狂人アレックス
「アレックス……久しぶりですね……」
「二年ぶりになるね。立てるかい?」
切れ長の細い目をさらに細くして、やたらニコニコした表情を浮かべるアレックス。
私の手を取り引き起こす際に、確かな筋肉の力強さを感じる。
「ありがとうございます。で、アレックス、挨拶を」
「おっと、これはこれは失礼をば……。レミリアのイトコのアレックス・エイプリルと申します」
スラっとした長身を、深々と屈め礼をしながら名を名乗る。
「こちらこそ。レミリアさんの同僚のマリ・ミストラル、と申します」
「ミストラル……?」
「……恐らく、思いついた名前のお家で合ってますよ。私の上司で尚且つミストラル家の方です」
「あの……ミストラル家の……」
「まぁ、そんな畏まらずに。レミちゃんにはいつもお世話になっています」
「―――レミちゃん?」
「ええ、そのように呼んでいただくほど、可愛がってもらっています」
「……ふぅん?」
「……なんですか?」
「特に何にも?」
ハーフの私が異端児だとするのなら、アレックスは問題児といったところだろう。
私と同世代の一族の中では、唯一、学者肌ではないのだ。
何故研究や探求に情熱を燃やさないのか? と周りからお叱りを受けるなんていうこともあった。
「ミストラル家の方がいらっしゃる、ということは御召し抱えですか? まぁ、それなら広い意味でレミリアの上司とも言えなくもないですし……」
まったく、どいつもこいつ……なんでそんな御召し抱えにしたがるんだか……。
「いえいえ、違いますよ。私も移民局という、皇国の公務員に過ぎません。ただ、レミちゃんは本当に御召し抱えにしたいほど、優秀で可愛いですけども」
「そうですか……」
腕を組みながら、何かを考えているようだ。
一帯何を考えているのやら? こういう時の仕草や雰囲気は、おじいちゃんにとても良く似ている。
「―――失礼ですが、えーとアレックスさん? あなた、かなり『やる』わね?」
「いえいえ、私はただのしがないブックマンの落ちこぼれですよ」
「あー、アレックス、マリさんにそういう誤魔化しは通用しませんよ?」
「あ、そうなんですね、失礼しました。はい、かなりやります! と、いうことは……ミストラル様も?」
思案に明け暮れる顔から一転、パァっと明るい表情を浮かべて聞き返してきた。
「私が2秒もちません」
「レミリアがかい? ほほう、それはそれは……では」
音も無く、いきなりマリさんに飛び掛かるアレックス。
殺気や気配すら感じることはない。
そして、これだけ派手な事をしているのにも関わらず、存在感が薄くなっていってるような気すらしてくる。
さらには尋常ならざるスピードで、眼で追うのがやっとだった。
しかし、当然、マリさんなら即座に返り討ち―――してない!? 嘘でしょ?
けれどアレックスもアレックスで、飛び掛かって距離を詰めたものの、何も攻撃を加えた様子は無かった。
いったい何が起こっているの?
一瞬で距離を取ると、スゥっとアレックスの気配がさらに薄くなる。
まるで消えていくような―――。
「―――ドンッ!」
ダンスホールに響いたのは、鈍く重たい音。
音の方を見れば、マリさんの足元にアレックスがうつ伏せに倒れていた。
―――え? アレックスがなんでそこに居るの? だって、さっきまであそこに居たじゃない?
「やっぱりあなた、かなり『やる』わね!」
アレックスに親指をグッと突き立てるマリさん。
いや、あの、多分聞こえていないと思いますけども……?
二人がやったことも、アレックスの動機も動き方も、そして、マリさんがなんでそんなに嬉しそうなのかも、私には分からないことだらけなんですけども?




