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読めない字の書類を突っ返したらもう一回読めない書類が届き、それを三回繰り返したところでそろそろあっちの上長に直接苦情を入れるか? と思いましたね。
いい加減にしろよこっちも暇じゃないんだよ。
決して忙しいわけではありませんが、それでも無駄な業務を! 増やすな!
そう声を大にして言いたいわけですが、これがお役所仕事の辛いところ。
ルールはルールとして、書類を差し戻してやりとりをして幾度かその実績を積まないと相手に苦情を入れる訳にはいかないのです。
現代的に言えばハラスメントに繋がるからってやつですが……この世界だとあれです、文句を言ったら相手がお偉い貴族の子息で逆恨みに遭った……なんて笑えない話もあったりするわけですからね。
しかも私が聞いたのは、文句を言った言われたがどっちも貴族で派閥が一緒、それでいて力関係が……っていう恐ろしい状況だったんだとか。
(上下関係が職場の上下関係に影響するとか本当に怖いですからね……!!)
双方の家を巻き込んで大問題、って話は当然ながらよろしい話でもなく、結果として……まあ、さらに上の人が『部署間トラブル』としてさらに別部署預かりにして色々濁して終了! ってしたらしいです。
ええ、誰がって宰相閣下ですね。
その当時は大変不機嫌になってホールケーキを食べたって噂です。
噂ですよ、噂ですからね。
……あの細い体でワンホール一晩で食べたって話ですけどなんで太んないんだろうねあの人……健康診断も引っかかったって話は聞いたことないですよ?
(そういう意味ではビアンカさまもあんなにたくさんお菓子を召し上がるのにあの体型維持だもんな……!)
その美の秘訣はなんですかって聞いたら生まれつきって言われそうなので聞きません。
こちらは凡人ですのでね、期待はしてはいけないのです。
「それにしたって読めなかったわね……普通はちょっと読めない程度なら前後の文脈で理解できそうなものなのに」
「うちの実家の宿帳でも結構読めない字を書くお客さんっていましたけど、ここまでのはもう別の国の方かなと思うほどですね……」
メイナと一緒に一度は解読を試みたんですよ、ええ。
何もしないで文句をつける、そんなことはいたしません。
なんだったら暗号解読もできるであろうライアンとセバスチャンさんも呼んで色々眺めてみたんですけどね、最終的に「読ませるつもりがないのだろう」という結論に至りました。
セバスチャンさんは呆れ顔で職務に戻っていきましたが、綺麗な字をモットーとするセバスチャンさん的には相容れない人間なのでしょうね……。
いるんですよ……たまにこういう人が。
どうせ形式通りのことなんだから読まないだろうとか、自分の仕事は正しいんだから相手が理解したり読んだりする必要はないってタイプ。
中には自分でも何書いたかわからないのに「どうして読めないんですか!」って逆ギレタイプもいますがそれはごくごく稀なケースです。
王城には大勢の人が働いていますからね!
レアケースがいたっておかしくないですよね!!
ちなみにうちの宮ではセバスチャンさんとデボラさんがトップクラスに美しい字を書き、スカーレット、ライアン、メイナです。
ちなみにライアンは角張った字で、メイナのはちょっとだけ丸っこくて可愛い字です。
私は……セバスチャンさんに子供の頃から教わってますからね、スカーレットよりちょっと慣れている分、上ってところですかね?
「まあいいわ、今回の差し戻しは私があちらに出向きましょう。それで相手の上長と話をして今後の是正をお願いするから――」
そう言いかけたところで私の執務室の扉が乱暴に叩かれました。
ビクッとするメイナと、臨戦態勢のライアン。
「ライアン、いきなりその態勢にならなくていいわ」
「しかしお二人を守るのも仕事なので」
「貴方がおとなしく立っていてくれるだけで大丈夫。もし危なそうなら対処して」
「ならば最初から」
「ライアン」
意外とライアンって血の気が多いんだよなあ!
どうにも心配性というか……本当にこの人ってば王家の〝影〟だったのかしらって思う時がありますよ。
いえ、真面目なのでしょうね、心底。
「……どうぞ、お入りください」
まあ私も王女宮筆頭としてそこそこ長いですからね?
怒鳴り込んできそうな相手くらい、ちゃんと対処できるところを後輩たちにも見せてあげないとね!




