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「本当に侍女になりたいんじゃないのよ、ただちょーっとだけ侍女になれるかも? ってくらいでいいの!」
「無理です。申し訳ございませんが、諦めていただけますでしょうか」
段々イライラしてきてしまいましたよ!
いやあもうしつこいのなんのって……でも無下にもできないこの辛さよ。
基本的に貴族ってのは当主、その代理権限を持つ妻、令嬢令息と身分にはっきりとした話があるわけですよ。
で、形的には爵位での序列でいけばまあ当主でも格上の夫人には劣る、みたいなところがあってですね……。
つまりこの男爵夫人は私を『ただの侍女』で『子爵〝令嬢〟』ということでこう居丈高に振る舞っているってわけですよ。
(……このお茶会の主催者が私に対しても礼儀正しい態度で接してくれていたことなんて眼中にないんだろうなあ)
確かに私は侍女です。
でも王宮の侍女なので、いわゆる官吏であり、役職持ちなのです。
確かに侍女と聞くと、貴族夫人のような立場の人たちからは見下されがちですが……国家公務員ですからね?
しかも私、役職付きですからね?
それも、王女殿下の専属侍女ですからね!?
ぶっちゃけそれらを差し引いても貴族としての爵位こそが全て! ってタイプだとすれば、子爵令嬢だからと思っているんでしょうが……私、そのうち子爵夫人になりますけども?
結婚した後とかの推移を考えて、あまりやんちゃな言動は控えるのが貴族としての嗜みというものです。
ビアンカさまなんて良いお手本中のお手本ですものね!
あのように気さくでありながら常に周囲の動きを把握した上での言動ですからね!!
(……冷たく遇って知りませんで終わりにしてもいいんだけど、それで騒がれても困るしな……)
ファンディッド家に文句を言ってくることはないでしょうが、この男爵夫人たちは侯爵家とどのような繋がりがあるのかしら?
今日の顔ぶれについては私も一応、どこの派閥がどうってのをチェックはしてきましたがこの男爵夫人についてはあまり情報がないっていうか、大した情報がなさすぎて逆になにもわからないっていうか。
「……男爵夫人、王城の侍女は貴族家で雇う侍女とは異なるのです。その点をまずはき違えておられることを自覚してください」
「なんですって?」
「確かに紹介状を受けて、王城の侍女見習いに招かれることもあります。ただしそれは紹介した人間に対し、責任を担わねばならないことをわかっていますか?」
そう、紹介したらそれで終わり……なんてことはありません。
どこの貴族家でもそこはそうですけどね!
紹介した人がとんでもない人だったら『よくもあんな人をうちに紹介したな!?』ってなるでしょ?
それが王城よ? 普通に考えてヤバイですからね?
なーにが『本当に働くわけじゃないの、紹介してくれたら働けるかも?』ですか。
働く気もないのに王城ってステータスでそこに紹介できるくらい有能なのアピールでもしたいんでしょうが、私は認めませんよ!
こちとら、誇りをもって働いてるんですからね!
私の言葉に男爵夫人は怯みましたが、その周りのご友人が彼女を支えるようにして「あ、あの、違うんです。王城にお勤めなことを軽んじているわけではなくて……!」と言い出しました。
どうやら男爵夫人は夫と喧嘩しているらしく?
いつだって働きに出て別れられるんだぞってところを見せたい?
でもそこらの貴族家にお願いしたら、夫のツテでの知り合いばかりだからきっと夫の味方をするに違いないから?
「王女殿下が参加するお茶会なら、その侍女にお願いして一時的に……ですか」
ばっかじゃね~~~~~~~の!?
咄嗟にそう言ってしまいそうでしたがぐっと堪えました。
しかし心の中では叫んでしまいましたね。
いけない、淑女淑女。
心の中も淑女であれ! いやむり!!




