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11,悪役令嬢がいろんな意味で強すぎる件について

 ダンジョンの薄暗い通路を進む三人。道中様々なモンスターと遭遇するが難なく突破する。……というか、クリスティア令嬢が異常なほどに強く、エンカウントするモンスターを片っ端から氷漬けにさせるという、もやは敵に同情するレベルだった。ゲームのヒロインであるルシアも一応は戦えるのだが、令嬢の無双っぷりの前では俺たち二人はほとんど出番がなかった。

 ちなみに俺はという、モンスター一匹を辛うじて討伐できるくらいというモブレベルのステータスである。

 元々モブである俺ことアレンのステータスは異様なまでに低く、本当に貴族かと疑いたくレベルだ。武術も魔法適正も平均以下で魔法に関しては初期魔法を何とか使えるレベル。武術……というか筋力に関しては日々の鍛錬と三年間欠かさず作り続けてきた料理のおかげで何とか平均以上の実力はある。……健康的な食事をしてきた成果だな。

 そうこうしていると、なんだか小腹が空いてきた。まぁなんだかんだ動いていればお腹もするものだしな。俺は、クリスティア令嬢に少し休憩しないかと提案。すると意外にもクリスティア令嬢はその案をすぐに承諾してくれた。俺とルシア、クリスティア令嬢は、魔物が出てこない場所……いわばセーフティーフロアへにて一休みすることにした。


(さて何を食べるか……)


 俺は腰につけていた『マジック・ポーチ』を開けて、中を探り始めた。その様子を見ていたルシアが目を輝かせて興味津々という様子で話しかけてきた。


「アレンさん。その腰につけているものって……もしかしてマジックポーチですか?」

「ん、ああそうだぜ」


 マジック・ポーチ。異世界転生あるあるの、荷物の量に関係なくどこへでも持ち運べるチートアイテムだ。下級貴族である俺ですら、なかなか手が出せないほどの高級アイテムである。なんせこのアイテム一つだけで、高級住宅を一軒建てられるほどなのだ。最近、ようやくの思いで手に入れることができた代物だった。 

……まぁ、それでも価格は一番低いランクで、収納できる数にも限りがあるのだが。それでも、料理を作る俺からすれば非常に助かるアイテムなのだ。

 

 心の中で血の涙を流していることなど知る由もないルシアは、初めて見るマジックポーチに興味深々だった。


「ルシアも欲しいか?」

「えっ!? う、ううん、そんな高級なもの、私にはとても手が出せません!……でも、いつか、手に入れてみたいですね」


 両手をぶんぶんと振って遠慮しながら、いつかはというルシアの瞳は、半ば諦めの表情が浮かんでいた。……まぁ無理もない。貴族である俺ですら躊躇するレベルの高級アイテム。それを平民であるルシアが購入できるなんて到底不可能な話だ。

 でも、本来のシナリオだったら、このダンジョン演習で攻略対象である王子たちから貰えるはずのイベントアイテム。それを俺のせいでへし折っちゃったせいで……申し訳ないという気持ちが溢れだした、その時。


「……もしよろしければ、私が以前使っていたお古のマジック・ポーチでよかったら、差し上げますよ」

 完全に蚊帳の外状態だったクリスティア令嬢の口が開いた。

「そ、そんな滅相もありません。そんなお高い物を貰うだなんて」


 あまりの突拍子もない提案に、両手をぶんぶんと横に振るルシア。


「構わないわ。どうせいつかは捨てる予定の物だったから。だったら、あなたに貰ってもらった方が助かるのだけど。どうかしら?」

(マジかよ……! 高級住宅を一軒建てられるほどのアイテムを捨てるって、公爵家の経済感覚はどうなってんだ!? それも俺よりも遥かに上の貴族……公爵家のものとなると、俺の物よりも格段に上のグレードのものだろきっと。……ああ、格差社会怖いわぁ)


 心の底から自分の境遇に絶望をしている俺。それをよそ目に話を続ける二人。


「ですが、いくら何でもそんな高級な物を貰うなんて……」


 いつまでも断り続ける姿を見た俺は、ルシアに助言を伝える。


「アイズベルグ嬢がくれるっていうなら、素直に貰っておいた方がいいぞ」

(流石に公爵令嬢の提案をこれ以上断り続けるのは、不敬にあたるからよろしくないからな)


 俺の助言を素直に聞き入れたルシアは、少し戸惑いながらも、クリスティア令嬢に向かって礼儀正しくお辞儀をした。クリスティア令嬢は少しクスリと笑った後なぜか俺の方に視線を向けてきた。……少し不気味だと感じた俺だったが、とりあえず腹ごしらえをするため、ポーチの中から食材を取り出した。


「アレンさん、これは一体なんですか?」

「ん、これか。これは……肉を煙でいぶした『ベーコン』っていうんだ」


 マジック・ポーチから取り出したのは、ダンジョン演習に行くと分かった日から、前もって仕込んでおいたベーコンだ。

 じっくりと塩やハーブなどで下味をつけた肉に、この世界で採れたチップ——いわゆる木を細かく砕いたもので時間をかけて煙を当て、じっくりと炙り上げた、俺特製の品である。

……ちなみにこのベーコンを屋敷で作った時、あまりの美味さに使用人たちが大絶賛し、一時期うちの屋敷では空前のベーコンブームが発生したことがある。あはは、懐かしいな。

 そういえば、このベーコンが大好きすぎて、常に俺に作れと要求してきた奴がいたっけ。今頃あいつは、何をしているのだろう。

……なんて、一人しみじみとしてみたり。

 さて、料理でもしますか。まぁ料理と言っても今回は、前もって作っておいたものを温めるだけなんだけど。


 まず、ベーコンを一口サイズにカット。次にこれまた前もって用意しておいたスープ……今回はコンソメスープを、持ってきておいた小さめの鍋に入れてから火にかける。ある程度スープに火が通ったら先ほど切ったベーコンを投入。


——フワァッ……! 


 その瞬間、熱せられたスープの中でベーコンの極上の脂がじゅわりと溶け出し、スモーキーで香ばしい香りが湯気と共に空気中に広がる。


「ほぅわぁ……いい匂い」


 幸せそうな吐息を漏らすルシア。一方、平然とした表情で佇んでいたクリスティア令嬢も、そのあまりにも美味しそうな匂いには抗えなかったようで、ふっと綺麗な笑みを零していた。

 俺は手際よくスープを器に移し、ポーチにしまっておいた香草をパラパラとスープに振りかける。


「完成だ!」


贅沢厚切りベーコンのコンソメスープに、ふっくらとしたパン、そして濃厚なチーズ。

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