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27 妖狐

うーむ、武尊が本当にいない。武尊がいないと、プールに行くとき服の下に水着を着ていったはいいけれど、家にパンツを置き忘れてきちゃったような、そんな落ち着かない気持ちだ。ってどんな気持ちだ。


白翼種の集まりに定期的に参加することを条件に、今まで通り看護学校に通えることになった。無事日本に帰れるのは嬉しいけれど、武尊がいないと、なんかちょっとだいぶ寂しい。


空港までは宮下さんが送ってくれたが、帰りの飛行機も一人だった。空港に着き、日本だなーと思えるムワッと湿った空気にホッとし、ぼーっとしたまま人ゴミの中を歩いていると、急に背中がゾクリとした。なんだろう、この感じ。まさか、天狗殿が?


あわててふり返ったが、天狗殿らしき人はいない。かわりに妙に目立つ人を見つけた。スラリと長い脚、艶やかな黒髪が背で揺れ、大きなサングラスで顔の半分が隠されている。顔は見えないけれど、なぜか絶対美人だとわかる。


モデルさんかな?

思わずがん見しているうちに、どんどんその人は近づいてきた。


「あなた、井上空でしょ」


いきなりその人はいって、サングラスを外した。

ビックリした。初めて本物を見るけれど有名な女優さんだった。


黒曜咲こくようさき! さんですか??」


綺麗すぎる。

けど、どうして私の名前を……?


「そ。 あなたの世話を頼まれたのよ。久々に半日フリーで買い物に行く予定だったのに、神野殿の頼みじゃ断れないじゃない」

ブツブツと文句をいっている。


「世話って……どうして? 神野って神野武尊のことですか」

美人女優が目の前にいるだけで驚きなのに、いきなり名前をよばれ、世話って……どういうことだろう。


「そーよ。彼から頼まれたのよ。家まで送れだの、天狗から守れだの、ばっかじゃないの。そんなに心配なら自分で面倒見ろっつーの。車を待たせてあるから、さっさと行くわよ」


黒曜咲はあごをしゃくり、長い脚でさっさと歩いていく。荷物をゴロゴロ引きながら、慌てて後を追った。


「あなた、鳥人間の白翼種なんだって? 白翼種って西ヨーロッパでハバを利かせているんでしょ。何故日本に帰ってきたの?」


武尊の知り合いみたいだけれど、どうしてそんなことまで知っているの?


「街中はいいけど、田舎は妖怪の縄張りがあるから気を付けるのよ。神野殿がこの付近の主には話をつけたといっていたけど、彼に作ってもらった護符はちゃんと持ってる?」


私が護符を持っていることまで知っているらしい。首をかしげていると、先を歩いていた黒曜咲が振り返った。


「あー、私もお仲間だから。妖怪の妖狐よ。狐の類。一応あなたの味方だから」


狐さんか。ミステリアスな女優、黒曜咲にピッタリだ。

「化けたりするのですか」

私がきくと、黒曜咲はフンと鼻を鳴らした。


「あったりまえじゃない。女優は化けるのが仕事なのよ。役に合せて変幻自在に外見も少しずつ変えているわ。一時やりすぎて整形疑惑が出たから、それからは控えめにしているけど」


黒曜咲、美貌だけではなく、役者として定評のある女優さんだ。そんな役作りをしていたとは。


「じゃあその美貌も狐さんの術で化けているのですか。ホントはもっと不細工……」


ゲンコツが降ってきた。


「もともと美人なのよ! いったでしょ、役にあわせて少しづつ変えているだけだって。周囲になじめずにいた私に天狗を紹介してくれて、狐仲間に会わせてくれて、女優という道を提示してくれたのは神野殿よ。だから彼には頭があがらないの。そうそう、一つあなたに忠告しておくけどね、天狗は私のだからね! 彼に手を出したらコロスから。天狗があなたに惚れていて暴走ぎみだから阻止しろって神野殿から命令されてるの。もちろん言われなくても阻止するわ。覚えておいてね」


指をバキバキと鳴らして、どす黒く笑う黒曜咲、怖すぎ。

あわててブンブンと首を縦に振った。

天狗殿、こんな美人女優に想われていたとは驚きだ。


「全く、こんな乳臭い娘のどこがいいんだか」


私をジロジロ観察し、ボソリとつぶやく黒曜咲。

そーいうあなたは乳でかい娘ですね。


「天狗殿は私に翼があるから執着しているだけだと思います。狐さんと天狗さんは種族が違いますよね。黒曜さんは気にしないんですか?」


私がきくと、ちょっと寂しそうな顔をした。


「日本の妖怪は絶滅寸前だからね。伴侶を選んで子孫繁栄なんて時代は終わってしまっている。もともと私達妖怪は人間の願いや怖れ、想いから生まれたらしいから、それが消えればいくら種族を繁栄させようとしたって、消えるものなのかもね。でもね、怖れや願いが技術に変わって、便利になるのも悪くないって思うけどね。それにひきかえ、白翼種は伴侶選びにもいちいち口出しされて大変ね。そうそう、あなた、三年間干物女決定なんだってね」


私を見て面白そうに笑う黒曜咲、今いったい何て言った?


「三年間、干物女決定?? いったいどういうことですか?」

不吉な言葉だ。


「あなたが日本の学校にいっている間、白翼種以外の男と付き合わないよう、徹底ガードするらしいわよ。もちろん神野殿も対象よ。彼、本部からあなたに直接会うことを禁止されたんだって」


なんですとー??

本人抜きで勝手にそんな酷い事決めちゃって、どうしてくれるの??

それで武尊は消えちゃったの?

武尊、そんな禁止令に大人しく従っちゃうわけ?


「で、私にも神野殿を通してあなたをガードする協力依頼がきているの。神野殿はあなたが心配で仕方ないみたいね。私としては、天狗とあなたがくっつくのさえ阻止できれば後はどーでもいいと思っていたけれど、何だか面白そうね。ま、そーいうわけだから、青春頑張ってね」


協力依頼ってことは、武尊も私の干物計画に加担してるってこと? 冗談でしょう? 

黒曜咲はうふふと楽しそうに笑っている。

何をどう頑張れというんじゃー!!


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