忍び寄る?黒い影。
スマホより投稿
「どうしたの固まって?」
「いえ。突然の申し出に虚を突かれた次第です……」
「あら、驚かせてしまったようね。けど、これだけの施設、ちょっと使ってみたくなってしまったわ」
「嬉しいです。では、私からもお願いします。何にしましょうか? タンゴ? ワルツ?」
「ワルツにしましょ」
「かしこまりました」
マリさんの手を取り、腰元に手を回す。
この時点で心臓が爆発しそうなほど脈打つ。
更にはギュッと引き寄せられ、吐息がかかるほどの距離まで詰まる。
……ヤバい、これはヤバいですって。
「せーのっ!」
何とかマリさんの動き出しに合わせる。
「1、2、3……1、2、3……はい、シャッセー」
えーと脚のリズムをトトン、トーンだったかな?
転生者たち……初代勇者が持ち込み、後の転生者が仕上げた踊りの技術は、この世界においても上流階級の嗜みとして根付いている。
マリさんの体の運びはとても滑らかで美しかった。
きっと幼い頃から仕込まれたのだろう。
私はそれに身を委ね、合わせればいいだけだ。
ターンをすれば、おばあちゃんが自慢をしていたシャンデリアと壁に掘られた彫刻が溶けたように混ざり合い、幻想的な風景を映す。
その中で、動きを共にしているマリさんだけはハッキリと捉えられる。
ほんの少しだけ、一瞬だけの私達の世界。
私の頭も溶けてしまいそうだ。
幼い頃は習い事の一つにしか過ぎなかったけど、初めて楽しいと思える。
―――ずっと続けば良いのにな。
「あっ!」
そう思った矢先、脚をくじいた。
慣れないヒールなんて履くからだ。
盛大にバランスを崩し、倒れて―――いかない?
「大丈夫かしら?」
マリさんがフワッと私の体を抱きかかえてくれた。
もちろんノーダメージ。どこも痛めたところも打ったところも無い。
けど、けどね、これは破壊力があり過ぎる。
頭に血流が一気に登ってくるのが分かる。
顔が紅潮しているのを感じる。
心臓どころか、体全体が脈打つ。
そして思考は―――意識は真っ白になる。
「……キュウ」
「キャー! レミちゃーーーん!」
「レミリア様!」
薄い意識の中で、マリさんと運転手さんの声が聞こえる。
ビックリさせちゃったなー……。
「おや、これは一大事」
誰だこの声は?
中性的な声色、どこかしらで聞いた―――
「痛っっ!」
鼻の下と顎の付け根に鋭い痛みを感じ、意識が目覚める。
視界の先には、マリさんではない人。
「―――って、アレックス!?」
「おはよう、レミリア! 帰ってたんだね。ついでにおかえりなさい、だ」
よりによって何でコイツが現れる……さっきまでは影も形も無かったじゃないか。




