677
「……王太子殿下のあれは、助言と説明であると同時に釘を刺したんでしょうね」
「そうだね、そうだと思うよ。大変だね、ユリアも」
「笑いごとじゃないわよ、アルダール……」
その晩、私はアルダールに今回のことを共有しました。
口止めはされなかったので、むしろ話せということだと解釈しましたのでね。
ぶっちゃけ、私たちは〝貴族としての〟経験が足りない……それを実地で学ばせていこうというのが陛下のお考えなのだとすれば、今後もこうした試練(?)をちょいちょい与えられて私たちはその度にうんざりすることでしょう。
それでもアルダールは騎士としての職務が忙しいですし、陛下も彼に対して期待している部分はおそらく【剣聖候補】であり続けること、でしょう。
つまり?
それがどういうことかっていうとですね?
(どう考えたって陛下が私に対して試練を与えてくる方が多そうなんだよなあ~~~~!)
しかも絶妙に乗り越えられるラインっていうのがね!
まあ乗り越えられないものを押しつけられてもそれはただの嫌がらせでしかないんですが。
いや?
望んでもない試練を与えられることも嫌がらせでは……?
とりあえず、釘を刺された内容としては『今後も貴族的な振る舞いの方面で気をつけろ』ってことでしょう。
今回は侍女として振る舞うことで回避もできましたが、あれが一般の茶会で起きていたら?
子爵令嬢としても、いずれは子爵夫人としても、格上の侯爵夫人&その取り巻き(?)相手にどう立ち回るのか、誰を頼るのかで派閥についてもっと考えた動きを求められるに違いありません。
バウム伯爵家のことだけを考えるのでは、ミスルトゥ家としての立場が弱くなり……ミスルトゥ家としての立場だけで振る舞えば、どこかの派閥に所属することを明言するようにもなる。
そのさじ加減を間違えると面倒ごとになるぞ、ということで間違いないと思うんですよね。
(でもさあ、それを実地で教えるとか意地が悪いよね。侯爵家に活を入れるついでにしてはさあ……!)
もうちょっと手心を加えていただきたいものです。
何度も言うようですが、こちとら結婚式の準備に追われてる側の人間なんですよ。
いやまあね?
結婚してから学ぶんじゃ遅いだろうって言われたらその通りなんですけど!
「それにしても陛下はいったい何手先のことを読んであれこれ策を張っておられるのだろうな」
「さあ……私のような凡才にはわからないけれど」
「また謙遜して」
「そんなことないわ」
ええ、ええ、心底そんなことありませんからね!
一部の人にはなんか勝手に勘違いされておりますが、私は平々凡々な由緒正しきモブですよ!
会話の途中で真意に気付いてそれに対応することもあるし、後になってから『ああ~そういうことか~』って思うこともありますし……。
王太子殿下との会話に関しては後者ですね。
(鈍くはないと思うけど、決して鋭いって方でもないんだよなあ!)
後はえらい人たちとの会話による経験則と申しましょうか。
なので決して謙遜でもなんでもないんですよねえ。
最初からわかってましたよ! って顔をしているだけです。
要するにハッタリです。
でもハッタリが大事なこともあるじゃないですか……!!
そしてそれが自分の首を絞めるってわかってたらやってないんだから、結局のところほら私はモブだから見通せてないって証明です。
なんという情けない証明なのでしょう!
ちょっとこれは自慢できないですね……。
自分で思い至ったとしても言葉にするのは躊躇うというか……悲しいというか……。
「でも今後しばらくは……マール侯爵家が表舞台に立たないでしょうから、他の侯爵家の方々は戦々恐々とするんじゃないかしら? ハンスさんを通じてレムレッド家が探りを入れてくるかもしれないわね」
「まあハンスは自分で勝手になんとかするんじゃないかな? ユリアは気にしなくていいよ」
「そう? ありがとう」
なんだかさらっとアルダールがハンスさんは放置の方向にしたような気がしますが、そうですね、ハンスさんならきっと上手くやってくれることでしょう!
(私は……明日ビアンカさまに会った時にでも少し答え合わせしようっと)
持つべきものは友達ですからね!




