アレックスの闇
中性的な顔立ち、筋肉質な体、短い髪。
それらはアレックスの性別を分からなくさせるのには十分だった。
それに―――
「だってペッタンコじゃない!?」
狼狽えたマリさんの一言は、私にもグサッと刺さる。
いや、アレックスは気にしていないと思うので、私だけが勝手にダメージを受けている。
おばあちゃんもそんなに大きくはないし、私の家系はペッタンコの家系なのかもしれない。
「おうふ……」
「あ、ごめんなさい、ビックリしてつい……」
「あの、下手に謝られると、余計に来るものがあるんですが……」
「…………」
ついに口を噤んでしまったマリさん。
なるほど、沈黙もなかなか堪えるものだな。
「と、とにかくアレックスは、れっきとした女性です!」
話を本筋に戻し、アレックスについての説明に入る。
「魔法と科学の研究や調査、開発、そして理論に重きを置くブックマンにおいて、彼女―――アレックスは体得・実践を重視していて、その興味は体術にのみ向けられています」
「体術のみ、かぁ……」
「自分の外の事より、自分で完結する事の方が好きってだけだよ。とはいえ魔術なんてろくに使えやしない落ちこぼれだけど」
ムクリと起き上がったアレックスは自虐的に答えた。
しかし、肩をすくめておどける仕草に悲壮感など一切感じられない。
「昔は私と彼女の爪弾きものは、セットで扱われましたので、よく一緒行動させられてきましたね。かたや出自が異端の者、かたや歩む道が異端の者」
「馬は合っていたと思うけどね」
「それは否定はしません。ですが、私は【普通】になりたかったので、勉学や研究に力を入れました」
「レミリアは自分から見ても優秀だね。今日覚えたことは、明日には出来るようになっているんだから。一族の中でさえ、成績は良かったし、論文や研究で表彰されていたっけね」
「ですね。故に【普通】の人たちも私を受け入れやすく、迎合することも抵抗がなかったのでしょう」
「まぁ、それでも、私たちの世代は面白く思わない奴らが多いようだけどね。ぼっちなのは相変わらずだよね、今日は誰かに会ったかい?」
「いえ、親世代、孫世代含めて、アレックスが初めてです」
「だろうねぇ……」
含みを持った相槌に、何かしらの意図を感じる。
こういう思わせぶりな態度は、いくら異端児でも共通らしい。
「避けられているからね、子供の時とは違った形で」
「……放っておかれる分には支障がありませんが。状況が変わりました?」
「そう、ボクたちは大きくなりすぎてしまったようだ」
言いながらスクッと立ち上がったアレックス。
言葉通りの意味ではないのは分かる。───が、真意はどういうことかはさっぱりだ。
「奇異の目と蔑視が、今は脅威に変わっている───か」
マリさんが仕事モードの顔つきで口を開いた。
名探偵が推理をしているように、口元に手を添えながら、アレックスの顔を見つめ、正誤を視線で問いかける。
「ご明察。さすがはミストラル家のご令嬢であらせられる」
男性式の礼を大げさに行って、おどけて答えるが、内容が内容だ。
それに、マリさんに対して家柄のことを言うんじゃない。
「家柄は関係ないですよ、アレックス。先輩───マリさんは、家柄に関係なく聡明ですから」
「おーおー、ご心酔なことで」
「ふふ、そんなことを言われると、面映ゆいわね。まぁ、嬉しいは嬉しいけれど」
「すみません、何だかおべっかみたいになりましたね。───で、アレックス、何故私たちが脅威なんですか? 率直に申し上げれば、私はともかく貴女は他のものに脅威となる実績などはないでしょう?」
「確かに、皇国の移民局でバリバリのキャリアウーマンなんて、そりゃ一族始まって以来の快挙だからね。素晴らしさは時に脅威となりえるものだ。一族中でも噂になっているそうだよ。ただ、ボクの場合は反対に、快挙ではない方面で優秀でね」
「快挙ではないのに、優秀……?」
「……まぁ、あんまり人に言えないことだから、伏せておくよ。ここまで言っておいてなんだけど。じゃ、またね」
いやらしい笑顔を浮かべ、立ち去ろうと踵を返すアレックス。
その背中を見つめる先輩の顔は険しい。
「……暗殺」
マリさんがボソリと呟いた声に、アレックスが足を止める。
「違うかしら? もし間違っていたら、非礼を詫びるわ」
肩が震えているアレックス。その感情は怒りかそれとも───。
ゆっくりとこちらに振り返ると、ニタリと───蛇を思わせるようなギョロっとした瞳と、上がりきった口角を浮かべながら、こう言い放つ。
「またもやご明察」
言うや否や歩を進め始めるアレックス。
足取りは大層ご機嫌なようで、踊っているかのように軽やかだ。
一体何がそんなに楽しいんだろうか……。




