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「……私が申し上げるところではございませんが、男爵夫人はこちらの侯爵家の寄子だったかと思いますが……そちらのご友人の方も同様でしょうか」
「え? ええ、そう聞いているけれど……」
プリメラさまが参加するお茶会ですからね。
参加者の情報は私も一通り頭の中に叩き込んでいるわけですが……。
この男爵夫人はそこそこ大きな商会を営む方で、旦那さんが商売に成功してとある没落貴族から爵位を譲り受けたんですよね。
まああんまり外聞のいい話じゃないですからね、基本的には国が仲介して……という扱いで、その土地の領主などが爵位を買い取るのです。
個人間での売買は取引禁止ですよ! 一応ね!!
で、その爵位に関しては回収したその領主が自分で保管しておく場合……これは家族などに譲る場合にあると便利ですのでね。
その場合は国に一定の金額を御支払します。買い取った金額にプラスいくらかってところでしょうか。
逆にそのまま国に返上すると、買い取り金額分を国が払ってくれるという仕組みですね。
勿論、こんな綺麗な感じでやりとりしているのかっていうとそうじゃないケースも諸々ありますんでね、そこはまあ……ごにょごにょ。
ちなみに没落するだけして一族誰も所有権を持っている人が見つからない状態だと、男爵レベルなら貴族名鑑で名前を消しておしまいです。はい。
まあそういうわけでこの侯爵家が仲介して爵位を得た男爵家なので、家臣団の一員と呼ぶには新参……という立ち位置ですね!
おそらく今は寄子として教育されている真っ最中とかそんな感じじゃないでしょうかね?
「……そういうことは、まず主家を通さねばならないことを理解して言っているんですよね?」
つい問い詰めるような口調になったことは許していただきたい。
そのくらい強く言わないとちゃんと聞いてくれないような気がしてですね……決してイラッとしたからとかそういう理由ではないのです。
この方が私を〝侍女〟として軽んじるのは別にいいんですよ。よくないけど。
スルーしちゃったっていいんです。ええ。
この方に先程私は『紹介者に対する責任』なんて説きましたが、私もプリメラさまの評判を落とすわけにはいかないんですよ。
(……それにしてもお茶会の主催者が何も言ってこないってことは、そういうことよね……)
プリメラさまを遠ざけて、安全にお楽しみいただいている間にこうなっているのはあまりにもできすぎっていうかですね。
まあ勿論お客さまの事が第一ですよね?
わかっておりますとも!
でもこれ、男爵夫人をテストしているのでしょうか?
それとも、これから子爵夫人となる私をテストしているのでしょうか?
いずれにせよ、そういったものを感じざるを得ません!
「侯爵夫人が貴女を推挙するというのならば、私もこの場である程度貴女の実力を確認する程度の協力はいたしましょう」
あくまで確認だけですけどね!
確認して良いところと悪いところ、両方教えて差し上げますとも。
その上でさらに王城の侍女試験に応募したいと仰るならば、侯爵夫人に口添えくらいはしてもいいかもしれません。
まああまり侍女に向いているタイプとは思えませんし、侯爵夫人はそんなこと考えていないような気がしないでもありませんが……。
「まずは侯爵夫人の意向を仰ぎましょう。それが一番穏便です」
私が淡々と言えば、女性たちはただオロオロするばかりでした。
うーん、今の段階で上手く躱せないと王城じゃやっていけませんよ!
「あらまあ、当家のお客様にご迷惑をおかけしてしまったようね」
そうこうしている間にその侯爵夫人がこちらにやって来ました。
お若いお嬢さま方は庭園内にある別のところに移動を始めています。
母親世代から上の……つまり、まあ、なんていうか。
家の中の権力を握ってそうなご婦人方だけがここに残されたってわけですね。
やだもう。
王城に帰りたい!!




