13,またもや俺がやらかします……
食事を終えた俺は、初期魔法などを使用し手際よく後片づけを行う。
その際、俺の隣でルシアがずっと「ぷりんとはなんですか?」と尋ねてきていたが、俺は「ああ、うん、そうだね」といった生返事でその場をやり過ごした。
「……アレンさん冷たいです」
ルシアが頬を膨らませて小さく呟いたようだが……何を言ったのかよく聞き取れなかった。
その後、俺達三人は気を取り直して、再びダンジョンの奥へと足を進める。その間出てくる魔物は、我らがクリスティア公爵令嬢様の氷魔法にて、すべて凍りつけと相成った……
……しばらくして。特段これと言ったとトラブルもなく順調に奥へと進み、静まり返った通路を歩いていると。
キーン……ッ!
洞窟の奥から、激しい金属音のような音が響き渡った。
「……誰かが、戦っている」
俺が小さく呟いた後、俺達は同時に視線を交わし、音の鳴る方へと足を急がした。通路を曲がり、開けた広場に飛び込んだ俺たちの視界に飛び込んできたのは――。
地響きを立てて荒れ狂う、巨大な魔物……ミノタウロスらしき魔物だった。
(おい、あれって確かこのダンジョンイベントのボス……ミノタウロスじゃねぇか)
俺が心の中で驚愕していると、その足元には、ミノタウロスに必死に立ち向かう同期の学生たちの姿があった。全員が泥と血にまみれ、完全に限界を迎えている。
――そしてその中心には、頭から血を流して地に伏している、シリウスの姿があった。
(待て待て待て、おかしいだろ……!?)
確か、このダンジョンイベントは、攻略対象がゲーム主人公であるルシアと好感度を上げるためのイベントだったはずだ。
殿下ルートを選んだ場合、ダンジョンに入る前に悪役令嬢のクリスティア様との会話シーンを挟み、最後にボスのミノタウロスと戦う。
一度は戦いに負ける、いわば『負けイベント』だが、そこでヒロインであるルシアが初めて聖女の力を覚醒。何とかミノタウロスを撃破して、好感度が爆上がりするシナリオだ。 撃破後に遅れて悪役令嬢が到着し、殿下を気遣う──それが正しいゲームの流れのはず……なのにどうして。
俺が頭の中で必死にそろばんをはじき出していると、ふと隣でおろおろと震えているルシアの不安そうな姿が目に入った。
…………ッ!!
(そそそ、そうだ!! 主人公、ここにいたんだった!!)
そう。本来なら殿下たちと行動を共にしているはずのゲーム主人公は、今、俺たちと一緒にこの場にいる。
(いやいやいや待て待て待て待てよ……。つまり、つまりだよ。殿下たちは主人公がいない状況でミノタウロスと戦い、今まさに瀕死の状態。つまりそれは……)
──『負けイベント』だけが、絶賛進行中という事……そして、その原因を作った犯人は……俺という事……。
(うおぉぉぉぉぉぉ……ッ!!)
心の中で大きな雄たけびを上げるが、今はそんな事をしている場合じゃない。このまま何もしなければ攻略対象の一人である殿下を見殺しにしてしまうし、もしそんな事が国にバレれば、俺の首と胴体がバイバイすることだって……考えたくもない!
だが、助けると言ってもどうやって。俺のこの身体の持ち主であるアレンのスペランカー並みの身体じゃぁ、ミノタウロスを倒すどころが時間稼ぎにも不向き。かといってまだ聖女の力を発現させていないルシアに行かせるわけには……。一体どうしたら……。
頭を必死にフル回転させていると、ふと俺の隣にいるもう一人女性がいることを思い出した。
「アイズベルグ嬢!」
そうだよ、こっちには我らがアイズベルグ令嬢が付いておられるじゃないか。気づいた時には俺は、大きな声でクリスティアに声をかけていた。クリスティアは、特にこれといった動揺も見せず黙って俺の方に顔を向けてくる。
「あんたの今放てる最高火力の魔法で、あのミノタウロスを倒す事は可能か?」
クリスティアはしばらく考え込んだ後口を開く。
「……倒すことは可能よ。ただ、準備にそれなりなりにかかるわ。今の状況でそれはかなり……」
「つまり、倒せるってことだな!!」
クリスティアがまだ話している最中だったが、俺は彼女の言葉を強引に遮った。
「え、ええ。……でもどうやって時間を稼ぐつもり」
あの完璧無比なクリスティア様が、驚いた表情を見せながら小さく戸惑いの声を漏らす。
それを見た俺は、心の中でとある決意を固める。──これは俺自身が招いた結末だ。だったら、自分のけつは自分で拭くしかない。
俺は左拳をギュッと握りしめ……まっすぐに前を見据えた。
「俺が時間を稼ぐ!」
と言い放つ。
「そ、そんな。一人でなんで流石に危険すぎます。だったら私も……」
不安そうな表情でルシアも一緒に時間を稼ぐと言いだしたが、俺はそれを制した。
まだ聖女の力を発現させていないルシアに、あのミノタウロスの相手は荷が重すぎる。それに、もしここでゲームのヒロインに何かあれば、今後のシナリオが完全に詰みかねない。だったらモブの俺が身代わりになるのが、一番マシな選択肢だ。
ルシアは、それでも俺と一緒に行くきだと言いだしたから俺は、優しくルシアの方に微笑みかける。
「……大丈夫、無理はしないから」
「アレンさん」
「それに、ルシアには殿下たちの治療をお願いしたいんだ」
俺の言葉に、ルシアは少し戸惑いながらも小さく「分かりました」と承諾。最後に、「絶対に無茶はだけはしないで下さい」と強く釘を刺された。
「……分かったよ。帰ったらプリンを作ってやるから」
まるで王道の死亡フラグかのようなセリフを吐きながら、俺はマジックポーチから複数色のポーションを取り出した。
いくら三年間鍛えてきたとはいえ、スペランカー並みである俺が、ミノタウロスと正面から戦えばまず命はないだろう。だから、念のために用意しておいた筋力、敏捷、そして魔力を一時的に底上げするバフポーションの数々──俺はそれらの栓をまとめて歯で噛みちぎり、一気に胃袋へ流し込んだ。……本当はもしもの事なんて起こって欲しくなかったけどな。
ポーションを呑んだ直後、身体の底から力が湧き上がってくるのを感じた。俺は片手に剣を握りしめながらミノタウロスへと大きな声をあげながら突撃した!




