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15,また知らない天井だ……

……知らない天井だ

 俺はまた、何処か分からないベッドで寝ていたようだ。どうしてまたこんな所で寝ているんだっけ……。俺は頭をフル回転させて、記憶を思い出してみる。


(あ、そうか。確かミノタウロスと戦って……それで)


 死闘の果てに、意識がブラックアウトした瞬間のことを思い出す。同時に、一つの最悪な可能性が脳裏をよぎった。


(もしかして、また死んだのか?)


……っと。

 ──いや、まぁ、そうだよね。スペランカー並みの俺がまともにミノタウロスと戦えばそうなるよね。……ああ、こうなるんだったらもっと美味しいごはんとか食べとけばよかったな……後悔しながら。


(今度転生した時は、あんなモブキャラじゃなく。主役級のポジションになって、ヒロインとラブラブしたい……!!)


 ベッドの上で、俺はそんな邪な考えを巡らせていた。

……ひとまず現状を確認するために起き上がるか。そう思って上体を起こそうとしたのだが、なぜか身体が重くてびくともしない。……いや、厳密に言うと、左脇腹のあたりに人一人分ほどの『重り』がぴったりと密着しているような感覚があった。


(……ん? なんだ?)


 不可解に思いながらも、かろうじて自由の利く首だけを動かし、視線をゆっくりと下へと向ける。

──その瞬間、俺の視界に飛び込んできたのは、俺に身体を預け、可愛らしい表情で無防備に眠っているルシアの姿だった。


(……ああ、可愛い)


 あまりにも天使すぎる寝顔を見た俺は、心の底から可愛いと思いながらルシアにときめいてしまう──っていやいやいや、何ときめいているんだ俺ッ!! 

相手はこのゲーム『ルミナス・クロニクル』のメインヒロインだぞ!?  モブである俺が彼女の攻略対象になっていいわけがないだろ!

 完全にモブ(アレン)である自分に染まりきっている俺は、自分がさっきまで「死んで再転生したかもしれない」という事を綺麗サッパリ忘れていた。

 そんな風に、俺が心の中で必死に大パニックを起こしていると、ルシアの睫毛がピクリと震えた。


「ん……ぅ……」


 長い睫毛がかすかに震え、ゆっくりと、しかし確実にその綺麗な瞳が開かれていく。完全に覚醒したルシアの視線が、真っ直ぐに俺の顔を捉え──。バチッと、至近距離で正面から目が合ってしまった。


「えっと……おはよう?」


気まずさで顔を引きつらせながら、俺はなんとかそれだけの挨拶を絞り出した。


 すると、目を覚ました俺の姿を見たルシアは、弾かれたように勢いよく起き上がり、両手で口を抑え、その大きな目には大粒の涙をいっぱいに溜めていた。彼女は溢れ出る涙を隠そうともせず、震える声で俺の名前を呼ぶ。


「あ、アレンさん……っ、アレンさん、ッ……!!」


ルシアは言葉にならない声を漏らしながら、勢いよく俺に抱き着いてきた。


「ルシアさんッ……!!」


 突然の事に動揺を隠せない俺……や、やばい。抱きしめられた瞬間に伝わってくる、圧倒的なまでの柔らかさという破壊力と、ふわりと鼻腔をくすぐる特有の甘い香りのせいで、俺の心臓は狂ったような爆音を鳴らし始める。


(落ち着け、落ち着つんだ俺……!り、理性を……理性を保つんだ!!)


 悲しいかな、前世から通算しても女性経験の乏しい俺からすれば、こんな圧倒的なご褒美を正気で耐えきるなどかなりの至難の業だ。今にも邪な欲望に負けて手を出してしまいそうな自分を、ぐっと理性で抑え込み、ルシアが泣き止むまで、俺はその姿勢のまま硬直するのだった。


 しばらくして……。

ようやく泣き止み始めたルシアが、我に返って真っ赤になりながら俺の身体から離れた。これでようやく、まともに会話ができる状態になってくれたわけだが──。

言っておくが、俺は断じて手など出していない。大事なことだから二回言う。俺は断じて手など出していないからな!!

 そんな、誰に向けているかもわからない必死の弁明を脳内で叫びつつ、俺はベッドの上で、自分が気絶した後の状況について尋ねてみた。


 どうやら俺は、あの死闘のあと丸二日間も眠り続けていたらしい。

ミノタウロスを撃破した直後の俺は、今すぐにでも息を引き取りかねないほどのガチ瀕死状態だったそうだ。それを救ってくれたのが、他ならぬルシアだった。 

 彼女が謎のまばゆい光に包まれながら、必死に俺を治療してくれたおかげで、なんとか一命をとりとめたという。


(……恐らくそれは、原作ゲームにおける『聖女の力』だろうな。でも確かあの力は、誰かを強く想う時に初めて発現する特別な力のはずだ。しかも序盤のこの段階では、まだそこまでの強大な力が目覚めるイベントはないはず……。一体どうして……)


 ベッドの上で必死に頭を悩ませていた俺だったが──ふと、一つの『正解』に思い至った。


(……俺が思っていたよりもはるかに殿下が負った怪我は酷かったから、シナリオ以上の力が発動したのかな)


 ひとり脳内で納得し、すっきりと合点がいった様子で深く頷く俺。……鈍いにもほどがある……この主人公は。

 ちなみにその殿下たちは、ルシアの初期治療とあの時咄嗟に出た『聖女の光』によって命に別状はなく、今は念のために治療院にて治療中とのことだった。


(まぁ、国の第一王子に何かあれば大変なことだし……そこは慎重になるのも仕方ないよな)


 ひとまず最悪の事態は免れたようで一安心。そして最後に、クリスティアがトドメを刺したミノタウロスの行方について。


 これは、至ってシンプル。


 ミノタウロスにトドメを刺したクリスティア……アイズベルグ公爵に所有権があるらしく、素材になりそうな、角や皮といった素材は全て剥ぎ取り金に換えたという。……流石というかなんというか。

 ちなみに俺が眠っている間の金は、その討伐報酬から差し引かれているとのこと。……抜け目ないと、改めて大貴族である公爵家の恐ろしさと世知辛さに気づかされる。


 ……というか、一つ気になるのだが。今俺がいる場所ってどこなんだ?

そんな素朴な疑問が頭をよぎった瞬間、カチャリと、部屋の扉がゆっくりと開いた。


「……あら、目を覚ましていたのね。以外にも寝坊助ね、アレン君」


 部屋に入ってきたのはなんと、相変わらず凛とした美しい佇まいの公爵令嬢──クリスティアだった。

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