7話
ようやく、ようやくだ。
やっと俺は、会話が出来るのだ! ここまで、本当に長かった気がする。
ここに来てもう三日目だ。その間、誰とも話したりしていないから会話に飢えている事を俺は自覚していた。
俺は早速とばかりに町を闊歩し、商売をしている人たちに色んな事を聞いた。その結果、この世界は『シルズ・グレリア』と呼ばれているらしく、この町はケルジュと呼ばれる事が判った。もうこの時点で異世界確定だった。嬉しいような、悲しい様な、複雑な気持ちである。
その他にも一攫千金を狙うなら冒険者だと言われた。冒険者は魔物と言う人とは違う生命体を殺したり、薬剤、装飾などに使われる植物、鉱物を採ってくる職業らしい。あと行商人の護衛とかもたまにあるようだ。
しかも素晴らしい事に誰でも成れると言う。これは乗らなければいけない。このビックウェーブに!!
しかしよく聞いたところ冒険者になるには冒険者ギルドに登録しなければいけないらしく、その登録にお金が掛かるらしい。俺は金を一銭たりとも持っていないので登録出来ないのだ。
「この辺りで採れて、売れる物ってあります?」
「うむ、やはり安牌は薬草類じゃろうな。金額は少ないがどこでも売れる」
「へぇ、でも見分ける方法を知らない素人では無理じゃないですか?」
今話しているのはこの町に店を持って50年のお爺さんだ。どうも店の切り盛りは息子さんやらに譲っているらしく、暇をしていた所を俺が話しかけたのだ。それになんと親切な事か見ず知らずの俺にお茶まで出してくれたのだ。椅子に座りながらのんびり爺さんと話す。
話をしていると80歳を越えた年齢でありながら理論的に話す様は生粋の商人であると尊敬してしまう。
ひとつを追求を成した爺さんには是非とも長生きしてほしいものだ。
「まぁ、そうじゃな。なら、ムーラムの心臓を採ってくると良い」
「心臓? 何に使うんです?」
「ムーラムの心臓はな、飲み薬に必須の材料なんじゃよ。だから薬草類と同じく、どこでも買い取ってくれる」
「爺さんの店でも?」
「当然じゃの」
「なら、盗ってくるから買い取ってくれないですか?」
「もちろんじゃよ。あとで息子に伝えておこう」
「助かります。じゃあ行ってきます」
「うむ、気をつけるんじゃよ。坊」
親切な爺さんに見送られ、俺はまた町の外へと向かった。
□□□
外に出た俺は〖隠密〗をしながら森を歩く。色々と〖解析〗しているが、どうやらこの辺りには『霧株』はないようで霧は出ていなかった。もしかしたら『霧株』が大量にあるのはあの辺りだけなのかもしれない。
迷子にならないよう木に印を付けながら歩くこと一時間(推測)。ようやく一体のムーラムを見付けた。
俺は内ポケットから10cm程度で殆どが持ち手のナイフを取り出した。これは貰ってきた執事服の中に入っていたもので出てきた時は本当にビックリしたものだ。
こっそりムーラムの背後に回りながら落ちていた小石をムーラムの奥にある茂みに放る。
「! ムギィ?」
(今だ!)
茂みに注目している間に背後から接近。顎を持ち人でいう頸動脈を掻き切った。顎を持っていたので悲鳴は出せずにいるムーラムは顎を押さえている俺に手に触ようとするが、その前に自ら離し距離を取った。
魔物であるムーラムにも頸動脈は有効だったらしく離れた数秒後に息を引き取った。
「······ふぅ、勝てるとはわかっていても気を張るな。これは」
一筋の汗をかく。
殺しに無縁な生活だった為か、余計な力がまだ入っている。慣れるにはまだ時間が掛かりそうだ。
「っと、心臓を取らないと」
目的を忘れない内にムーラムの心臓を取り出そう。コイツらは見た目上、人間と同じ構造をしているので取り敢えず人の心臓部分を切開する。 すると身体の中央にブニブニした青い肉塊があった。
これが心臓かな? と思い取り出す。他を視てみても、それっぽいのはこれだけだったので一先ずこの肉塊を心臓ということにした。ちゃんと爺さんに特徴を聞いておけばよかったな。次からは気をつけよう。
それから俺は何十のムーラムを倒して心臓を エグリ取った。途中、別の気配? を感じたので迂回したりしたが他は順調に事を運べた。
「爺さん」
「おお! 坊か。待っておったぞ」
待ってくれていたらしい。感謝だ。
「これ、心臓ですよね?」
「うむ、そうじゃ。いやよかったよかった。坊に心臓の特徴を伝えるのを忘れたと心配だったからのう」
いや、忘れてたんかい。
でもこれは聞かなかった俺が悪い。聞いていれば問題も迷う事もなかったんだから。
「俺も聞くの忘れてたから気にしないでいいですよ。それよりも査定、お願いします」
「うむ、では出すがよい」
ムーラムの心臓の入った袋を爺さんに出した。因みにこの袋は以前俺が着ていた白いパーカーだ。ボロボロだったのはタイミング的に丁度よかったのかもしれないな。
「はい」
「うむ、どれどれ······おぉ! ようさん倒したようじゃのう」
貰えたのは銀色の硬貨一枚だった。
硬貨の価値がわからなかったので聞いてみると、どうやらこれは銀貨というやつらしく日本円に換算してみると十万円だった。
「······え?」
「なんじゃ?」
「いや、こんなに貰っていいんですか? 明らかに対価として見合ってないと思いますけど」
「うむ、坊は本当に世間を知らずに育ったんじゃのう。心配するな、それが適正価格じゃ」
へぇ、ここじゃあ無職が一日で十万円も稼げるのかぁ。······一生涯この世界で暮らそうかな。
「では、ありがたく」
「······それで坊はこれからどうする。やはり冒険者になるのか?」
どうする、ねぇ。
出来れば冒険者になろうとは思うけど、その本体である冒険者ギルドの制度によるかな。あまりに俺に不利な条件があったら止めよう。例えば、【能力】の開示が必須、とかね。
あっ、【能力】で思い出した。
「爺さん、レベルって知ってます?」
「? 何当然の事を聞いておる。勿論知ってるわ」
「······うん、やっぱり知ってますよね。どうも人と会う生活をしてなかったからどれが常識か判んなくて」
「別によい、仕方なかろう」
「じゃあ、もう行きます」
「うむ、また来るとよい」
「はい」
う~ん、やっぱりレベルに関しては知っていた、か。ならステータスはこの世界由来の物か。【能力】の事も聞きたかったけど自分の【能力】について触れられたくなかったから聞くに聞けなかったし。
ま、これも追々わかるか。
えっと、今はまだお昼がすぎた位か。時間もあるし、そのまま冒険者ギルドに行こう。どうか面倒な条件がないように。




