4 ミスト家の危機??
「あれは一体なんだ?!」
バンッ!! 屋敷の庭に突如として現れた異様な建造物にディルハルトは慌てて屋敷を飛び出し、目の前の建造物へと駆けていく。
その後にはユイ、ジルタ―、そして真が続き屋敷から庭へと飛び出してきた。
「ぬおっ!! なんだこの建造物は!! 継ぎ目のない壁に、見たことも無い物が並んでいるぞ!!」
「ディルハルト様!! 落ち着かれませ!! これは“ほーむせんたー”というものです!!」
「なんと! ジルタ―お主これを知っているのか??」
「はい。実は……。」
ホームセンターの姿、そして入り口前に陳列されている野菜の苗や園芸用品、そして石材の数々にディルハルトの興奮は最高潮に達していた。
ジルタ―はそれを何とか落ち着かせようと宥めた後、ディルハルトの耳元に近寄り話始める。
ディルハルトはその言葉をしばらく聞いたのち、真へと視線を移すや否や、急いでその元へと駆け寄ってきた。
「マ、マコト殿!! これがお主と共に参った“ほーむせんたー”なのか???」
「は、はいそうです!!」
ち、近い……。
「ほぉ!! そうなのか!!! いやはや、これは想像以上のものだ!! この建物の中は一体どうなっているのだ? ぜひ案内してくれぬか?!」
ディルハルトは矢継ぎ早に言葉を発し、その剣幕に俺はただ頷くしかなかった。
その動作を見たディルハルトは右手を空高くに掲げ、再びホームセンターへと駆けていく。
「よしっ!! おい、ジルタ―!! マコト殿が中を案内してくれるらしいぞ!!! お前もついてこい!!」
「も、もちろんでございます!! どこまでもお供したしますぞ!!」
うわぁ……。おっさん2人が肩を組んではしゃいでるよ……。
でもどうしてここからかなり離れた場所にあるはずのこの店がここにあるんだ??
それにさっきの地響き。これだけ大きいものが空でも飛んできたのか??
俺は早く中を見せろと言わんばかりの眼差しを向けているディルハルトとジルターに苦笑いを浮かべながら、どうしてホームセンターがここにあるのかを考えた。
ただ、俺はどうしてこの世界に来てしまったのかさえ分からないのだ。ホームセンターが目の前に現れた理由も分かるはずがない。
俺は小さく息を吐くと、隣のユイへと視線を向ける。
「はぁ……。それじゃあユイさんも店の中を見ますか?」
「えっ! 私もいいのですか??」
「もちろんですよ。元々ユイさんが話しかけてくれなかったら自分と同じようにここへ来ていた人の事なんて分からなかったですし、よければぜひ一緒に。」
「は、はい!! ではお言葉に甘えまして!!! お父様! ジルター!! 私も一緒に参ります~!!!」
ユイは俺の頭を下げるが、顔を上げた時には満面の笑みを浮かべており目にも止まらぬ速さでディルハルトとジルターの元へ走っていってしまった。
…………。あ、ユイさん顔は似てないけど確実にディルハルトさんの子供だ。
さっきの顔、ディルハルトさんとそっくりだったもん。
多分、相当ホームセンターに行きたいのを我慢してたんだろうな。
「ほら、マコト殿!! 何をしている、早く中へ参ろう!!!」
「わ、分かりました!!」
真は店の入り口の自動ドアにへばりつき中を覗いているディルハルトの言葉を受け、気を取り直し急いで3人の元へと走っていくのだった。
ガチャ。俺は自動ドアにかけていたカギを開け、手動でその扉を開けた。
そして事務所内にある電源を入れ店の中が照らされたのを確認すると、入り口前で待つ3人の元へと戻っていった。
やっぱり電気は着くんだな……。どういう訳かさっぱり分からないな、まったく……。
「……お待たせしました。ではどうぞ中へ!」
「う、うむ! では失礼する!!」
ディルハルトは戻ってきた俺の言葉で、店の中へと足を踏み入れる。
その表情からはどこか緊張しているように感じられた。それは後ろに続くユイさんとジルタ―さんも同様である。
まぁ、電気を入れた時、入り口から声が上がっていたのでそれも緊張の一因になっているのかもしれない。
だが、その緊張もホームセンター内の品々を目にしたことで一瞬で吹き飛ぶのだった。
「こ、これはすごい!! なんだこの品揃えは!!」
「本当ですな!! ディルハルト様、あれをご覧ください!! 書かれている文字は読めませんが何やら鉄でも木でもない半透明の入れ物に、緑色の液体が入っておりますぞ!!」
ジルタ―が手に取ったものは詰め替え用の洗剤である。
俺のホームセンターは親父の「村の人が一人でも求めるのならそれを置いてやれ!」という方針の元、日用品を始め、食品までも一部に置いている。
それらの品々をディルハルトとジルタ―は興味深そうに手に取っては見つめていた。
「まぁ、こうなるのも無理はないか……。 あれ、ユイさんはどこに行ったんだろう??」
「マ、マコト様!! こ、これは一体何なのですか??」
「うわぁ!! びっくりした……。」
真が背後からの声に急いで振り返ると、そこには文具置き場から持ってきたであろうシャーペンやボールペン、さらに匂いのする消しゴムと様々な文房具を腕に抱えたユイが立っていた。
「あ、これはですねシャープペンシルと言いまして……。少し貸してもらえますか??」
シャッ……。俺はユイさんの腕の中からシャーペンを一つ取り袋を開けた。
そして商品の中から紙を取り出し、そこへシャーペンで様々な形を書いてみた。
すると、それを見たユイからは驚きの声が上がるのだった。
「す、すごい!! これはあのボールペンというものと同じなのですね?!」
「うーん、少し違いますね。これはボールペンのようにインクを使って書いているわけではなく、この炭素から作られる芯と……。 ま、まぁ、似たようなものです! あはははは!!」
「そ、そうなのですね!!」
真はユイの表情で自分の言っていることが彼女達この世界の人には分からないのではと思い、すぐに取り繕うように笑みを浮かべる。
ユイも真の考えが分かったのか、笑い返すのだった。
ただ、ユイは真からシャーペンを再び渡されると、真がやっていたように紙へ様々な文字を書き込んでいく。
「すごい……。ペンにインクを付けなくてもいくらでも文字が書ける。すごく便利だわ……。」
「よろしければ差し上げますよ? まだまだ在庫はありますので。」
「え、いいんですか?? い、いやそこまで甘えるわけには……。」
ハハハハッ、本当は欲しいんだろうな。
俺の言葉にユイは笑みを浮かべるがすぐに首を左右に振った。
ただその顔は、右手に持っているシャーペンを何度も見つめ欲しいという気持ちを必死に抑え込んでいるようである。
なので俺は再び笑みを浮かべ答えた。
「ではこれは俺からのこれまでのお礼ということで! それなら受け取ってもらえますか?」
「……そ、そういうことでしたら。」
ユイは両手でシャーペンを握りしめ、嬉しそうに顔を赤らめた。
全く、素直に欲しいと言えばいいのに……。
さてと、そう言えば次はあの2人がいなくなったな。どこ行ったんだ??
真がそう思ったの束の間、しばらくするとホームセンターの奥からディルハルトとジルタ―が何かを持って戻ってくるのだった。
「マ、マコト殿!! これは一体なんなのだ?? しかもこの店には高価で希少はずの鉄の釘が大量にあるではないか!! あれを私に売ってくれ!!!」
「ディルハルト様、抜け駆けは無しのはずでは?! ええい、マコト殿! 私にはこれを売って欲しい!!」
戻って来た2人は息を整えると、手に持っている者を俺に見せながら詰め寄ってくる。
俺がそれらの物が何かと視線を向けた先には、ディルハルトさんの腕には袋詰めにされた釘と、ネイルガンが。ジルタ―さんの腕には鍬や鋤、またスコップなどの農機具が抱えられていた。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください……。う、売るといってもこの国の通貨の価値も分かりませんので……。あと、ディルハルトさんの持っているのはネイルガンというものなので、扱いには気を付けてください。」
「ね、ねいるがん?? また珍妙な名前のものだな。でも確かにマコト殿の申す通りだ、突然無理なことを言って申し訳ない!!」
ディルハルトはネイルガンを見つめた後、真へと頭を下げる。
ジルタ―も自分の主人が頭を下げたため、急いで同じように頭を下げた。
「あ、頭を上げてください! では、今回はそれらは差し上げますよ。これからお世話になるかもしれませんし、そのお近づきの印ということでいかがですか??」
「よ、よいのか??」
「ええ。私の店は元々在庫だけは多いですからね!」
品がないのは恥だって親父が言ってたからなぁ……。だからこそ赤字が一向に黒字にならないんだけど。
俺の言葉にディルハルトは頭を上げ、手に持っているネイルガンと釘を嬉しそうに見つめる。
それはディルハルトの隣のジルタ―も同様である。
しばらくして、俺はスマホの時間を確認するが、そこに映し出された時間が中へ入ってから1時間も経過していたものだったため、ディルハルト達に外に出るように提案した。
ディルハルト達も満足しているのかその提案をすぐに受け入れ、俺と共に外へと出るのだった。
だが、俺達が外へ出ると、そこには多くのメイド達が困ったように座り込んでおり、彼女達は俺の後ろのディルハルトを見つけるとすぐにこちらへと駆け寄ってきた。
「ディ、ディルハルト様、大変です!」
「どうしたというのだ?」
「実は先程の地響きで、ミュート様の小屋が……。」
メイド達はそこまで言うと、ホームセンターのすぐ隣を指差した。
そこにはホームセンターの転移で運悪く潰された、何かの残骸と思われる木片が散らばっている。
その上、それを確認したディルハルトはみるみる顔色が悪くなっていった。
「まずい!! 今は何刻だ??」
「もうすぐ4の刻です! あと半刻ほどでミュート様が……」
「なんということだ……。早く小屋を再建せねばミュートが暴れるかもしれんぞ……。すぐに木材と職人を呼ぶのだ!!」
「職人は呼んでおります! ただ木材はすぐには……。それに木材があったとしても切り出しや組み立てなど、到底間に合いませんよ!!」
その後もディルハルトはメイドが連れて来た職人を交え、議論を続けていく。
ミュート様? 一体何があったんだ??
「あの、ユイさん。ミュート様とは??」
俺の問いに、隣にいるユイも顔色を悪くしながら答えた。
「ミュート様は王家から贈られた魔獣様です。ただ気性が荒く、もし自分の小屋が無くなっているのに気が付けば何をするやら……。でもミュート様は王家との信頼の証として頂いたもの、そうなっても討伐する訳にも行きません……。」
「マ、マジですか……。」
あれ、でもミュート……? そんなキャラクター、ゲームに出て来たっけ??
いや、今はそれよりもこの状況を何とかしないと……! もとはと言えば俺の店が原因な訳だし。
話から木材がないみたいだな……。それなら店にいくらでもあるはず。
あとは組み立てだけだが……。
「ディルハルトさん! 少しいいですか??」
「な、何ですかな、マコト殿?」
「その小屋の設計図はありますか??」
「それならここにあるが……、一体いかがした??」
ディルハルトは職人が出した設計図を地面に広げる。
そこに書かれている文字は、これまでのようにその上に日本語が浮かび上がり真にも難なく読むことが出来る。
……よし、そこまで複雑な物じゃないし、店にある木材の大きさでも十分だ。
職人もいるし、これなら何とかなるかもしれない!
俺は笑みを浮かべると、ディルハルトへと視線を向け答える。
「……ディルハルトさん、ここは俺に任せてくれませんか? 半刻以内でその小屋、作って見せます!」
「……はぁ??」
こうして俺はミスト家存亡の危機?に立ち向かうことになったのだった。




