9 畑改良! Ⅰ
「ふぅ、こんなもんかな。」
ガシャンッ!! 真はホームセンターの入り口に鍬や鋤、鎌などの鉄製の農機具をあるだけかき集め積み上げた。
全てで数百本はあるそれらの農機具に、手伝っていたユイもさすがに言葉を失う。
この世界では木製の物を使っているからな。これだけでも随分作業が楽になるだろう。
以前、ジルターがホームセンターの中から金属製の鍬を持ってきたことがあった。
理由を聞くと、何でもこの世界で鉄製の農機具は高価なもので殆ど出回っていないらしい。
そのためミスト家内にある畑で俺がスコップで土を掘り起こしていた時は、その場にいた全員が驚いていたもんな…。
ギュッ! 真が農機具を10本程にまとめ紐で結んでいると、いつもの装飾の付いている豪華な服から質素なものに着替えて来たディルハルトがジルタ―、そして数人の家令を連れ戻ってきた。
「ほう! これはあの時の農機具だな、マコト殿??」
「はい、その通りですよジルタ―さん。でもこれだけの量になってしまったので運ぶのをミュートに頼もうと思ってるんです。」
「ピィィィィィィ!! (任せておけ!!)」
「おぉぉ、ミュート様が…。」
雄たけびを上げるミュートの姿に、一瞬ジルタ―は身じろぐがすぐに服を正し地面に置かれている農機具の一部を担ぐのだった。
「よっと! いくらミュート様とはいえこれだけのものを運ぶのはしんどいだろう。私も持っていこう。」
「あ、ありがとうございます。」
「ハハハハハッ、なぁに!! 我らの街を救ってくれるのだ、これ位しなければ天罰が落ちるわ。」
ジルタ―は後ろの家令達にも農機具を担ぐように指示し、彼らを連れ先に農地へと向かっていってしまった。
その姿に、呆気に取っられていたディルハルトも気を取り直すと同じように農機具を担ぎ上げた。
「け、結構重いのだな!」
「ディルハルトさん?? あまりご無理をなさらないで下さいね?!」
「何を言う! 私はまだまだ現役だぞ! ガハハハハッ!!!」
まぁ、この人なら大丈夫か…。何てったてゲームではレベル50という初期に出てくるキャラにしてはチートみたいな強さだったし。
「で、ではお願いします。 おい、ミュート! お前は残りを持てるか?? 無理なら俺もいくつか持つけど!!」
(なっ、馬鹿にするでない! 我はただのグリフォンではないのだ、これ位お安いごようだ!!)
俺は残った農機具をユイに借りた自動車ほどの大きさの台車に乗せると、その先に繋げた鎖をミュートの体に巻き付けた。
これだけでもかなりの重さなのは違いないが、ミュートはいとも簡単に動き出し、その後に続き台車も動き始める。
へぇ! やっぱりすごいなお前! 口だけじゃないってことだな、うん!
(当り前だ! 我を誰と思っているのだ!!)
ごめん、ごめん! それじゃ、これを農地までよろしく!!
(…まったく、グリフォン使いが悪い奴だな。)
ガタガタッ。ミュートは文句を言いつつも台車を引きその場を離れていく。
「さて、では我々も参りましょうか。」
「そうですね、ユイさん! ディルハルトさんも…、って大丈夫ですか??」
「な、なんのこれしき! 気にせず参ろうマコト殿!」
あーぁ、だからそんなに担ぐからしんどくなるんだよ…。
はぁ…。真は後ろで10本にまとめた鍬や鋤を3組も担いでいるため生まれた小鹿のようになっているディルハルトの姿に小さくため息を付くと、村の外に広がる農地へと向かうのだった。
村の周囲に広がる農地。
例年であれば既に芽が出ており、緑が広がり始めているはずの田畑には所々植物が生えているもその殆どが荒れ果てているようだった。
その光景に、様子を見ている農民3人は村の入り口付近で腰を下ろし大きくため息を付いている。
「おいおい、これどうするんだ? 近頃は確かに出来が悪くなってきていたが、今年は種を撒いても芽がすぐに枯れちまうじゃないか…。」
「水はきちんと上げているんだがなぁ~。はぁ、これじゃあ税どころか今年の冬を越せるかも怪しいぞ…。」
「ディルハルト様に頼んで王都の魔導士様でも呼んでもらうか? ほら、一昨年豊作の魔法を使ってもらったらいつもより多く収穫できたしさ。」
「いや、あんな高い魔法使われたんじゃ破産してしまう。ディルハルト様も値が高すぎるって怒ってただろ??」
「そうだよなぁ…。」
はぁ…。3人が再び大きくため息を付くと、マリン村からジルタ―、そしてその後に続いてディルハルト達がこちらに向かってきてるのが目に入った。
3人は彼らの姿を確認するや否や立ち上がり、ディルハルト達を出迎える。
「おいおい、何しょぼくれてるんだ??」
「ジルター様!! それにユイ様、ディルハルト様まで!?」
「はぁ、はぁ…。うむ、苦しゅうないぞ。」
ガシャンッ! ディルハルトは息を切らしながら担いできた農機具を地面に下ろした。
そしてジルタ―に勝ち誇ったように笑みを浮かべたのだった。
その姿に真は苦笑いを浮かべる。
ハハハハ…。ディルハルトさん、だから4組も担いだのか。ジルタ―さんは3組だもんな、担いでたの。
ジルタ―さんも、何か悔しそうに瞼をピクピクさせてるし……。
だがそんなディルハルト達を尻目に、農民達は地面に並べられた見たことも無い程美しい農器具に目を奪われていた。
こ、これは金属製の鍬か?? でもこんな量、一体どこから??
「皆さん、そんなに遠くから見ていないで手に取ってください! これは俺からの贈り物なんですから。」
「あんたは確か…。マコトさんだったよな??」
農民の内、一番背の高い50代程の男性が農機具の中から鍬を取り出し手渡してきた真に呟く。
真の存在はディルハルトの口から村人達には伝わっている。
もちろん200年前の勇者と同じく日本からやってきたということもだ。
「でもこんな高価なものを頂いてもよろしいので? 鉄製の鍬なんて、私にはとてもじゃないが代金は…。」
「アハハハッ、大丈夫ですよ! これはいつもお世話になっている皆さんへの贈り物だって言ったでしょ?」
その言葉に、後ろにいた同じく50代程の小太りの農民が声を上げる。
「そ、それはありがたい! 流石は二ホンから来た人だ! でも、今回はあまり役に立たないかも…。」
役に立たない、か…。てことはやっぱり問題は…。
俺は農民たちの向こう側に広がる畑に目を向けると、一番近い畑へと向かいそこでしゃがみ込む。
そして畑の土を踏んだり、手に持ち感触を確かめ土の匂いを嗅いでいると俺の側にユイが進んできて同じようにしゃがみ込んだ。
「マコト様、いかがしましたか?」
「あ、いえ! ただ土の状態を見ておこうと…。」
「なるほど…。」
ユイさんは、領主の娘なのにこういう泥仕事も嫌がらないんだな。
いや、それよりもこの土。これは予想以上に状態が悪いかもしれないな…。
サラサラッ…。俺は少し力を入れると崩れ去った土の塊を見つめた後、隣にいるユイへ答えた。
「ユイさん、一つ質問してもいいですか??」
「何でしょう? 私こう見えても皆の手伝いをよくしていたので、農業には少し詳しいですよ?」
「そ、そうなんですね。えっとですね、いつもこの畑に肥料は何をあげてますか?」
「ヒ、ヒリョウ??」
俺のその言葉で、先ほどまで自信満々で胸を張っていたユイは胸の前で腕を組み考え込み始める。
そこで、俺はこの畑が抱えている問題に気が付き始めるのだった。
おいおいおい、嘘だろ…。冗談だよな??
「肥料ですよ?? えっと、それじゃあ、落ち葉を混ぜ込んだり、そうだ! 馬や牛の糞を混ぜたりなんかは…。」
「アハハハハッ、やだマコト様。そんなもの畑に撒いたら腐っちゃいますよ!!」
「…………。」
「えっと、マコト様???」
なんてこった。そりゃ食物が育たない訳だよ…。何もせずに野菜を育て続けたんじゃその土地の栄養素や微生物が無くなるのは当たり前のことだ。
あぁ、なんで気が付かなかったんだ俺の馬鹿!!
「……これは思った以上に大仕事になりそうだ。」
ユイは真の言葉に笑っていたが、しばらくしてより深刻な表情になっていく真に気が付くと笑うのをやめる。
あ、あれ? 私何か変な事言ったかな??
だって落ち葉はともかく、糞を畑に入れるなんておかしいよね? でもマコト様のあんな真剣な顔、初めて見るし…。
「ユイさん!!」
「は、はい! 何でしょうか…?」
ガバッ!! ユイは突然立ち上がり自分の手を取った真に、顔を赤らめながら答える。
「もう一度ホームセンターに戻ります! 手伝ってもらえますか??」
「そ、それはもちろん構いませんが…、どうしたのですか??」
「説明は後でします! おいミュート! お前も手伝ってくれ!!」
(な、なんだマコト?! 我は今毛づくろいをして…、ぬあぁぁぁぁ!!!)
ミュートは体を小さく変化させ翼の毛づくろいをしていたが、ユイの手を掴みこちらへと真が走ってくると思った瞬間には首を掴まれ、再び屋敷へと連れて行かれる。
「マ、マコト殿?? 一体どうしたのだ!?」
「すみませんディルハルトさん、ユイさんを少しお借りします! それと、他の農民の方達にも集まっていて貰えますか?!」
「そ、それは構わぬが…、って聞いておらんな。」
ヒュゥゥゥゥ…。ディルハルトは娘を連れていく真の後ろ姿を、ただただ無言で見つめ続けていた。




