5 ホームセンターの実力!
ミュートという魔獣があと半刻で戻ってくる。そのため壊れた住処の小屋を修復するためミスト家では全ての者が慌ただしく動く中、俺はディルハルト、ジルタ―を始め10人程度の家令と共にホームセンター内をカートを手に走り回っていた。
ぬぉぉぉぉ!! 普段は小さい店と思ってたけど、こうしてみると中々広いじゃないか!!
早く目的の物を揃えないとミュートとかいう魔獣が戻ってきてしまう!!
そうなれば屋敷だけでなく、この店も……。
「マコト殿! 先ほど申していた物はこれでよろしいか??」
「はい! あとはあそこの木材を運んでください!!」
「マコト殿! “ねいるがん”なるものに使う釘はこれでよろしいか??」
「あ、それじゃなくて釘が連なっているものでお願いします! あそこに巻いてあるものです!」
「マコト殿……。」
「マコト殿……。」
はぁ、はぁ……。ようやく終わった……。
真以外の者はホームセンターにある物はおろか、そこに書かれている文字すら分からない。
そのため何度も確認のため自分の所に来る家令達の質問に答え続けた真は既に疲労困憊であった。
だが1人で準備するよりはずっと楽だったはず、そう自らに言い聞かせ、息を整えた真はホームセンターの外に運んでこられた数々の品に視線を向ける。
よし、あとは職人と一緒に設計図通り作るだけだ!
だが、俺がそう意気込むと同時にポケットの中のスマホを見ると、タイムリミットは既に2時間を切っていた。
「ユイさんの話から恐らく1刻は約4時間。 半刻が2時間で準備を始めて20分が経っている。あまり時間はないな……。 いや、間に合うはずだ!」
「マコト殿! それでこれからどうする? 木材はマコト殿のお陰で揃ったが、まだこれから部分ごとに切り出さねばならんぞ??」
「それなら大丈夫です! こちらですぐに切り出します!」
ブォォン!! 俺はディルハルトの言葉に答えるとすぐに実演販売用に埃を被っていた小型自家発電機の電源を入れた。
燃料はまだ十分残っていため問題なく発電機は唸りを上げ動き出したが、その発動音に周りの人達からは騒めきが起こり始める。
そんな中、俺はすぐに電動円鋸のコンセントを発電機に差し込み木材を台の上にセット。ゴーグル、マスクを着用し、電動円鋸のスイッチを入れ一気に木材を切断した。
ブゥゥゥゥゥゥン!!!
電動円鋸はその刃を高速で回転させ、とてつもない速さで木材を切り出していく。
その光景に先程とは違い、職人達は驚きのあまり言葉が出ない。
木材のカットは仕事で何度もしていたからな。これ位なら俺にも出来る。
あとは職人達が手伝ってくれれば何とか間に合う……、あれっ???
「……ディルハルトさん、何見とれてるんですか! 職人の方達にも使用法を教えますからすぐに作業を始めてください!!」
「あっ、す、すまん!! つい見とれてしまっていた!!! よし、これ以上マコト殿だけに苦労を掛けるわけにはいかん! 我々も作業にかかるぞ!!」
『はい!!!』
真の言葉で気を取り直したディルハルトの掛け声で職人、家令、メイド達は一斉に動き始めた。
真も職人達に電動円鋸の使い方を教えるが、職人達は普段から木の切り出しなどの作業を行っているためかすぐにコツを掴み次々と木材を切り出していく。
その速さと正確さは、真と同等、あるいはそれ以上のものであり、そのことに真が少なからず傷ついたのは彼だけの秘密である。
「こ、これはすごい!! これほど簡単に木材を切ることが出来る日がくるとは!!」
「ああ、本当にな! この“でんどうのこぎり”があれば儂らの普段の仕事も楽になるんだけどな!」
ヴゥゥゥゥゥン!!!
職人達は電動円鋸で木材を切るのがよほど楽しいのか、流れるように木材に電動円鋸を入れていく。
木材の切り出しは、6台の電動円鋸のお陰で20分程で全て切り出すことが出来た。
だが問題はここから、次は組み立てなければいけないのである。
「マコト殿。この“でんどうのこぎり”というものは凄まじかったが、組み立てるのはそう上手くいくまい。」
「その通りだ。ここまでしてくれたのは本当にありがたい。だがこれ以上は……。」
「フフフフッ……。ディルハルトさん、ジルタ―さん。諦めるのはまだ早いです! 次はそのネイルガンの出番です!!」
ディルハルトとジルタ―が切り出された木材を見つめ、他の人達もどこか諦めた様子の中、俺はディルハルトに贈ったネイルガンを指差しそれを手に持つと、次は空気を送るコンプレッサーのスイッチを入れた。
そしてネイルガン専用の釘をセットすると、木材へと一気に撃ち込んでいく。
プシュッ! プシュッ!! プシュッ!!!
ネイルガンから放出される空気圧により打ち出された釘は一瞬で木材に入り込み、次々と木材が組み上がっていく。
その様子に、ディルハルト達はこの日一番の驚愕の表情を浮かべたのだった。
「これが“ネイルガン”……。 凄まじい威力だ。いとも簡単に組みあがっていくではないか!!」
「はい!! 我々長く職人として働いてきましたが今日ほど驚いたことはありません! まずあの“ネイルガン”なるものも凄まじいですがこれも見てください! この釘はどれも同じ形、重さ、形状なのです! しかも鉄製……。 ディルハルト様、彼は一体何者なのですか??」
「うむ……。あまり詳しくは離せないが、マコト殿はどうやら二ホン、つまりあの勇者様と同じ国からやってきた人物だ……。」
「な、何ですと?? それならマコト殿は勇者様の仲間……? あっ、儂何か粗相がなかっただろうか……。」
職人の内最も年長、白い髭を蓄えている初老の男性は手に釘を持ちながら話しかけるが、ディルハルトの返答で真が日本から来たことを知り突然身なりを整え始める。
それもそのはず。この世界の人達にとっては200年前の勇者は神にも等しい存在なのである。
「では、皆さんも作業をお願いします! あとは組み立てるだけ、きっと時間までに完成します!!」
「そ、そうだ!! マコト殿、いやマコト様は神が使わせた我らの救世主! 必ず間に合うぞ!!」
『おおぉぉぉぉ!!!!』
おいおいおい、救世主ってなんだよ、しかもマコト様って……。それに少し前までと違って、皆の俺を見る目が何か違うような……。
いや、今は時間に間に合うように作業を続けよう! 俺のホームセンターのせいで屋敷が壊されたんじゃ罪悪感が……。
プシュッ! プシュッ!! プシュッ!!!
ヴォォォォォォン!!!!
俺は職人や家令、メイド達の様子に違和感を感じつつ作業を再開した。
だがそれと同じ頃、ミスト家の敷地内では発電機やコンプレッサーなどの機械音が鳴り響き、それは村全体に聞こえたため屋敷前には多くの村人達が集まり始め、彼らの不安はミスト家の敷地内にある見慣れない白い建物によってさらに掻き立てられた。
「おい、この変な音はなんだ?? それにあの建物は一体……。」
「俺に聞かれても分からないよ! 誰かミスト家の人がいればいいんだが……。」
「あっ! ユイ様だ!! ユイ様! この音は一体何なんですか?? それにあの異様な建物も一体何なのですか?!」
ギィィィィ……。一人の村人の声と共に門が開き、そこからユイが村人たちの前に姿を現した。
ユイはいつものように笑みを浮かべなるべく村人達を不安にさせないように配慮したのち、何が起きているのか話始める。
「皆、落ち着いて。あれは新しく二ホンから来た方の物です! そしてこの音! これはその方が我が家の危機に力を貸してくれているの! だから皆は心配しないで大丈夫!!」
「二ホン!! そうか20年ぶりに二ホンからの客人が来てくれているんだ!!」
「おぉぉ、それはありがたいことだ!!」
ユイの言葉で先ほどまで村人たちを包んでいた空気が一変し、その場にいた全員の表情が明るくなっていく。
その光景にユイも小さく息を吐き、安堵の表情を浮かべるのだった。
この後、しばらくして真のホームセンターは村人から建物の色を取り経緯を込めて「白の館」と呼ばれるようになるのだが、それはもう少し後の事である。
真達が作業を始めて1時間30分が経過した。
ホームセンターの道具のお陰で既に作業の大半は終了し、真達の目の前には簡単な作りながらも3m四方程の小屋が作り上げられている。
だが、既にいつミュートと呼ばれる魔獣が戻ってきてもおかしくないのだが、最後の詰め、小屋の寝床を
どうするか。そのことにディルハルト達は頭を悩ませていたためその場から離れることが出来ないでいたのだった。
「……くそ、ここまで上手くいったというのに!! まさか寝床に使用するグリン草が全く無いとは!!」
「どうしますかディルハルト様?! これ以上は時間がありません! ここはこの状態で我慢していただくということで……」
「何を申すか!! 陛下よりミュート様は気が短いと聞かされた。もしお気に入りのグリン草の寝床が無いとするとどのように暴れるか……。」
ゴクッ……。ディルハルトの言葉に、諦めかけていたジルタ―も生唾を飲み込み再び頭を抱え悩み始める。
グリン草。確かゲームにも出てきていたな……。
プレイ前半で比較的簡単に手に入れることが出来る巨大な植物。武具に加工すれば攻撃を半減する効果があったこと、寝床に使用することを合わせて考えると柔らかい植物なのかもしれない……。
もしそうなら……!!
バッ!!! そこで俺はある考えが思い浮かび、頭を抱え悩んでいるディルハルト達を後にホームセンターの中へと急ぐと寝具が置かれているコーナーに。
そしてその中にあるマットレス、そして毛布や羽根布団などありとあらゆる寝具をかき集め搬送用の台車に乗せ再びディルハルト達の元へと急ぐのだった。
「はぁ、はぁ……。ディ、ディルハルトさん!! これでそのグリン草の代わりは出来ませんか??」
「こ、これは……。なんと!! このように柔らかい感触、生まれて初めてだ!! これは一体……、いや、今はそんなことはどうでもいい! ジルタ―、これなら代わりになるのではないか??」
ジルタ―はディルハルトの言葉で俺が持ってきたマットレスに手を当てる。
すると先ほどまで暗かったその表情はみるみる明るくなり、最終的には満面の笑みを浮かべた。
「こ、こ、これならいけます!! いや、むしろグリン草以上のものですよ!!! ミュート様も喜んでくれるでしょう!!」
「よし!! ではこれでいこう!! マコト殿、すまぬがこれを貸してもいたい!!」
「もちろんです!! ぜひ使ってください!!!」
真の答えにディルハルトは一度頷いた後、ジルタ―達に命じマットレスに羽根布団などの寝具を小屋の床へと隙間なく並べていった。
そしてすべての作業が終わったまさにその時、上空より突如風が吹き下ろし、一体の魔獣が地面に下り立った。
その姿を始めてみた職人達は恐怖で言葉を失い、メイド達はその場から動くことが出来ない。
ただ、真だけは魔獣の姿である鳥の頭に馬の様な体。そしてその背にある大きな翼で、ようやくミュートと呼ばれる魔獣の正体が何であるかが分かったのだった。
「……ミュートって、グリフォンの事だったのか。」
バサッ……。 真がそうつぶやくと、ミュートは翼を折りたたみ、その大きな瞳で真の姿をジッと見つめるのだった。
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