ざんねん わたしの ぼうけんは これで おわってしまった。
突如として会場がどよめく。
本日の主役、マリさんの登場だ。
入り口の方にみなが注視している中、私はアレックスの喉元に手を添えた。
「動くな」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
同時に視線は先ほどのアサシンたちを順繰りに見つめる。
どうやらこちらの意識に気づいたようだ。よし、牽制にはなっただろう。
動くならどのタイミングで動く? アサシンなら、相手が油断する時、注意が散漫になった時を狙うはずだ。
しかし、相手は勇者。
そうそう隙があるとは思えない。
ならば、作り出す。
でもどうやって?
もしや―――陽動?
アレックスが単独犯だと誰が言った?
アレックスが言ったアサシン達がだけだと誰が言った?
アレックスが言うことを信じていいと誰が言った?
私の意識を他に向けることも目的の一つ。
私がアレックスと共に居ることも、マリさんからしてみれば、驚くことだろう。
それすらも隙となりうるのではないか?
アレックスを抑え込んだはずが、むしろ使われている。
マリさんの足かせになっているだなんて……。
「さて、クライマックスかな?」
アレックスが呟く。
マリさんが近づいてくるのが分かる。
駄目、近づいてはいけない。
こっちに来ないで、マリさん!
「ごきげんよう、アレックスさん。先刻は失礼いたしました。レミちゃん、手を下した方が良いわ」
「―――っなんで、なんで来てしまったんですか」
力なく手を降ろす。
「ごきげんよう、ミストラル様。いえいえ、ご慧眼を受けまして、感服いたしましたよ」
「ふふ、ありがとう。いかが? 楽しんでいるかしら?」
「それはもう。こういう場も良いものですね!」
「先輩、すぐに身柄を拘束するべきです。複数犯である可能性もあります。何もわざわざ相手の土俵に乗ることもありません!」
「おや、それはオススメしないよレミリア。特にボクを拘束するなんて。知っての通り、ボクの特技は徒手空拳での拳法だよ? 魔力ですらロクに洗練させていないボクを拘束したところで、何も証拠なんて出て来やしないんだから。そんな相手にビビった勇者なんて言われるのも、強権を振りかざす暴君だと思われるのもなんだろう? まぁ、ボクは別に良いのだけど?」
「くっ……」
「大丈夫、心配しないで、ね? それに、おおかた私には読めているからね」
不敵に笑うマリさんと、それを微笑ましく見つめるアレックス。
この二人には、一体何が見えているというの?
「なら、筋書きの見えている脚本なんて面白くもないでしょうし、早々に幕引きといたしましょう。───インビジブル」
アレックスの姿が薄れていく。―――昼間の種はそういうことか。
それと同時に煙が私たちを包み込む。
そうか、それが合図か!?
―――って、先輩は? 先輩は大丈夫か!?
煙に不可視のアレックス相手ではいくら先輩でも分が悪いんじゃないのか?
落ち着け、すぐ近くに居たんだ、視界を遮られようとも気配くらいは感じられるはず。
魔力も私なら『視える』んだ。
とにかく、まずは先輩を見つけることが最優先。――――――よし、魔力も感じ取れたし、魔力の乱れは見受けられない。
あとは、アレックスが何処から先輩を狙うか。
「アンタッチャブル!」
私の特性魔力行使、アンタッチャブルで周囲の空気を『拒絶』する。
押しのけられた空気は風となり、私の周りの煙を吹き飛ばした。
これで、視界は確保出来る!
「―――え?」
――――――迫りくる影。
凝視すれば、先ほどアレックスが“ぺーぺー”と評した男だということが認められる。
視界が悪くなったために、銃を使えず接近戦に臨み、間違えたのか?
いや、考えるのは後だ。
障害は取り除かねばならない。
「遅い!」
これが先輩なら二桁は切り刻まれているところだ。
先輩を殺りたかったら、私には見えてもいけない。
思い知れ、先輩の―――私が憧れ、研鑽し、追いすがっても届かない先輩。その足元にすら及ばない私の実力を!
「“触るな”!」
冷静に暴漢を擂り潰そうとした刹那、体の自由が利かなくなる。
自身の経験から、感電したと分かる。
痺れている。
私の体は言うことを聞かず、糸の切れたマリオネットのように崩れていく。
迫る男。手にはナイフ。
私の首筋目掛け、一直線に伸びてくる。
くそ……こんな奴に……。




