尋問
「さて、と洗いざらい話してもらいましょうか?」
マリさんの部屋に戻り、ソファにアレックスを放り投げながら言い放つ。
しかし、アレックスの反応は無い。
「……狸寝入りはやめなさい。私はそこまで強く打ち込んではいないわよ?」
「……あ、バレてたか」
ケロッとした表情で起き上がる。
マリさんは優しく私を別のソファに降ろす。
私もそろそろ会話位は出来るくらいに回復してきた。
「私もそれは聞きたいところです」
「レミちゃん! 大丈夫なの?」
「まぁ、会話くらいなら」
「少しでも辛かったら言ってね?」
「分かりました。それより、アレックスの話を聞きましょう」
「んー……そうだなぁ、何処から話せばいいものか……」
腕組みをしながら、首をかしげる。
本当に悩んでいるのかすら怪しく思える。
「ならこちらから質問するわ。貴女たちのターゲットは誰?」
「ああ、そんなことか。分かっていると思うけど、レミリアだよ」
「やっぱり私だったんですね。ですが何故?」
答えが分かっても、やはり俄かには信じられない。
「あー……黙秘……は許されないよねぇ、流石に。言いづらいけど、とあるブックマンからの依頼だよ」
「同族から?!」
マリさんが驚いた声を上げる。私に至っては言葉を失う。
「―――人だって、暗殺するのは人だろう?」
「ああ、そういえばそうですね」
「え、そこは納得するのね。でも、何でレミちゃんを?」
「そこは分からないなぁ、なんとなく目障りだったのかもしれないし」
「私が目障り? 殺したいくらいまでに?」
「いやー、半分なのに成績優秀で飛び級。魔族なのに皇国で公務員で勇者の側近。いじめられていた奴なのに今は人生が楽しそう。なのに、なのになのになのに。この『なのに』って便利な言葉で、理由はいくらでも付けられると思うよ?」
呆れたように、ため息をつきながら予測を言うアレックス。
与太話のように話しているが、それが真実のような説得力がある。
「……そういうものですか……」
「とにかく、ボクも以来の目的はそこまで分かっていないんだよねぇ……。まぁ、暗黙のルールっていうのかな?」
「じゃあ、依頼人って誰? 今からとっちめてくるから」
ニッコリと笑ってはいるものの、その声は非常に冷たく感じる。
「おや、後輩思いの先輩だこと。それには及ばないですよ、ご令嬢」
「どういうことですかアレックス? 及ばない、とは」
「あー、それはボクの上司が何とかしてるんじゃないのかな? 多分」
「上司?」
「ボクは公安だ」
「は?」
「え?」
公安って、あの公安!?
「同族をしょっぴきたくてねぇ、泳がす必要があったんだ」
「けど、そこまで分かっていたのなら、別件逮捕だなんだで、捕まえてしまえばいいじゃないですか? わざわざマリさんを巻き込んでまで!」
そう、私がターゲットなら最初から、私を狙っておけばよかったんだ。
マリさんから離れるタイミングを敢えて狙えばよかったはずだ。
「んー、多分だけど、私を巻き込んだ方が良かったのよね、きっと」
「ご明察。勇者様の家系に危害が及ぶとなれば、動かざるを得ないし、別件逮捕にも十分だ。だから泳がせたんだ」
「で、公安がなにゆえアサシンなんてことを?」
そう、いくら公安といえども、暗殺なんて公務員がやっていいことの範疇を越えている。
「潜入捜査、でしょ?」
「またもやご明察。ボクが大っぴらにレミリア達に協力できなかったのは、それが理由だね」
「でも、失敗する、もしくは失敗に見せかける必要があった。なぜならレミリアに手をかけたくなかったから」
「……そういうことです」
「けど、意外です。貴女、そういうことはドライじゃないですか?」
他人に興味の薄いブックマンの中でも、アレックスは特に薄い。無いといってもいいほどだ。
「あー、まぁ、そうかな?」
「んー、ぶっちゃけちゃうけど、貴女、レミちゃんが好……」
「わー! わー! わーわー!」
「いきなり何ですかアレックス、取り乱して……」
「黙っておくことにしましょうか。けど、レミちゃんがターゲットっていうのは、予想外だったわ」
「ボクも意外だったなぁ、大物狙いよりも、私怨で動くっていうのは。あ、もちろんこれは予想なんだけどね」
「そういえば、アレックスの特性についてですが……」
「“インビジブル”のこと?」
「そうです。感じたところ、視覚以外にも存在の希釈というイメージでした。ですが、貴女はすぐに姿を現した。ずっと隠れていればいいのに、とは思えたのですが? その方がお仲間にも目撃されないでしょうし」
隠れられているなら、そのままで攻撃を仕掛けた方が良いに決まっている。
「返り討ちに合う必要があったしなぁ……。あまりネタ晴らしもしたくないけど、“インビジブル”はずっと使っていられるようなものじゃないんだよね。それに、同業にはしっかりと見られているわけではないはず……多分だけど」
「そうか、私たちに倒されておけば、ただ単に失敗したと思われるだけ、ってことですね」
「そうそう。そういうこと」
「私も驚いたのだけど、まさか自分から撃たれに行くなんて思わなかったわ」
「え?」
「いやー、もうちょっと上手くやれると思ったんだけどねぇ……。ワザと当たって死んだふりのはずが、初撃がまぁ、重たい重たい」
「えーと、マリさんの攻撃に、自ら当たりに行ったんですか?」
「顔を差し出して、額で受けるつもりだったけど、前に踏み込むので精一杯だった」
「……アレックス、首と胴体が繋がっている幸運に感謝した方がいいですよ」
アンタッチャブルの全開で障壁を作り出しても、素手で突破するような膂力を持っている先輩なのだ。
生身で受けていいレベルを超えている。
「そうそう、あまりにも分かりやすく誘うものだから、何か狙いがあるのかと思って軽めにしただけだからね?」
「……ただ、その後、何発撃ち込んだんです?」
「あー、それはボクも聞きたい、さっきから体の彼方此方痛くて」
「肩、脇、胸、腿、お尻ね。ちゃんと意図に気づいて、死なないように耐久力が高いところを選んだわ!」
「道理で……」
率直に言って、撃ち込みすぎです。




