夜更けのシングルトーク2
途端、私は崩れ落ち、止まっていた感情が爆発した。
もう会えない両親への悲しみ。
死への恐怖、体へ突き刺さるガラスや破片の痛み、肌を焼く炎の熱さ……。
色々な感情、体験が混ぜこぜになり、私の叫びと頬を伝う水となって表に出ていた。
そんな私を少女はギュッと抱きしめて―――一緒に泣いてくれた。
あの日、何故一緒に泣いてくれたのか、それは未だに分からない。
けれども、あの日見た眼差し、抱きしめてくれた際の暖かみと匂い、それは今でも鮮明に思い出せる。
その後、私は魔界の祖父母に引き取られ、大学進学をきっかけに、この国へと戻ってきた。
そして、就職活動をごくごく普通に行っていると、公務員の募集説明会を行っていた。
自分で言うのもなんだが、私は優秀な学生だった。
故に、一流企業で高給取りになれる道が確定してはいたが、一応のすべり止めとして公務員も考えに入れることにした。
まぁ、官庁に入って将来は役人も悪くないかな? とも思ったりもしたけども。
その説明会の中で、私はあの時の少女を見つけてしまった。
移民局の業務や福利厚生の紹介の為に、講堂の壇上に上がった少女―――いや、グラマラスな体型に、気品を感じ美しい顔立ちは、少女というには失礼なほど綺麗に成長していた。
それでも、私を見つめたあの煌めくような瞳は変わっておらず、一目見た途端、私は確信した。
あの時の少女だと。
説明会を終えて、彼女に声をかける。
逸る心臓、熱を持つ頭が、なかなか上手く想いを言葉にさせてくれない。
ありがとう
ただそれだけ伝えたいだけなのに。
溢れる感情が、辛い思い出が、あの時の衝撃が、あれから何をしていたとか、私はこんな風にしていたとか……。
色々言いたいこと、聞きたいことが溢れてきて、餌を待つ魚のように、間抜けに口をパクパクさせるだけで、なかなか音になってくれない。
「私はマリ・ミストラル―――あなたは?」
「あ、あ……あ、れ、れれ、レミリア・エイプリル……でっつ!」
盛大に舌を噛む。
「ふふ、可愛らしいわね。移民局に興味があるのかしら?」
「はっ、はい!」
―――違う。
そんなことを言いたいわけじゃない。
そんなことを聞きたいわけじゃない。
ありがとうって言いたいだけなのに。
あなたのことをもっと知りたい。
私のことを知ってほしい。
あなたのその瞳でもっと私を見てほしい。
またギュッと抱きしめてほしい――――――ああそうか。
私は―――あなたに恋しているんだ。
なら、ありがとう、で終わらせるわけにはいかない。
よろしく、で始めなければいけないんだ。
「移民局に―――あなたの部下になりたいです!」
彼女は少し驚いたような顔をして。
「ようこそ! こちら異世界移民局!」
と握手を交わしたのだった。
その後公務員試験も採用面接もサクッとパスし、希望通り移民局への配属となった。
初出勤の日に彼女はこう言った。
「久しぶりね。これからよろしく!」
「はい! これからもよろしくお願いします!」
今では私の大好きな思わせぶりな笑顔を浮かべて、彼女はまた握手を求める。
―――今日からまた握手から始めよう。
生まれ変わった私のスタートの日なのだから。ね、先輩。




