パーティ会場にて。
高い天井、きらびやかなシャンデリア、緻密に織り込まれたフカフカの絨毯。
人の隙間をノリの効いたシャツで身を固めた給仕さん達が流れていく。
手には光を虹色に反射する美しいグラス、その中に満たされている色とりどりの飲み物を揺らすことなくトレーに乗せている。
これが、社交界というやつだろうか。
初めて―――いや、正確に言えば、初めてではないのだが、学生の頃だったし、『大人』の社交界は本当に初めてと言ってもいいだろう。
初めての経験というのは、やはり緊張するものだ。
身にまとった、おばあちゃんから譲り受けたドレスが非日常感をこれでもかと煽ってくるし、直前にスタイリストさんとやらが、髪をまとめたりメイクまでしてくれたものだから、装いだけでも落ち着かない。余談だが、いつも眉毛とファンデーションだけだから、口紅をつい舐めたくなってしまう。
ただ、横にマリさんがいないのは幸いと言えば幸いだろうか?
きっと、おめかししたマリさんを見たら、卒倒してしまうし。
「彼女? 一人?」
後ろから声を掛けられる。
まったく、軽薄な男もいたものだ。
華やかな社交界といえども、このような人間はどこにでもいるのだろう。
「いえ、連れがおりま―――アレックス……」
スーツ姿のアレックスが、そこには居た。
「昼間ぶりだね。いやはや、見違えるほどに美しいね、これなら他の男も放っておかないだろう」
「……な、え? ん? ななななんで、ここに居るんですか?!」
「そりゃ、ボクも呼ばれたからさ。セキュリティを見ただろう? シレッと入れるものじゃないって」
「だって、貴女、先輩を―――マリさんをねらっ……」
スッと人差し指に口を添えるアレックス。
「黙るものですか! みすみすマリさんに危険を冒させる私ではありませんよ。アレックス、覚悟してください」
静かに魔力を自分の体に巡らせ始める。
「ストップストップ。こんなところで騒ぎを起こされた日には、ボクたちブックマンは迫害されちゃうぞ?」
「構いません」
「それに、きっと君も先輩とやらから離れ離れになってしまうよ? 良いのかい?」
「構いません」
「それにそれに、ボクが君に倒されたとしても、会場には他にも同業が居るんだから、騒ぎなんて起こされたら、やりやすくなっちゃうんだって。普段の先輩ならまだしも、彼女のお気に入りの君が騒動を起こしたら、いくらか動揺もするだろうし、危険度がむしろ増すんじゃないかと?」
「―――貴女の他に?」
「そうそう。ボクの真後ろ、君から見て正面にいる金髪のヤツ。ジャケットの前を開けているだろう? あれは多分銃持ちだ。いくら入り口のセキュリティがきつくとも、会場に道具を仕込んでおくことなんて容易いしね。ただ、あれはまだまだ駆け出しのぺーぺーってとこだろうけどね」
「にわかには信じられませんね」
「オーケー、なら君の左側、壁際に居る男を見てごらん。壁によっかかって誤魔化しているけれど、右脚と右腕が多分武器になっている。きっと何かしらの魔力行使が行えるようになっているはずだよ。というか、組んで仕事したこともあるくらいだ、手の内はよく分からなかったけど」
「……それならば、挨拶がてら手でも振って差し上げたらいかがです?」
「はいはーい」
壁際の男に向けて、陽気に手を振るアレックス。
男は一瞬ギョッとするものの、すぐに平静を保って無視を決め込む。
「ありゃ、嫌われちゃったか」
「いえ、信用に足るリアクションです。いいでしょう、他にアサシンが居るというのは認めます。ですが、貴女はそれでいいのですか?」
「いーのいーの、こっちの方が何かとやりやすいから」
「……陽動、ですか」
「ま、そんなとこかな」
「私の目をかいくぐって、マリさんへの攻撃を出来ると思っているのでしたら、それは大きな間違いです」
急にキッと引き締まった表情に変わるアレックス。
声にも冷たさが現れた。
「そうだね、張り詰めておくと良い。――――――それでもボクの目的は達成される……」
無機質な声は、アレックスの覚悟と自信、そして予言のような怖さを感じさせた。




