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「ドゥエ男爵夫人」
「は、はいっ!」
私に一生懸命訴えていた、オトモダチの方の女性が侯爵夫人に声をかけられてびくぅっとわかりやすく肩を跳ねさせました。
ご友人も元は平民出身で、男爵に請われて後妻に入った……というような話だった気がします。
(前妻は病気で亡くなったためまだ子どももおらず、教会の手伝いをしていた彼女に男爵が一目惚れ……だったっけ?)
ちなみにそれはデボラさん情報です!
私が調べたのは男爵家の後妻ってところまでですね。
「ウノ男爵夫人」
「は……はい……」
そして私に一生懸命絡んでいた男爵夫人は震えていましたね。
真っ青な顔しちゃって、侯爵夫人がそんなに怖いのでしょうか。
いやまあ、怖いか!
寄親怒らせるのはよくないもんね!!
寄親を怒らせたらその派閥全体からそっぽを向かれるということに等しく、家業が立ち行かなくなる人だって出るほどの影響がありますから……。
勿論、全ての寄親、寄子がそういう関係ではありませんがこちらの侯爵家の実情としてはなかなか厳しい上下関係があるようだと思いました。
まあ、新参者であろう彼女たちの言動を見るからに、これまでも侯爵家主催の催し物で何かしらやらかしていそうな予感がいたします。
平民から貴族になるって、ルールやその他色々と変わりますもんね。
そう、あのミュリエッタさんだって苦労していたわけですし。
(……いや彼女の場合は、自分から地雷原で軽やかタップダンスをして底なし沼に落ちていっちゃった感があるか……)
それにしても侯爵夫人、大変素敵な笑顔ですが家名で呼んじゃうあたりはお怒りなのでしょうか?
ここは確かに主催者の立場としてきちんと叱るべき状況だから当然と言えば当然でしょうが、呼ばれた二人は冷や汗が止まらない様子。
ちょっとだけ可哀想になってきました。
勿論、何も口出しなんてせず涼やかな顔で私は立っているだけですけど!
ここで下手に口を挟んだところで、私は彼女たちを助ける立場にありませんし余計なお節介ってヤツですよ。
もしこれがプリメラさまから『あの二人を助けてあげて』などの指示があれば別ですが、それがない以上私はそこら辺の観葉植物のように気配を消すのがベストです。
そう、私は観葉植物……絶対巻き込まれているから観葉植物でいさせてもらえないけど、とりあえずその気持ちを忘れてはなりません……。
侯爵夫人が色々とお二人に対して優しく、かつねちっとお説教をしていることを掻い摘まんで解釈してみればまあやはり予想したとおりってところでしょうか。
彼女たちはすでにいくつかやらかしていて、今回王都での二人の様子を見て今後について判断すると侯爵夫人は決めていたこと。
自分たちが貴族として相応しい振る舞いができていると言うのであれば、次の社交界に連れて行ってもいいと思っていたがまずはどこかに働きに出て経験を積んだ方がいいと助言したこと。
それを盾にまさか王家の侍女を望むなど、ありえない。
よって当面社交界には連れて行けないと判断したので、領地に戻り夫の補佐をしながら貴族としての品位を学び直すように、と。
(……こうなることを見越しておいて、よく言うわあ)
だってわざわざ王女殿下の参加するお茶会に、そんな未熟者を出すか? って話ですもの。
子どもたちの交流が主とはいえ、ね。
(漁夫の利どころか、欲張りセットね。きっと)
侯爵夫人がこちらを向いたので、私は頭の中でゴングが鳴ったのを感じたのでした。
やったろうじゃないか!
決して好戦的ではないが、基本的に売られた喧嘩は(王女宮の品位を落とさない場合に限り)買うタイプの主人公である。




