第5話 知りませーん、考えませーん 効率の前には知能は下がるんだよ!
我ながら最低。
いや、効率的な作戦だ。
俺がポイズンバタフライの幼体の巣穴の前でアピールを使う。
そして、出てきた幼体をレンが斬る。
以上。
なんて美しい役割分担だろう。
俺は誘う。
レンは斬る。
俺は褒める。
レンは斬る。
俺は経験値を見る。
レンは斬る。
完璧である。
「ていやっ! はぁぁぁっ!」
レンは斬った。
ひたすらに斬った。
巣穴から延々と湧き続ける幼体を、がむしゃらに斬り続けた。
俺はアピールで幼体を釣りながら、研修係らしく声を張る。
「強くなりたくば剣を振るんだ!」
「ひゃい!」
「まだまだだ! 冒険者は甘くないぞ!? ポイズンバタフライの幼体ごときに苦戦していたら、この先やっていけないぞ!!」
我ながら、どの口が言っているんだろう。
俺は一匹倒すのに三時間かかった男である。
だが、レンは知らない。
ならば問題ない。
ここに来てから、レンはひたすら剣を振るっていた。
最初こそ文句を言っていたが、今ではもう半分無心である。
少年剣士というより、幼体処刑マシーンと化していた。
「い……いつまでこいつら出てくるんですかぁ!? こんなに巣穴から出てくるなんて、聞いたことないですよぉ!」
「まだまだぁぁ! 本番はこれからだぁぁ! これを乗り越えた時、お前には一流の剣士への道が開かれる!」
「本当ですか!?」
「はず!」
「今、はずって言いましたよね!?」
「細かいことを気にするな! 剣が鈍るぞ!」
「うわぁぁぁぁ!」
半泣きのレンに激励を飛ばしながら、俺はさらにアピールを発動する。
本来、ポイズンバタフライの幼体は巣穴からあまり出てこない。
だからこそ、発見しても狩るのが面倒で、効率も悪い。
だが、今回は違った。
アピールを使うたび、巣穴の奥から幼体がぞろぞろと這い出てくる。
一匹。
二匹。
五匹。
十匹。
気づけば、半日ほどでひとつの巣穴から百を超える幼体を倒していた。
嬉しい誤算である。
経験値が入る。
魔石も取れる。
レンも鍛えられる。
俺はほぼ安全。
なんだこれ。
最高では?
「ふふ……きてる……きてるぞ、俺の時代が……」
俺は思わず口元を緩めた。
ちなみに、「十個ほどの卵」と聞いたことがある。
百匹以上出てくるのは、さすがに多い。
多いのだが。
経験値が入っている時の人間は、都合の悪い計算ができなくなる。
自然界にも、きっと増量キャンペーンくらいある。
よく知らんけど。
「アキトさん! なんか奥から変な音がします!」
「音?」
レンの声に、俺は巣穴の奥を覗き込んだ。
暗い穴の奥。
そこから、かすかに羽音が聞こえてくる。
ぶぶぶぶぶぶぶぶ。
低く、重く、嫌な音だった。
俺の目が、その暗闇の奥にあるものを捉える。
大量の抜け殻。
破れた卵の殻。
そして。
明らかに幼体ではない、でかい影。
「……レン」
「はい?」
「研修内容を変更します」
「え?」
俺は静かに、一歩後ろへ下がった。
「全力で逃げる練習だ」
次の瞬間、巣穴の奥から、今までとは比べものにならない羽音が響いた。




