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まあね、ぶっちゃけマール夫人はほぼ自分の言葉では喋ってませんよね。
なんなら謝罪以外は黙ったままです。
勿論、当主を差し置いてあれこれ喋るのはマナー違反ですのであってはいるのですが……。
(きっと、余計なことを喋るなと厳命されているのね)
同じように指示されているライアンもずーっと黙ったまま、扉の前に待機しているわけですが……でも、ちょっと違います。
ライアンは沈黙を〝選んでいる〟立場ですが、マール夫人は沈黙を〝強いられている〟立場です。
これは大きな違いですよ。
私は必要ならばライアンに介入する許可を出しています。
まあほぼないに等しいですが、万が一にもマール侯爵及び夫人が激昂して暴れた場合、もしくは暴言が行きすぎた場合などを想定してのことですね。
まずないけれど、絶対にないという想定はしてはいけないのです。
ここは王女宮。
王城内でも尊き王族がお住まいの場所で、そのような狼藉はないにこしたことはありませんが、なにぶん、人間の気持ちですから。
「お茶が冷めてしまいましたね。おかわりはいかがでしょう」
「ありがたくちょうだいしよう」
お客さま用の茶葉ですが、どなたでも楽しんでいただけるタイプのものを本日はご用意しております。
あくまでそれなりですけどね。
特別なお客さまには好みに応じたものをご用意するのがおもてなしってものですよ。
勿論、この癖のない紅茶が好きって方には、また別の茶葉でご用意いたしますとも!
ちなみに王太子殿下とプリメラさまは、実は香りの強めの紅茶がお好きです。
王妃さまは渋め、王太后さまは香りが強めの冷たいお茶の方がお好きですね。
ビアンカさまはフレーバーティーがお好きですし、宰相閣下はコーヒーの方がお好きだとか。
「何かお召し上がりになりたければ、ご準備いたしますが」
「いや」
最初から用意していないけど、一応ね。
話が長引くならお腹も空くでしょうから。
とはいえ今頃マール侯爵と夫人の中では『お茶菓子が用意されていない』『長居する客と認定されていない・歓迎されていない』と受け取っていることでしょう。
半分正解で半分不正解ですよ!
決してプリメラさまはお二人を邪険に扱ったわけではございません。
どーしてもっ! 謝罪したいとマール家が言うから『そんなに言うなら……』って感じなだけで、好きでも嫌いでもないだけですから!
一番ダメージあるヤツぅ!!
「……王女宮筆頭殿にも、当家の問題に巻き込んだこと、重ねてお詫び申し上げたい」
「先程十分にお言葉はいただきましたし、王女殿下が謝罪を受け入れられたことで私も済んだことと思っております」
「……そうか」
貴族的言い回しで言えば『お前にもちゃんと謝ってあげるからこのことは水に流してね』って感じでしょうかね。
それに対しての私の返事は『もう聞いたしプリメラさまがいいって言ってんだからしつこいのはよくないですよ!』っていう感じですね。
ははは、背後に蛇とマングースが出ていることでしょうきっと。
あ、いやもっと小動物かも。
ちょっとしたお茶目なやりとりレベルですよこんなもん。
「……これが目録だ。確認願おう」
「拝見いたします」
ほほう、これはこれは……かなり本格的にあれこれが書かれています。
ただ寄子のミスに巻き込まれたにしては、あまりにも本格的な謝罪態勢にこちらとしても内心怯んでしまいそうですが、まあ適当に良さげなものを選んで丸く収めるのが得策でしょう。
他の侯爵家にとっても、マール侯爵家が醜聞になっては困りますし……あまり高価なものをラッキーだともらってしまっては、大した騒ぎでもないのに持って行くだなんて王女は酷い……なんて話になりかねませんからね。
どこでボヤが大火事になるかわかったもんじゃありません!
「マール侯爵家は堅実であるべき」
ふと、先程侯爵が仰ったことを私が復唱すると、ぴくりと眉が跳ね上がりました。
さっきからそれに引っかかったわけですが……大体予想はついております。
(そうよね、なになにであるべき、みたいな言い回しの時って大抵厄介なのよ)
特にこの貴族社会においては!
ファンディッド家も、長いものには巻かれろってご先祖様から代々伝わってますけども……あれだって貴族としての処世術ですからね!?
弱いって言うな。子爵家なんてそのレベルですよ。
「堅実なるマール侯爵家の皆さまには、これからも貴族社会の模範であっていただきたいものですね」
「……過分なるお言葉であるな」
「そうでしょうか? 子爵家の娘にすぎない私には、とても好ましいお姿ですが」
私は目録の一点を指さしました。
それは文具のセットです。
異国の品な上にその国でも高級文具と言われている類いのものですが、どんなに振っても文具は文具。
良くも悪くも何もない。
ただ細工が綺麗な逸品ですよ!
「こちらを。王女殿下は勤勉なる御方。きっとマール侯爵家の忠心を喜んでくださることでしょう」
「……承知した。明日にでも、届けさせよう」
「ありがとうございます。……夫人もどうぞ、これ以上お気になさいませんよう」
ビクッと肩を跳ねさせたマール夫人の顔色の青いこと青いこと!
見ていて可哀想になってきましたが、これ以上は私が何かを言うのも変ですしフォローはしきれませんよ。
心からの『気にしなくていいからね!』でしたが、きっと彼女は今何を言っても『裏があるんじゃないか!?』って思っていることでしょう。
貴族社会って怖い。
「え、ええ……」
「ライアン、お客さまがお帰りよ。城の出口までお送りして」
「かしこまりました」
ライアンは賢いですからね。
言わずともプリメラさまが言ったようにご夫妻が帰るルートは庭を通って行くことでしょう。
え? わかってるよね?
副題:マール夫人はずっと胃が痛い。




