夜更けのシングルトーク
あーでもない、こーでもないと人様の恋愛について語りつくし、まだ酔いの冷めやらぬ火照った体で帰宅した。
そのままベットになだれ込み、今日の出来事を反芻する。
先輩と仕事して、先輩とご飯食べて……沢山お話して、沢山褒めてもらって……なんと幸せな日だっただろう……。
満たされた気持ちでウトウトしていると、つい出会った日のことを思い出す。
きっと、先輩は覚えていないだろう。
炎に包まれた瓦礫、傾いていく世界、響く轟音。
生まれて初めて味わう死への恐怖。
そんな中、私は先輩と出会ったのだった。
私の種族は幼い時期がとても短い。
一年も経たずに成体となり、知識や知能も、体が発達するとともにオドを通して一族の経験が流れ込んでくる。
そのほんの僅かな可愛い時期に魔族の父に人間の母を持つ私が、両親に連れられて、この国の母方の実家へ行った時のことだ。
あろうことか観光がてら訪れた展望タワーが、転生・転移者に襲撃されてしまい、タワーが爆発、そして炎上。
ぽっきりと中ほどから折れ、倒れ落ちる燃えたタワー。
真下にある窓から地上の風景が見える。
剥き出しの鉄骨に洋服が引っかかり、宙吊りのような体。
転がるように、または落ちるように、高速で飛んでくる瓦礫。
落ちても、瓦礫に当たっても、床や壁に叩き付けられても、死を予感させるのには十分だ。
体は既にガラスや細かい金属片が突き刺さり、肌はところどころ熱で焼けている。
痛くて、苦しくて、辛くて、近くに居たはずの両親を探した。
―――そして、それは直ぐに見つかった。
父の特徴的な爪と肌の色を持つ片腕、主を失った胴体を、巨大な柱と柱の間に見つけてしまった。
そして、母は―――私の目の前をたった今落ちていった。
悲しみよりも絶望が私の中に去来する。
もう生きることを諦め、それを理解したかのように、服がちぎれ、私も落ちて―――いかなかった。
ガシッと体を抱えられる。
まだ華奢な体の感触だったが、なんとも言えない心地よさでもあった。
私を抱えたまま、瓦礫をかいくぐり傾いていない床へ私を下す。
炎の赤と空の青を背景に、私を救ってくれた少女はゆっくり倒れ落ちていくタワーの半分に手を伸ばす。
それを私は何をするのだろうと、呆けながら見ていた。
タワーの鉄骨を少女は掴む。
そのままでは引き込まれてしまい、少女自身も落ちてしまうだろう。
しかし、次の瞬間、私は目を疑った。
タワーが止まったのだ。
まさか、あんな少女が? だが、事実止まっているのだ。
少女は何かを叫びながら、落下を防ぎ続ける。
体から奔流する魔力、手足から発せられタワーに伝わる魔力行使の跡である光の道。
なんて綺麗なんだろう、と不謹慎にも私は思った。
少女に精霊が、自律AIのロボットやコンバットスーツが、錬金で作り上げていく足場が、すべて揃った時、徐々にタワーはあるべき角度に戻っていく。
止めるのみならず、持ち上げるなどという馬鹿げた現象。
あまりにも現実離れしすぎている。
そして、その現実離れの時間稼ぎのせいか、スクランブル発進した航空機、各種のスペシャリストがタワーに取りつき、遠くどこかへ運んで行った。
天井が無くなったこのフロアに、次々と救急隊が駆け付ける。
そんな中、私と少女の二人は知らず知らず顔を合わせた。
彼女の方から私に近づき、私の頭を撫でながらこう言った。
「――――――大丈夫だよ」




