第4話 新人の面倒を真面目に見る俺! えっ?寄生……はぁ!?ち、違ぇし!
金色の髪が、風になびいていた。
苛立ちを隠そうともしない瞳で俺を睨みつけながら、少年は不満を漏らす。
「あの! 早くスライム以外を狩りに行きましょうよ! 僕は早く強くなりたいんです!」
ティナから任された新人、レン。
剣士を目指しているという少年だった。
事前に聞いていた話では、レベルは十。
年齢から考えると少し低めらしい。
見た目も、屈強な前衛職というよりは、まだ身体が育ちきっていない少年剣士といった感じだった。
まあ。
レベル六で二十五歳の俺が言えたことではないが。
うん。
いつまでもピュアでフレッシュな新人の気持ちを忘れずに済んでいると思えば、悪くない。
悪くないはずだ。
なんでだろう。
少しだけ目が湿っぽい。
そんな俺の繊細な心の雨漏りなど気にも留めず、レンはズカズカと先へ歩き出した。
一応、俺は研修係である。
ここは仕方なく注意しておくべきだろう。
「レン君、だっけ? やる気があるのはいいことだけど、そんなに焦ってもスライムは逃げないし……ね?」
俺は受付嬢ティナを見習い、全力の笑顔を作った。
この村で俺の笑顔は、一度見れば当面見なくてもお腹いっぱいと言われるほどの代物である。
きっと眩しいのだろう。
満足度が高いのだろう。
俺って、罪な男。
「キモいです。その顔やめてください。次やったら、ゴブリンと間違えて斬るかもしれません」
笑顔が一瞬崩れかけた。
だが、日々の表情筋トレーニングのおかげで、俺はギリギリ耐えた。
ありがとう、表情筋。
ビバ、表情筋。
「まあまあ、レン君。君はレベル十もあるんだから、なおさら慎重に進もうね?」
「なんでですか。レベル十ですよ?」
「そう。レベル十だ」
俺は深く頷いた。
「俺より強い」
「じゃあ、なおさら僕が前に出た方がいいじゃないですか」
「違う。俺より強いからこそ、死んだ時に俺が助けられない」
レンが足を止めた。
少しだけ、表情が固まる。
よし。
今のは効いた。
脅しではない。
純度百パーセントの事実である。
この世界では、強いやつが死ぬ時はだいたい一瞬だ。
そして俺は、その一瞬を何度も見てきた。
主に自分で。
「いいか、レン君」
俺は足元の草を踏みしめながら、静かに言った。
「この村の周辺で本当に怖いのは、スライムじゃない」
「じゃあ、何ですか?」
「調子に乗った新人だ」
レンの眉がぴくりと動いた。
「……それ、僕のことですか?」
「違う違う。一般論」
「絶対僕のことですよね」
「一般論に心当たりがあるなら、それはもう成長の第一歩だ」
「うわ、腹立つ……」
レンは露骨に嫌そうな顔をした。
いいぞ。
腹立つくらいでちょうどいい。
怒っているうちは、まだ足が止まる。
足が止まれば、周りを見る。
周りを見れば、死ぬ確率が少し下がる。
レベルは上がらなかったが、そういうことだけはやたらと身についた。
とはいえ。
「やぁぁぁぁ! せいっ!」
レンの一振りが、スライムをまとめて両断した。
ぷるん、と跳ねていた半透明の身体が、まとめて地面に崩れる。
一撃。
本当に一撃だった。
俺が石つぶて片手に命を懸けていた相手が、雑草でも払うみたいに斬られていく。
なるほど。
確かに、レンにとってスライムでは物足りないのだろう。
そしてそれは、強くなりたい俺にとってもチャンスだった。
今なら、この新人にキャリーしてもらえる。
少し先へ進めば、ポイズンバタフライの幼体が群れている場所がある。
あそこなら、今よりも効率よく経験値を稼げるはずだ。
俺は、スライム狩りに飽きてだんだん雑に剣を振り始めたレンを見て、頃合いを見計らった。
「どうかな? ポイズンバタフライの幼体なら……」
レンが、むっとした表情を浮かべる。
やべ。
キャリーしてもらおうという魂胆がバレたか?
「ゴブリンとか、スケルトンとか、ボアとかじゃないんですか? なんでスライムなんて、わざわざ武器を使うまでもない相手を我慢して狩った後に、今度は害虫駆除みたいなことを……はぁ……」
「いいや! 全然わかってないぞ、レン!」
俺の大きな声に、レンの背筋がぴんと伸びた。
「幼体とはいえ、魔物だ! 俺はあいつらに何度敗れたことか……。あいつらは一筋縄ではいかない。気を抜くと、死ぬぞ!?」
レンは、ごくりと息を呑んだ。
「確かに……ここは辺境の地……。スライムですら油断を誘うための前哨戦だとしたら……」
なんだかハッとしたように、ぶつぶつと呟き始めた。
よし。
都合よく誤解してくれた。
細かいことはどうでもいい。
あいつらの危険度を理解してくれたのであれば、それで十分だ。
ポイズンバタフライの幼体。
俺も何度も挑んだ。
何度も挑んで、何度も敗れた。
あいつらの防御力は八十ほどある。
俺が一匹倒すまで、三時間を要したこともある。
激闘だった。
手には豆ができた。
心には虚無ができた。
経験値効率の悪さに、魂が折れた。
そんな魔物。
いや、違う。
今日だけは違う。
今日はレンがいる。
「行くぞ、レン! ついてこい!」
「はい!」
レンは引き締まった表情で、俺の後に続いた。
その顔はもう、さっきまでの苛立った新人のものではなかった。
未知の危険に挑む冒険者の顔だった。
なお、俺の心は最低だった。
キャリー、開始である。




