
そんな現実逃避を心の中で呟きながら、とうとう王との謁見の時間になる。俺は、今にでも破裂しそうな心臓をグッと抑え込み謁見の間へと足を運ぶ。
……正直、そこからは緊張のあまり全然記憶がなかった。
確か、王の前に跪き……なんか色々と話をされ……「息子を助けてくれてどうも」とかなんやら。その後、いつの間にか儀式が行われ、気づけば俺は実家の家柄を飛び越えて『子爵』に昇格していた。
謁見の間の周囲にいた貴族たちからは、「公爵令嬢のお零れを貰ったイヤらしいモブ貴族」だとかまぁ色々ヒソヒソ言われた気がする。正直、まったく居心地のいい場所じゃなかったが、一つだけ良い事があった。
……それは。
「王妃様が超別美人だった!!」
……。
謁見を終えた俺は、ルシアとクリスティアが待つ控室のような場所で、爵位授与式がどうだったか説明していた。
――のだが、一通り話を聞き終えた二人は、なぜか俺に対して蛇を見るような軽蔑の視線を送ってきた。
「アレンさん……」
「あなたねぇ……」
ルシアの引きつった営業スマイル、そしてクリスティアの冷ややかなジト目が俺を刺す。……なんか変な事言ったか。と心の中で?を思い浮かべる俺。
正直、色々思う所はあったが、とりあえず無事、授与式を終えられたしさっさと帰って何かお菓子でも作ろう!……っと思っていたのだが。
今夜、王宮内にてパーティーが開かれる予定で、そのパーティーにミノタウロスの討伐に貢献した俺たちも是非参加して欲しいと頼まれている――いや、事実上の強制参加をを強いられている。
(……はぁ~、確かに、ミノタウロス討伐した後。王宮内でパーティーを開かれる……というシナリオがある事は知っていたが。まさか、それに参加させられるとはね)
本来このイベントは、攻略対象であるシリウス殿下とある一定の親密度を上げたときに発生するランダムイベントで。このイベントが発生すると、ヒロインであるルシアと攻略対象のシリウス殿下との親密度が急激に上がる『激熱イベント』であり、同時に、悪役令嬢のクリスティアとの関係を最悪にさせる決定的な引き金となるイベントでもある。
勿論、モブである俺が参加することなど、本来断じてありえない事なのだ。なのに、このタイミングで発生するとかマジで運がついていないとしか言いようがない。
「はぁ~……」
俺は小さなため息を吐きながら、ルシアとクリスティアの方に顔を向ける。本来なら互いに火花を散らして敵対しているはずの二人が、今じゃ親友かと言わんばかりに仲良く並んで談笑しており、関係性が崩壊するようには微塵も見えないからだ。
「はぁ~……」
俺は再び小さなため息を吐きながら、自身が招いた結果だと反省しつつ。ルシアが攻略対象としっかり結ばれるようにサポートしないとな……と、改めて心に誓うのだった。




