6 ミュートとは??
「ミュ、ミュート様……。」
上空から現れたミュートと呼ばれるグリフォン。その姿にディルハルトを始めとするミスト家の者達はその動きを止めミュートから目が離せなくなる。
だがその場で一人だけ、そう真だけはミュートの姿に興奮を隠しきれなかった。
おぉぉぉ!!! グリフォンだ!!!
そうかミュートってリオン村にいるグリフォンの事だったんだな。
リオン村のグリフォン。
アリストファンタジアの世界では、村の守り神として崇められている生き物。
プレイヤーが一番最初に戦うボスキャラでもあるが、それは敵としてではなくあくまで勇者としての力量を試される意味合いが大きい。
そして、その戦いに無事勝利すると、ボーナスアイテムとして魔剣、魔弓、魔槍、魔杖の4点の内一つが与えられる。
この時点からそれぞれ選択した武器を育成していくのだが、それはまた後日の話としよう。
「グリフォンのことすっかり忘れてたよ。確かにまだ見てなかったもんなこの世界に来てから。」
ミュートはこの場に現れてから、その視線を絶えず俺へと向けている。
そのことにディルハルト達も気づいているようであったが、ミュートの力は強大。怒りを買うことを恐れて何も言い出せないでいた。
だが次の瞬間、俺の頭の中に誰かの声が響き渡ったのである。
(なんだ人間。我に何か用でもあるのか??)
うわっ!! 何だ急に??
(なんと、お前我の言葉が分かるのか!? も、もしやお主二ホンから来たものではないか?!)
え、もしかしてこの声グリフォン、お前なのか??? それにどうして日本の事を……。
(我の名はミュートじゃ!! ハハハハハッ、しかし、そうかそうか!! いや、まさか再びこのように話が出来る日が来るとは思わなかったわ!!)
「キィィィィィ!!!!」
ミュートは真の言葉を受け、喜びのあまり翼を広げると天に向かい声を上げた。
その姿に、ディルハルト達は慌ててその場から離れていくのだった。
「ミュート様、お静まりください!!」
「ディルハルト様、やはり仮の住まいとはいえあのような質素な小屋では流石にミュート様もお気に召さないのでしょうか?!」
「そんなこと、私に分かる訳ない!」
バサッ、バサッ!!!!
だがディルハルト達の予想は外れていた。ミュートは暴れているように見えるが、実は喜びのあまりただハシャいでいただけなのである。
しかしそんな事とは知らないディルハルト達は、急いでホームセンターの陰に身を隠しミュートの動向を伺っていた。
「はぁ……。これじゃあ、本当に屋敷が壊されそうだな……。 おい! 少し落ち着いてくれ!!」
(アハハハハッ……、おっとすまぬ。つい我を忘れ踊ってしまったわ。)
1人その場に残された俺は、ミュートの側まで近づくと声をかける。
その言葉でようやく落ち着きを取り戻したミュートは翼を畳み、初めて現れた時のように凛とした姿へと戻った。
その光景に、後ろにいるディルハルト達は驚きを隠せないようだが、俺はミュートに視線を戻し再び心の中で話始めた。
それで? なんで俺にはお前の言葉が分かるんだ? 俺以外の人にはお前の声が聞こえてないだろ??
(うむ。我はこの世界に初めて飛ばされた200年前の勇者によって作られた。なのでこの世界の人間とは理が違うのだ。)
なるほど……。確かにアリストファンタジアでは最高Lv.100になるとNPCを製作出来るようになる。
これで200年前に来たっていう奴が俺と同じアリストファンタジアのプレイヤーという可能性は高まったな。
あれ、そう言えば俺もレベルは100だったけど、今はどうなんだ?? そもそもレベルってどこで確認するんだ??
真は体の隅々を調べ始めるが、そんなところにレベルが書いている訳もない。
だが真と心の言葉を聞いていたミュートはため息交じりに真へと答えるのだった。
(やれやれ、今回の奴は頼りがいがないな……。 ほれ、レベルを見たければ視界の右下にあるマークを選択すればよい。)
右下のマーク?? えっと……、これか??
ヴゥゥゥゥン。 俺が言われた通り右下にあった人型のマークを選択すると、目の前に自分の名前、そしてレベルやステータス情報が浮かび上がった。
────────────────────────
〈名前〉 マコト
〈年齢〉 16
〈レベル〉 1
〈スキル〉 ホームセンター
〈属性〉 ホームセンター
〈体力〉 E
〈知力〉 E
〈俊敏〉 E
〈幸運〉 S
─────────────────────────
なにこれ……?
確かにキャラクターの名前はマコトにしたよ? でもレベル1ってなんだよ!!
それよりも謎なのはスキルホームセンターだ!!
ホームセンターってなに? 属性もホームセンターってどんな属性だよ!!!
ガクッ……。真はショックのあまり肩を落としその場に座り込んだ。
ミュートはそんな真の側まで近寄ると、同じように膝を折り地面に身体を下ろすが、その目はマコトに対する同情の念で溢れているようだった。
(ま、まぁそう気を落とすな! あれだ、Lv.1ということはこれから伸びしろがあるということ。 大丈夫だ!!)
くっ……。こんな鳥に慰められるなんて……。
はぁ、俺が一体どれだけの時間をかけて100までレベルを上げたと思うんだ。
いや、それよりも腹立たしいのは200年前の勇者だ! なんであいつだけキャラクターそのままでこの世界に来てるんだよ!!
不公平じゃないか? なぁ、そうだろミュートさんよ!!
(わ、我に当たらんでくれ……。)
俺の言葉に、ミュートは困ったように顔をしかめる。
だがそこはこの世界では違うが日本では俺もいい年をした大人、大きく息を吸い気を落ち着かせるのだった。
そして、立ち上がり目の前のミュートに視線を戻す。
すまなかった。もう大丈夫だ。
(そ、そうか。それならいいのだ。)
それで、お前がNPCだってことは分かったけど、それが俺だけと話せる理由にはならないじゃないか??
(ふむ、それはだな……。)
俺の言葉でミュートも立ち上がると、くちばしを大きく開けた。
「これはこういう訳だ。」
「何だ喋れるのか、なら最初から……」
だがミュートが言葉を発したのを見ていたディルハルト達からは予想していなかった言葉が飛び出した。
「おぉぉぉ!! ミュート様が喋られたぞ!! 我らには分からぬ言葉だが、まさかお声を聞けるとは!!」
「ま、誠でございますなディルハルト様!!」
はっ?? 分からない言葉?? 一体こいつらは何を言ってるんだ??
「ハハハハッ、つまりこういうことよ! 我の言葉はこの世界の言葉ではない。恐らくあの方、いや200年前の勇者殿が我を作り出した際に自分が使っていた言葉を間違えて設定したようでな! それゆえ我はこの世界の者とは会話が出来ぬのよ!」
そ、そう言うことか……。つまり200年前の勇者は間違って日本語をこいつの言語として設定した。
だから誰にも理解されない言葉をこいつは発さなくなった。
ハハハッ……、凄い凡ミスだなこりゃ……。
でもこれで俺にしか言葉が分からない理由が分かった。どうやら俺の耳はこの世界の言葉も、日本語も同じに聞こえるみたいだ。
コクッ。俺の心の声を聞いていたミュートは小さく頷く。
俺はミュートのこれまでの人生?を思うと同情の念が湧き上がってきたが、ミュートは気にしていないのかすぐに再び心の中に話しかけてきた。
(それよりこの騒ぎは何なのだ?? 我が帰ってきてはいけなかったか??)
あぁ……、すっかり忘れてたよ。
えっとだな、怒らずに聞いてくれよ?? これなんだが……。
(なっ!!!)
真は苦笑いを浮かべながら、元々の小屋の残骸の中から一つの木片を取り出しそれをミュートへと差し出した。
ミュートもすぐそれが何なのか理解し、その顔からは一瞬で血の気が引いていくのが見て取れるのだった。
実は俺の店、このホームセンターが何故かここまで移動してきちゃってさ……。
その衝撃でお前の小屋が潰されちゃったんだよね……。アハハハ……。
(つ、潰れた……? それは本当か?? 我の家が、我の家が……。)
「キィィィィィィ!!!!」
「まずい! ミュート様がお怒りになった!!! マコト殿、すぐそこを離れるのだ!!」
ミュートは悲しみのあまり再び天に向かい雄たけびを上げた。
その様子にディルハルトは再びミュートが怒ったと勘違いをし、真にこちらに来るように手招きをする。
だがミュートが怒りの声を上げているのではないことを知っている真は、ディルハルトを無視しミュートの元へと進んでいった。
そう泣くなって。新しい家はもう用意してあるからさ!
(ぴぃぃぃぃ……、そ、それは本当か? 嘘ではないな??)
ああ、ほらあそこを見てみろよ。
真が指差す方向にミュートも視線を向ける。
そこには以前の小屋の様な装飾は一切なく、木目がむき出しの質素な小屋が建っていた。
これには流石のミュートも真へと詰め寄った。
(我にあそこに住めと言うのか?! この我に??)
え、えっと、しばらくの間だけな?? ディルハルトさんもすぐに再建するって言ってたしそれまでの間だけだから!!
(むむぅ……、ふぅ……、致し方ない。他ならぬお前の頼みだ今回だけはそう言うことにしてやろう……。っておい! グリン草もないではないか!? それに何だこの布切れの様なものは?!)
俺の頼みで渋々新しい小屋へと向かったミュートだったが、その中に敷かれているマットや毛布、羽毛布団に声を荒げる。
大丈夫だって! これは俺の持ってくたものだからさ。まぁ騙されたと思って一度入って寝てみろよ?
(ぐぬぬぬ……。こ、これが最後だからな?! これ以上は我も我慢は出来にぞ!? …………、こ、これは!!!!)
ボシュッ!!!!!
ミュートは文句を言いながらも小屋の中へと足を踏み入れた。
するとその足の裏に伝わるこれまで感じたことのない感触に一瞬で表情が和らぐと同時にその身体が煙に包まれたかと思うと、次の瞬間には中型犬ほどの大きさに変化したミュートはまるで人間のように布団に入り深い眠りについてしまったのだった。
「おいおいおい、いくら何でも寝るの早すぎだろまったく……。」
「これは……。まさかミュート様が人前で真の姿に戻られるとは……。よほどこの“まっと”というものがお気に召したのだな。」
「……そ、そうなんですね。」
様子を伺っていたディルハルトは真の側まで進むと、ミュートに視線を向け呟く。
その言葉に真も苦笑いを浮かべ答えたが、先ほどまで不満ばかり言っておきながら、今では寝息を立てよだれを垂らしているミュートの姿に少しの殺意が芽生えたのは内緒のことである。
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