バカンスへ行きましょう。
「おはようレミちゃん!」
楽しい飲み会の次の日、ハツラツと挨拶をしてくる先輩。
こちらは連日で少しダルい状態。
勇者の血はこういう時も働くのだろうか?
「おはようございます」
「早速だけど、夏の長期休暇のご予定は??」
「祖父母の家に遊びに行くくらいで、とくに予定は無いですかね」
「祖父母? ちなみにどちらの?」
「あー、魔界の方ですね、母方の方は日帰りできますので、わざわざ混む時期にいかなかくても、って感じですし」
魔界―――魔族が住み、魔王が統べる地。
それはもうおどろおどろしい雰囲気に、瘴気や毒の沼、禍々しい植物、荒れた大地――――――なんていうことは、全くもって無い。
むしろ、大気中の魔力であるオドを源に生きている種族が多いため、環境保全には力を入れているし、人間よりも魔力行使が上手く、体のつくりも便利なものが多いため、工業での汚染もずっと少ない。
今では一大観光リゾートとして取り上げられている。
魔界と言っているが、異世界ではなく、異国という表現が正しい。
「あら、丁度良いわ」
「丁度良い?」
「魔界でバカンスする予定なのだけど、良かったら現地で会わない?」
「え、先輩も魔界に!? ぜひぜひ!」
先輩と一緒にバカンスとは……すばらしい!
一緒にどこに行くのがいいのだろうか……海? 山?
それとも星空を見に展望台かな? 魔力が大気中に濃く散っているから、月光と星明りとぶつかって、この国では見れないような景色が見れる。
まぁ、夜景と星空はそこいら辺でも見れるから、第二の目的でいいだろう。
「いつ頃帰るのかしら?」
「んーそうですねー、まだはっきりとは決めていないんですよ」
「もし良かったら、私と一緒に魔界に行かないかしら?」
「え、いいんですか!?」
「もちろん、じゃあ後で詳細は連絡するわね!」
も、もしかしたら休暇中、先輩とずーっと一緒なのかな?
早く! 早く休みにならないかなー?
―――――――――――――――――――
「……あいたたた……」
隣の席で先輩が頭を抱える。
その横顔の後ろに見える夕日と相まって、アンニュイな雰囲気を醸し出している。それもまた良しである。
さて、時は流れ、夜間実地研修を終えた次の日、私たち二人は高級な車両の中に居た。
研修は夜を徹して行われた。
そして、その研修終わりに例の作戦を決行。
予定通りレイさんを『後学の為』参加できるようにし、手取り足取り係長に業務を教えさせた。
ヤラカシは少ないように見えたが、押しの一手で何とか係長を飲みにつれ出した。
最後にレイさんが良い感じに酔ってきたところで、私と先輩、そしてヤスモトさんの三人はシレッと消えた。
そして、他のお店にて反省会と手ごたえの確認をしながら飲み直し。
ちなみに、この時点で昼過ぎ。
ランチタイムから酒を飲みまくる女子三人を見る視線はちょっと気になるものの、徹夜明けのテンションは止まらない。
そして、夜がとっぷりと深くなった頃にようやく解散。
――――――次の日は旅行の出発日だというのに。
「先輩、お水飲みます?」
「いただくわ……」
水差しの水をグラスに注ぎ、手渡すと即座に飲みほす。
「ちょっと眠るわ、ごめんなさい」
「いえ、私も少し眠ります……」
かくいう私も辛いので、先輩からグラスを受け取り、サイドボードに置くとシートに体を預ける。
ふかふかのシートは直ぐに私を眠りへ誘う。
ウトウトとしていると、肩に重みがかかってきた。
ふと目を開けて肩を確認すると――――――先輩の顔が直ぐ近くにあった。
スースーと可愛らしい寝息をたて、髪からは甘い良い匂いが……。
一気に私の心臓は暴れ出し、何ならアドレナリンまで出てきているだろう。
―――寝られなくなってしまった。




