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紅華の原 蒼の空  作者: 奈鹿村
1章
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2話 狩りの時は腰巻をはく

 彼はロムルと名付けられていた。ロムルはすぐに這えるようになったし、そこから歩けるようにもなった。それに伴って、彼はすぐに喋れるようになった。異常な成長速度だと思う。それは他の仲間たちも同様だった。だがほかの仲間たちが年相応、つまり幼児から子供になった頃合いの話し方と、種族的な野蛮さを混ぜて話すのに、ロムルだけが流暢に話せた。


 ロムルが目覚めてからまだ二週間くらいしかたっていない。それでも、この頃にはもう大人の化け物たちの仕事を手伝わされていた。大人たちが洞窟へ持ち帰ってくる獲物の死骸を運ぶのを手伝ったりなどの雑務だ。とはいえ化け物たちは仕事が適当だったし、たいていは暇だった。ロムルは広い洞窟の中に住んでいる。洞窟は枝分かれするし傾斜もあるが、それでも全体的にはほぼ直線で、奥には支配的な個体の住処があるらしい。ロムルはまだそこまで行ったことがないから、それがどんな姿なのかを知らない。洞窟の外には森が広がっている。洞窟の前は草むらが、洞窟に向けて半円状に広がっていた。洞窟と中と外の草むらとに、化け物たちの住居がある。住居といっても大層なものではなくて、木材を用いて作られた簡単なテントのようなものだった。洞窟の中に住居を作る場合でもそういう家を作ることがあるが、そもそも家など作らず、特定の場所に居座るだけということも多かった。化け物の数は微妙なところで、まだ幼児期上がりのロムルのどこかあやふやな頭では、かなり大体の数しかだせないが、おおよそ六十から、多くて百はいるのではないかと思う。それなりの数がいるのは間違いなくて、そのせいで常に巣からは食料確保のために狩人が数人から十人前後の組を組んで森へ出ていた。


 ――そして、ロムルは自分がゴブリンと呼ばれる種族になったのだと知った。


 ロムルはその言葉を知っている。ロムルはあの暗い自分だけの部屋でパソコンでマンガやアニメを見たりしていた。その中のファンタジーのジャンルの作品の中に、その名前を持つ種族がいたことを覚えている。思い出してみれば、確かに彼らは緑色の肌を持ったり、醜い姿で描かれることが多かったと思う。でも、なぜ自分はそんなものになってしまったのだろう。自分は本当に死んだのだろうか?


 ロムルは担ぎ上げた鹿の死骸を洞窟入り口わきの置き場へ置いた。そこには他にも猪や、見たことのない動物の死骸が積まれていた。


(これは現実か? 夢とか……そういうもののなかにおれは居るんじゃないのか?)


 死骸を置いたロムルは腰を上げて、背後を振り向く。森の向こうは木々が続いていて、奥に行くにつれてだんだんと暗くなる。その先が見えない。――自分はいったいどこにいるんだろう。なぜ、こんな姿をしているんだろう。


 ロムルは自分の手を見た。指の節々は膨れている。みんな似たような手をしているから、種族としてこういう手なのだろうと思う。手は身体に比して大きく指は長い。足も同様だった。だが背は高くならないようだった。大人たちを見ても、高くても普通の人間の男の胸元程度の身長しかなかった。


(でも、確かに俺は死んだんだ。トラックにひかれた時の……音と、あの感じ――はっきりと覚えている。)


 ではなぜ、という心の問に、やはりロムルは答えられない。


 死が消えて、生を取り戻した。――醜い体で……。それはいいことだろう、と思う。少なくとも死なずに済んだ。ロムルは確信をもってそう思えたわけではないが、とりあえずは何も考えずに過ごすことにしていた。そもそも、あの部屋に居たころから深く考えるのは苦手だった。考えることは時として自分を深く傷つける。ロムルはそのことをよく知っていた。


 どうやら人間はいるらしかった。洞窟の奥の方には人間の女がいる。傷だらけでみすぼらしい恰好をして、何人もの女が固まって座り込んでいた。彼女たちの首に首輪がされていた。大体は首に輪をはめてそれで終いなのだが、中には足に鎖を結ばれている女もいた。それらは、ゴブリンが外から連れてきた捕虜のようなものだという。


 ゴブリンにはオスもメスもいる。だがオスのゴブリンは、こういった人間の女を性のはけ口にしている。オスは暇な時間に、洞窟の奥のそこへ行って、一人を気ままに選ぶと自分の住処へ連れて行ってそういうことをする。もしオスにメスの番がいたとしても、メスはそれを気に留めない。


 さらに驚いたことに、人間のメスはゴブリンの種で孕むことができるようだった。


 なんて世界だ、とロムルは始め思ったものだった。だが特に同情はない。ロムルにとって他人の不幸はどれだけ積み重なっても、自分の不幸を上回ることがないのだから。誰にも同情されなかったロムルが誰かを同情しようとするのは難しい。


 ゴブリンの恰好もまた貧相なものだった。殺した動物の皮をはいで作った一枚皮を腰にまくことが多い。だがこれはそうしなければいけないというものではなくて、完全に裸で過ごすものもたくさんいた。腰巻をはいているものも、特に股間を隠そうという意図があるわけではないようだ。ではなぜだろうか、ロムルはよくわからない。たぶん、自然と腰に剥ぎ皮をまくのだという意識のみがあるのではないだろうか。ロムルは彼らを観察していてすぐに分かったことがある。それは、彼らゴブリンの知能は低く、暴力性は著しく高いということだった。


 だがそんなゴブリンたちも、戦いに行くときは防具を付ける。その時は全員が腰巻をはき、裸の上半身に鉄製の胸甲をつける。兜を持っている者はそれもかぶる。それは食料のための狩りとは違う。狩りの場合は腰巻きをはくだけで済ませる。


 ロムルはゴブリンたちが戦いへ出かけるのを一度だけ見たことがある。とはいえ、その後にその成果が巣に持ち帰られたとは聞かなかったが。ロムルが戦いの勝敗を知らずとも特に問題もなく日々は流れた。

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