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……とは言ったものの、こちらのマール侯爵夫人。
正直なところ『社交の苦手な』方だということを私も実は存じ上げております。
どのような方かと申しますと――ご家族ラブ、ですね。
旦那様となる侯爵は大変不運な方で、これまでに婚約者を三人代え、四人目となったのが現夫人です。
お互い初婚同士。
一人目の婚約者は駆け落ちでいなくなり、二人目は婚約期間中に病気で体を壊したので辞退、三人目は性格不一致……貴族の政略結婚で性格不一致って相当ですね?
まあともかくそのように不運が続いた結果、年齢が合う相手がいない中で立候補したのが四人目の現夫人。
なんでも侯爵に幼い頃に一目惚れして以来、その不運をチャンスと捉えて掴み取ったんだからまあそりゃ素晴らしいと思います。
でもその情熱さがなんと性格そのものと申しましょうか、この方、結構……こう、表情に出るタイプというか。
ビアンカさまからも以前『侯爵家の人って大抵面白いのよねえ、そこが公爵家に陞爵できない理由なのかしら』って冗談を言われたことがあります。
いやそういう理由の陞爵できないって聞いたことないからこその冗談ですからね?
まあとにかく、確かに侯爵家の人たちって私が知る限り変わった人が多いというか……。
ナシャンダ家は出世欲皆無。自分の好きなことに没頭したい。
ピジョット家はいい人だけど貧乏子だくさん、やっぱり出世欲皆無。
レムレッド家は……なんというか、腹黒いのかもしれないし?
バルトチェッラ家はほら、ねえ……?
確かにちょっと変わったところがどこの家にもありますね!
まあ侯爵家に限ったことじゃないと思いますよ!!
(この人がやりたいことはそう――権力争いや、己の力を見せつけたいわけじゃない)
喧嘩を売っている先は、私や王家ではないのです。
むしろ彼女は王権に対する忠誠心高い家の夫人としてそのことに誇りを持っていますからね!
ではどこに売っているのか?
そう、それは……ずばり、スカーレットなのです!!
要するに同じ侯爵家という立場、同じく娘という立場。
王女殿下に気に入られてこうして茶会の場にまで同席させてもらえるようになったスカーレット。
(つまり『うちの侯爵家の方が、うちの娘の方が負けてませんけど!?』ってことなのよねえ)
だからまずはプリメラさまの友人という立場をゲットして、この男爵夫人たちを粛清するついでに私に恩を売って王女宮の侍女に我が家の娘を……そしてゆくゆくは王女殿下の信頼を勝ち取ってスカーレットより上へ!
できるできる、可愛いうちの子だもの!! ってな感じでしょう。
もうちょっと貴族的思考が入り交じっていることでしょうが、ざっくりこんな感じだって私は見抜いておりますよ。
「本当にごめんなさいね、王女宮筆頭」
「……いいえ、侯爵夫人がそのように仰ってくださったのであれば私としては申し上げることはございません」
お礼は言いませんよ、あっちは『ありがとうございます』を引き出して話を繋ぐつもりだったでしょうがこっちも社交慣れは確かにしてませんけど権力者との会話は慣れてますからねええ!
……いや、色々おかしいな?
まあ、いいんですよ。
気にしたら負けです。
王女宮はプリメラさまのために働く場所であって、権力欲を顕示していく場所ではないのです。
勿論、派閥や利権、あれこれと渦巻く王城の中でのことなので、切っても切り離せませんけども。
でも、忘れてはなりません。
(私は必要とあれば、貴族令嬢だろうと罰としてお掃除をさせる女ですからね……!!)
それを知ってなお娘を預けたいって気概はあるのか、マール夫人!!
変わり者が多い(語弊がある)侯爵家の情熱家夫人は果たしてユリアの心に響く言葉を投げかけられるのか!?
次回、悪魔の数字の666話。波乱はあったりなかったり?(どっちだ)




